第26話 魔法は便利。そして決闘

「レイナ王女殿下がそんなことを?」

「はい!とても親切な方です」


 ティアナが俺を起こしに部屋にきた時に昨日のレイナ王女殿下の話をしてくれた。


 まあ、確かに原作のゲームでもキモデブのカールにわりかし親切に接してくれた人だから、仲良くするに越したことはない。


 彼女は王族である。


 ゆえに、我がハミルトン家の影響力を高めるためには王家との繋がりも大事だと言えよう。


 それにしても、顔を洗うの面倒くさい。


 洗面台までいかないといけない。


 そこには多くの学生たちがいることから、朝には結構混むのだ。


 共同生活はちょっと苦手かな。


「洗面台までいくの、面倒くさいな」


 と言ってため息をつきながら軋む床を歩こうとしたら、ティアナが急に目を輝かせてすごく物言いたげな顔をしている。


 なんか子供がものをねだる時に浮かべる表情と似ているから、これは聞かずにはいられまい。


「ん?どうした?」

「あ、あの……トルネードの新しい使い方を急に思いついて」

「おお……急に思いつくなんて……なんか芸術家っぽいな。なに?」

「えっと、水魔法とトルネードを使って、カール様の体を瞬時に綺麗にする複合魔術です」

「マジか。なにその日本どころか、世界の先端技術をかき集めても実現できないチートすぎる能力?」

 

 こんなご都合主義展開に見舞われるとは。


「に、にほん?先端技術?」


 ティアナはキョトンと小首を傾げて、俺に問うてきた。


「いや、気にすることはない。俺が実験体になってやる。さ」


 俺はさっさと上着を脱いで両手を左右に広げた。


「ふ、服は脱がなくていいですけど……やらせていただきます!」


 と、ティアナはガーターベルトに手を突っ込んで、作り込まれたワンドを取り出した。


「すごい体……」

「何か言ったか?」

「いいえ!それじゃいきます!水よ来れ!薄い膜となりて、かのものの肌を覆い尽くさん!」


 ティアナが唱えると、水は薄い膜となって、俺を覆った。


 不思議なことに服は濡れてない。


 そして


「トルネード!」


 そう唱えると、俺の肌全体を覆った水が白くなる。


「おお……これは……」


 俺の体や顔だけでなく、口まで水が入り、トルネードによって綺麗になっていくことがわかる。


 数秒後、水を消したティアナ。


 鏡に映っている俺の顔と体はツルツルで、口内まで綺麗になってしまった。


「ど、どうですか?」


 ティアナは不安そうに視線をあっちこっちに向けているけと、瞳には若干の期待が宿っている。


 上半身裸の俺は、ティアナを強く抱きしめた。


「っ!!カール様」

「ティアナ、お前は天才だ」


 面倒事が減って嬉しい。


 エリカにも紹介したら絶対喜ぶ。


X X X


SSクラス


 クラス内は騒然としていた。


 一年生の場合、学園側が予めカリキュラムを組んでくれるため、みんな同じ授業を受ける。


 だが、パーティーメンバーはランダムでメンバーが決まるため、どんな人とパートナになるんだろうと、みんなドキドキソワソワしているわけである。


 その中でも目立つ存在がいる。


 主人公であるベルだ。


 やつは俺がクラスに入ってからずっと俺を睨んでいた。


「さて、今日はパーティーメンバーを決めるわけだが、その前に学生証を渡す」

 

