第55話 カサンドラの顔には恥ずかしさと罪悪感が宿っている

「ここです」

「おお……洞窟か……」


 馬を水辺付近で休ませて、俺たちはフランに案内されたまま進んだ。


 すると茂みの中から洞窟みたいなものが見えており、周りには剣や弓矢や槍や斧などを持っている覆面男たち数人が立って監視している。


 ここはイラス王国の国境からちょっと離れた無法地帯。


 なので、基本野生動物やモンスターくらいしか存在しないため、こんな犯罪者集団の本拠地にするにちょうどいいだろう。

 

 ここからは完全にオリジナルストーリーである。


 俺たちの行動一つ一つはゲームとは全く異なる新たな展開へと繋がるということだ。


 さて、どうするべきか。


 俺が考えていると、隣にいるエリカが自信満々に口を開く。


「カール。私に任せて。全部倒してくるから」

「エリカ……俺たちの正体がバレたらダメだ。なるべく静かに行動するぞ」

「……わかったわ」

 

 しゅんと落ち込むエリカだが、納得はしてくれたようだ。


 まあ、エイラさんだったら、この洞窟こと全部破壊しまくると思うがな。


 ここで、直接戦闘をするとなると、俺たちが不利だ。

 

 ここは俺の出番だろう。


 と、考えた俺は制服のポケットからワンドを取り出した。


 そして唱える。


「憑依……」


 すると、


「「っ!!ん……」」


 洞窟への入り口を守っていた覆面男たちはそのまま倒れて寝てしまう。


「え?カール先輩、これは一体?」


 フランが目を丸くして俺に視線で問うてくる。


「憑依で無性に眠たくなる自我を与えただけだ」

「憑依……先輩は精神魔法を使うんだですね」

「ああ」


 フランは納得顔で俺に憧れの視線を向けてきた。


 いや、この場所を特定できたお前の能力の方も大したものだぞ。


 そう思っていると、カリンとエリカがニマッと笑って小声でいう。


「眠たくなる自我を与えると抵抗するのは難しいですよね〜」

「ふふ、眠気に勝てる人間って存在しないから、憑依で眠らせるのはいい考えだと思うの」


 これこそ俺が練り上げた策の一つだ。


 ただ単に寝たいだけの自我だ。


 そこには覆面男の正義に反する思想や行動原理などは存在しない。


 つまり、こいつらは俺が与えた自我に酔ってしまったわけだ。


「行こう」


「「はい」」


 俺たちは洞窟の入り口の中に入った。


 薄暗い洞窟の中には、お世辞にも心地よい場所とは言えなかった。


 水滴が水たまりに落ちる音、男たちの笑い声。


 本当に気持ち悪い場所だ。


 若干鳥肌が立つが、俺は前にいる覆面男を見て早速唱える。


「憑依……」


「っ!!ん……」


 覆面男たちが見えるたびに、俺は憑依をかけて寝かせる。


 そして、フランはブーちゃんとヘラクレスくんと意思疎通しながら、カサンドラのいるところへと進む。


 よし。

 

 このままだと楽勝だ。


 睡眠を利用しての作戦はどうやら大成功のようだ。


 と、思った途端、


 フランが目をカッと見開いて叫ぶ。


「っ!!みんな!何かくる!ヘラクレスくん!」


「「っ!!」」


 フランは早速巨大カブトムシであるヘラクレスくんに命令する。


 現れたのは巨大な蜘蛛だった。


 巨大な蜘蛛の牙とヘラクレスの巨大なツノがぶつかり、大きな音が洞窟中に鳴り響いた。


 実に壮観だ。


 幸いなことに、エリカとエルシアは平気そうだ。


 しかし、カリンは怖いのか俺の腕をぎゅっと抱きしめ、くっついてきた。


 なので、俺はカリンの背中を優しくさすってあげた。


 俺は早速、あの蜘蛛を眠らせるべく、唱える。


「憑依……」


 だが、


 蜘蛛は眠らなかった。


「何!?」


 睡眠を欲する自我は、あの巨大な蜘蛛の強い意志によって弾き返されてしまった。

 

 戦闘中であるため、興奮しているからだろうか。


 いろんな原因があるだろうが、俺たちには時間がない。


 なぜなら

 

 蜘蛛だけじゃなく、巨大カタツムリや巨大ゴキブリなどが俺たちを睨んでいる。


 作戦変更だ。


「奴らを倒す」


 俺がいうと、エリカが背中の鷹の斧を取り出して、それを一振りしたのち言う。


「ここは私一人で足りるわ。みんなはカサンドラちゃんのいる方に行って」


 彼女の発言は俺を当惑させた。


「いや、エリカ!一人は危ない!ここはみんなで」

「カール。一人で足りると言ったの」

「っ!」


 エリカが鋭い視線を向けてきたので、俺は総毛立った。


 彼女は俺が知っているエリカではない。


 いつも俺に甘えて、時にはエッチなスキンシップをして、キスを迫るような色気のあるエリカではないのだ。


 一瞬だけだが、俺は彼女からエイラさんの出すオーラを感じとった。


 さすが血の戦姫が産んだ娘だ。


 現に、彼女の戦闘能力は俺をはるかに上回る。


 つまり、ここは俺が口出しするべきではない。


 いくら婚約者だとしてもだ。


「あの、エリカ様!私がサポート致します!虫は全然怖くありませんので。私の共通魔法だと、この巨大な虫たちの足を一時的に止めることができます」


 黒髪の地味メガネっ子であるエルシアが挙手してエリカに言う。


「……わかったわ。サポーターがいると、戦いやすくなるからね。じゃ、カール」

「ああ……わかった。でも、気をつけろよ」

「うん!」

「フラン、カリン、いくぞ」


 エリカは鷹の斧で早速巨大な虫たちと戦い始める。


 俺とフランとカリンは、エリカたちが気を引いてくれるおかげですんなり進むことができた。


「カール先輩!カリン様!この扉です!」


 フランに案内され扉の前にやってきた俺たち。


「ん!鍵かかっている……」


 だが、俺がいくらドアノブを回してもドアはびくともしない。


「カール先輩、すみません。ちょっと退いてください」

「お、おお」


 俺が退いた途端、ヘラクレスくんの逞しいツノがドアに当たり、そのままドアは凹んで飛ばされた。


 俺たちはいそいそと中に入ると、

 

 そこには


 手と足が拘束されたカサンドラが濁った目をしたまま下を向いていた。


 制服のほとんどが剥がされていて、年のわりに大きめの胸とそれを包む下着。そしてピンク色のパンツも。


 俺は集中と理解を使い、カサンドラの身体の状態を分析した。


 思うに、まだひどいことはされてないようだ。


「カサンドラ様……」


 フランは震える声音でカサンドラを切なく呼ぶ


 すると、


 彼女の濁った色の瞳は、だんだん元の色を取り戻した。


「え?カリンさん、カリンのお兄様……っ!フランさんも……」


 カサンドラは唇を噛み締めてフランと目を合わせないようにする。


 それもそのはず。


 平民に対して、こんな醜態を晒したのだ。


 カサンドラの表情には、恥ずかしさと罪悪感が同時に存在しているように見える。


「すぐ助けますので……」


 フランがそう言って前に進むと


「おっと、そうはいかんよ。昆虫テイマー君」

「え?」


 不細工のおっのさんが巨大なムカデを身に纏って現れたのだ。




「君、俺とをしているんだね」

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