第58話 悲しむカサンドラ
「フラン……」
崩れた洞窟を見て俺は唇を噛み締め、他の人は目を潤ませる。
「フランさん……どうして……」
「フランさん……」
「フラン君……これからだというのに……う……フラン君!!」
カリンとエルシアは跪いて悔しそうにしていて、エリカはフランの名前を大声で叫ぶ。
カサンドラを無事に助けて、自分はあの岩の中に……
俺だって、今にも泣きそうだ。
ブーちゃんとヘラクレス君はもう自由の身になったはずなのに、ずっと崩れた岩を見て、涙を流している。
昆虫でも泣くんだな。
カサンドラはというと、
「フランさん……フランさん……私……うう……」
クリスタルのような涙を大量に流し、崩れた岩の洞窟のところへ行く。
「カサンドラちゃん!そこは危ない!戻るんだ!」
言って、俺が止めようとしたが、カサンドラはどうやら俺の言葉が聞こえないみたいだ。
彼女は崩れた岩を持ち上げようとする。
だが、大きな岩はか弱い少女の力だとびくともしない。
カサンドラは悔しそうにしゃがんで、岩を両手で叩きながら口を開く。
「私……今までずっとフランさんにひどい言葉をいっぱい言って……私なんか助けられる資格もないのに……クザンおじさんと手を組んで、私に悪いことをしても全然おかしくないのに……私を救って、自分はあの中に……」
カサンドラは、乱れた自分の姿なんか気にする風もなく、彼女の涙は岩を濡らし続ける。
「ごめんなさい……ごめんなさい……私が全部悪いですの……フランさん……罰を受けるべきは、私とお兄様ですの……こんなの……こんなの私は認めません……絶対認めませんわ!!」
カサンドラは、手をあげる。
そして気合を入れ始めた。
「はああああああ!!!」
すると、いきなり風が吹いてきた。
「カサンドラさん……」
そんな彼女の姿をカリンが切なげに見つめる。
「私の全部を……全部を!!!」
カサンドラは目を大きく開けて、風を呼び寄せる。
すると、あたりはまるで台風でもきているかのように、甲高い音を上げて強い風が吹いてきた。
どうやら、この岩を全部飛ばすつもりだ。
彼女の属性は風。
そして、幼いけど、学園一位だ。
決して侮ってはならない女の子だ。
「はああああ!!!!!」
カサンドラの声と共に、この辺りに巨大なトルネードができてしまった。
「カサンドラちゃん!私の所に来て危ない!そこは危ないわ!」
「あなた方のところには岩が飛ばないようにいたしますので……ご安心を……」
「カサンドラさん……泣いている……」
カサンドラは言動こそ凛々しいが、カリンが言ったように、魔法を使いながらとても悲しく泣いていた。
きっと、今のカサンドラだと、フランと仲直りできるだろう。
今の彼女ならできる。
彼女の魔法により、岩が飛ばされていく。
このままだと、もうすぐフランのいるところが見えてくるだろう。
もうちょっと……
もうちょっと……
今だ。
「カサンドラちゃん!あの岩だ!おそらくあの岩の中にフランがいるはずだ」
「カールさん……わかりましたわ!っ!ちょっと、魔力ぎれではありますが、フランさんのことを思うと、こんなのへっちゃらですわよ……はああああああ!!!」
カサンドラはまた大量の魔力を消費し、巨大な石を飛ばした。
風は、
カサンドラがフランの姿を見た途端、止んだ。
「フランさん……フランさん!!!!!!」
フランは目を瞑って横になったまま動かない。
カサンドラは、フランのいるところに駆けつけ、しゃがみ込んで自分の耳を彼の胸に近づかせる。
「心臓の音が聞こえる……これは一体……」
カサンドラは信じられないようにいうと、エリカとカリン、エルシアが駆け寄って驚く。
「生きてるんだ……お兄様……お姉様……フランさんは生きていますね……」
カリンが感動したように、俺とエリカを見て言うと、エリカが涙を自分の手で拭って口を開く。
「カール……こんなの、ありえないわ。あなたでしょ?」
エリカの問いに俺は頬を緩めていう。
「死なれてたまるかよ。岩に憑依をかけて、フランを守らせたんだ。でも、死ぬ可能性もあったからヒヤヒヤしたな」
俺が後ろ髪を掻きながら言うと、エリカが俺の腕にくっついて言う。
「そんなのは早く言ってよ……私、心配したから」
「悪かった」
「ふふ、いいの。あの二人を見たら、怒る気にもならないわよ」
エリカに言われてカサンドラのところへ目を見遣れば、
カサンドラはフランを自分の膝に乗せて、彼の頭を撫でていた。
フランは気を失っているからずっと目を瞑っているけど、カサンドラは透き通る自分の瞳を輝かせて、彼の灰色の髪を撫でていた。
すると、もう自由になった二匹の虫がフランに近寄ってくる。
「……」
カサンドラは顔面蒼白で緊張しているが、逃げたりはしない。
ブーちゃんとヘラクレスくんは、気絶しているフランを見て、跪いた。
カサンドラは、まだフランに忠誠を示すブーちゃんとヘラクレスくんを見て、申し訳なさそうに言う。
「この前はひどいこと言ってしまい、本当に申し訳ございませんでした」
カサンドラが頭を下げると、ブーちゃんとヘラクレスくんは頭を縦に振り、「もう大丈夫」と心の中で言ってくれた。
「ブーさんとヘラクレスさんはもう自由の身なのに、フランさんと一緒にいたいですか?」
カサンドラの質問に、ブーちゃんとヘラクレスくんは翼を広げて激しく頭を縦に振った。
『もちろん!我々はずっとフラン様に仕える!』と言っているような気がしたカサンドラは口角を微かに上げていう。
「ずっと一緒にいたいほど、フランさんは格好良くて優しいお方ですね」
と、言うと、ブーちゃんとヘラクレスくんは今度は優しくゆっくりと頷いた。
俺が安堵していると、エリカが俺に小さく耳打ちした。
「ほら、現れたじゃない」
「前途多難だな」
「そんなの勢いで乗り切りばいいのよ。昔の私たちみたいに」
「そうか」
「いっぱい手伝ってあげようね」
「ああ。フランのやつは俺が面倒見ないとダメだからな。あと、洞窟の中にいた虫達を倒してくれてありがとう。お陰でうまくいった」
「やっぱり。カール、大好き」
「お、おい……」
エリカは巨大なマシュマロの間の谷間に俺の頭を埋める。
やばい……
幸せすぎる。
努力したご褒美がエリカのおっぱいなら、いくらでも頑張れそうだ。
なにより、エリカが幸せそうにしているから、フランとカサンドラを破滅フラグから救って良かったなって思えてきて俺まで嬉しい。
まあ、俺たちもダイエットをしたことによって、原作のストーリーをぶっ壊すことができたわけだから、
勢いは大事だ。
強い気持ちは原作をも超える。
X X X
マックナ帝国
オルレアン商会
「傭兵たちからカサンドラに関しての連絡は!?」
「ご、ございません……まだ……」
金髪のイケメンがメガネを光らせて執事に自分の妹のことを訊ねるも、欲しい返事は返ってこない。
カリンの兄であるエリックは握り拳を作り、
「ビジネスの予定はキャンセルだ。今すぐオルビス魔法学園に向おう」
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