第56話 誰が正しい?
「てめえ、一体何者だ!?」
俺が彼を問い詰めるようにいうと、彼は口角を吊り上げて悪役面して言う。
「俺の名前はクザン。そういうお前たちはオルビス魔法学園の生徒のようだな?」
逆に俺たちに問うクザンという名前の男は巨大なムカデを撫でて地面に下ろした。
その巨大なムカデは俺たちを警戒し始める。
「お前が拉致したあの女の子を連れて帰るためにやってきた!彼女が誰なのかお前知ってるはずだ!」
俺がクザンに睨みを効かせていたら、むしろ彼の方が俺を睨み返してくる。
「ああ。知ってるとも。マッキナ帝国のあのオルレアン公爵家の次女のカサンドラちゃんだろ?俺は貴様よりカサンドラちゃんのことを知り尽くしている。カサンドラちゃんだけじゃない。オルレアン商会のこともよく知っている」
「なに?」
こいつはカサンドラの家族と何か縁でもあるのだろうか。
確か原作だと、カサンドラは昔、一回拉致られたことがあったとの情報があるが、もしかしてそれと関係があったりするのだろうか。
俺の予想を裏付けするように、クザンは続ける。
「うっへへへ!エリックは俺の大切な存在たちを奪おうとしている。だからエリックにとって大切な存在であるカサンドラを奪うのは自然の摂理だよ」
なぜそこでカサンドラの兄であり、オルレアン商会の副会長の名前が出るんだろう。
「一体、私のお兄様が何をしたんですの……」
か細い声音で問うカサンドラにクザンは気持ち悪い表情を浮かべて返事をする。
「ひどいことをしたよ。もし、ここにいる昆虫テイマー君がそれを聞いたら、カサンドラちゃんを助けたりしないはずだろうな」
「……」
「大丈夫。早くここにいる奴らを全部追っ払っておじさんが可愛がってあげるね〜カサンドラちゃん大好きなお兄様の前で、たっぷりおじさんが愛情を注いでやるからね〜」
「……いや……」
カサンドラは恐怖を感じるのか、全身をブルブル震わせる。
そこへ、
「ブーちゃん!カサンドラ様を助けて!」
「ブウウウウウウウ!!!!!」
フランが自分の巨大マルハナバチであるブーちゃんに命令した。
1.5メートルほどの体はヘリコプターのような力のある羽ばたきによって早い速度で飛行する。
が、
「ビュエエエエ!!」
クザンの巨大ムカデが起き上がってブーちゃんを阻止した。
「ブウウウウ!!!」
ブーちゃんはお尻から毒針を出して、それでムカデに刺そうとするも、ムカデは器用に避けつつ、複数の足で反撃する。
どっちも負けず劣らずの接戦だ。
こうなったら、俺も動かないと。
「憑依……」
俺は周りの石っころに憑依をかけて、クザンに攻撃を仕掛けた。
しかし、
どこから現れたか分からないが、巨大な蛾がクザンを守り、俺たちを威嚇しながら飛んできた。
すると、
「ヘラクレス君!カール先輩とカリン様を守って!」
「グウウウウ!!!」
フランの命令によりヘラクレス君は俺たちを巨大な蛾の攻撃から守ってくれた。
しかし、
蛾からは粉が出て飛散した。
それを素早く察知したカリンが手を上げて唱える。
「クリーンエア!」
すると、蛾の粉は一瞬にして収まった。
それと同時に、複数の巨大な昆虫たちが俺たちに迫ってきた。
ヘラクレス君はと言うと、蛾を押し退けて俺たちの前でやってくる巨大な虫たちと対峙した。
これは相当不利だ。
「お兄様……」
「カリン」
カリンが小刻みに体を震わせ、俺の腕に抱きつく。
他の戦術を使う時がやってきたようだ。
やがり、睡眠だけだと都合よく行かないか。
「カリン、これから俺は魔力を大量に使うことになる。魔力ヒーリングを使って補ってくれるか?」
「は、はい!お兄様に従います」
「ヘラクレス君!俺たちを守ってくれ。時間を稼いでほしいんだ」
俺が前にいるヘラクレス君に頼むと、ヘラクレス君は翼を広げて応えてくれたのち、俺たちを攻撃する虫たちを巨大なツノで追い払い始める。
よし。
「集中……」
密かに俺は唱え、この部屋にある敵の虫たちの情報を収集する俺。
だが、
「っ!!ものすごい情報量だ」
魔力の消耗が激しい。
「お兄様……すぐ私の魔力を分けてあげます!魔力ヒーリング!」
ここにいる敵の虫の数はムカデと蛾を含めて十匹。
この巨大な虫たちの行動パータンや構造などが細かいところまで含めて俺の頭の中に入ってきた。
こんな複数の生命体に対しては使ったことは初めてだ。
頭が痛いが、俺はどうしてもこの敵の虫たちの情報が必要だ。
フランを助けるために、どうしてもほしいんだ。
だけど、中途半端な情報量だと返って悲劇を招きかねない。
「魔力の減りがすごい……お兄様……」
カリンは俺を抱きしめて、魔力の供給量を増やしてくれた。
フランはと言うと、
カサンドラが見ている前で善戦している。
ブーちゃんは空を飛べるという長所を生かし、巨大なムカデを攻撃しつつ、俺たちのところから離れた虫たちにも攻撃を加えている。
「フランさん……」
ブーちゃんとヘラクレス君をコントロールする真面目なフランの顔を見ているカサンドラ。
彼の虫は本当によく戦っている。
クザンの虫を圧倒するほどに
「っ!まだ小さい昆虫テイマーのくせに、どうしてこんなに強い昆虫をテイムできてんだ……お前、一体何者だ!」
「僕はフラン。農家の末っ子です」
「農家!?ってことは君は平民か!?」
「はい。でも、今はそんなことはどうでもいいです。早くカサンドラ様を解放してください」
「ふっ!それはできないな」
「ん……」
フランは目力を込めてクザンを睨め付ける。
彼の眼差しはどんな貴族よりも鋭く、威厳がある。
ブーちゃんは自分の主の意思を汲み取って、よりムカデを責め続ける。
このままだと勝算はある。
「フランさん……あんな必死に……」
カサンドラは目を潤ませて、やるせない表情を浮かべる。
「もうすぐこの虫たちを倒しますので……もうちょっとの辛抱です」
「……」
フランの真面目な面持ちを見て、カサンドラは口を噤んで、唇を噛み締める。
どうやら良心の呵責を感じているようだ。
このままだと、二人が仲直りする確率は上がる。
と、頭を抑えつつ微笑む俺に、
クザンの卑屈な声が聞こえてきた。
「うっへへへへ!!!フラン君。君は本当にカサンドラちゃんを助けられるとでも思ってんのか?」
「はい?」
「だって、カサンドラちゃんの兄のエリックは、虫を全部殺そうとしてるんだ」
「え?」
「俺はオルレアン商会で働いたことがある。エリックに引き抜かれたんだ。昆虫テイマーは珍しい人材だからって」
「……」
「だから、俺はとても嬉しくなって、エリックに尽くした。エリックは俺に虫に関するいろんな情報を求めて、俺は自分が持っている全ての虫に関する情報を提供した。でもよ」
クザンは急に握り拳を作り、怒りを募らせる。
「俺が提供した虫の情報は、その虫を殺す殺虫剤を開発するために使われたんだ!!!!」
「う、うそ……カサンドラ様のお兄様がそんな……」
「うそなんかじゃない!俺は……俺は!!!あの男を許せない!!カサンドラちゃんが、人々がグロいと言って嫌がる虫は全部殺すのが合理的な考えだと言っていたあいつを……俺の合理的な考えでやり返すんだ!!!」
「……」
「フラン君、それでも君はカサンドラちゃんを助けるのかい?」
「僕は……僕は……」
「俺はエリック様に絶望を与えるつもりだ。あの野郎が誰よりも愛する妹を使ってな!!そして、虫たちを救うんだ。誰が正しい?」
「……」
クザンに問われたフランは、カサンドラの顔を見る。
カサンドラは
口をポカンと開けていて、絶望していた。
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