 メガネをかけたOLっぽいノルン先生に言われた学生たちはなんぞやとキョトンとする。


 渡されたものは、小さなカードだった。



ーーー


学生証


名前:カール・デ・ハミルトン

年齢:15歳

学年:一年生

学生番号:OB132-009

決闘ランキング:9位

パーティースコア:0

成績:0

属性:精神

スキル:集中、理解、憑依

レベル:3


ーーー


 おお、この前取り寄せたやつよりもっといろんな情報が表示してある。


 まあ、ゲームのキャラ情報とほぼ一緒だけどな。


 レベルが3なのは、能力開発のためのモンスター退治によるものだろう。


「カール!」

「どうした?」

「私、カールのもの見たい!代わりに私のものも見せて上げるから」


 妙にえっちに聞こえるエリカのセリフだが、俺は大人しく自分の学生証を隣席に座っているエリカに渡した。そして、俺もエリカの学生証をもらった。


ーーー


学生証


名前:エリカ・デ・ボルジア

年齢:15歳

学年:一年生

学生番号:OB132-010

決闘ランキング:10位

パーティースコア:0

成績:0

属性:力

スキル:スラッシュ、アッパスラッシュ、ダウンアタック、鋼のボティー(パッシブ)、強化、覇気(初級)

レベル:20


ーーー


「エリカのレベルが20!?しかも、スキル多すぎるだろ……」


 俺は開いた口が塞がらなかった。


 マジック★トラップでは、レベルを上げることがとても難しいとされているが、エリカはレベルを20まで上げてきたのだ。


 みんながエリカを見てコソコソする中、ノルン先生が口を開く。


「レベルという概念はオルビス魔法学園傘下の研究機関が生み出したもの。魔物を退治することにより得られる熟練度が上がれば自然とレベルも上がることになっている。つまり、エリカはここに入る前に多くのモンスターや魔物を狩ってきたというわけだ。君のレベルはSSクラスで最も高い。さすがエイラ公爵様の血を継いでいるだけのことはあるね」

 

 ノルン先生に褒められると、クラスの男女が彼女に憧れの視線を向けてきた。


 彼女は周りの視線を気にすることなく、俺に向かって話す。


「カールのおかげよ」


 と、エリカはドヤ顔を浮かべる。


 なので、俺も微笑みをかけてあげた。


 後で部屋でたっぷりご褒美をあげようか。


 そんなことを思っていると、ノルン先生がまた口を開いた。


「あと、パーティーメンバーについてだが、」


 学生証を見てワイワイ喋っていたクラスのみんなはノルン先生の言葉に冷や水をさしたかのように静まり返る。


 ノルン先生は自分の巨大な胸に手を入れて、ワンドを取り出した。


 いや、どこにワンドを隠してるんですかい。


 彼女はワンドを持ち、黒板にそれを向けて目を瞑る。

 

 そして、


 目を大きく開けて、ワンドに魔力を込めた。


 すると、ワンドは光りながら黒板に文字を刻む。


 わずか1秒足らずでクラス全員の名前が書かれた。


 すごいな。

 

 めっちゃ便利な機能だ。


 魔法というのはときに先端技術をも上回ることもあるんだな。


 まあ、感嘆するのは後でするとして、今は俺のパーティーメンバーの名前を見るべきた。


「どれどれ……」



カール

エリカ

レイナ

ルナ


「カール!同じパーティーよ!はあ……嬉しすぎる……カールと一緒に戦えるなんて……」


 エリカが感動したように宝石のようなエメラルド色の瞳を潤ませ、俺に飛び込むことを必死に我慢しながら見つめてくる。


「そうだな。ダイエットの時もそうだけど、今回も一緒に頑張ろうな!」

「うん!」


 喜ぶエリカの顔を見て安堵のため息をついた俺だが、なんか視線を感じるので、俺は後ろを振り向いた。


 するとそこには


 ベルが殺意をむき出しにして俺を睨んでいた。

 

 本当に面倒なやつだな。


 最初に彼を見た時は自分を殺す主人公ということで少なからず意識していたけど、今は正直に言ってどうでもいい。


 確かにルナと俺は同じパーティーである。


 原作でも同じだ。


 しかし、キモデブカールはルナにひどいことをすることになっているが、今の俺は違う。


 パーティースコアを稼ぐために協力はしてもらうが、別にそれ以上の関係を求めるわけではない。


 俺には守るべき存在がいっぱいいる。


 俺はこともなげにベルから視線を外し、黒板を見る。


 すると、ノルン先生がいくつかの説明を付け加えたのち、授業が始まった。


 ベルは俺を終始睨んでいる。


放課後


 授業が終わって放課後になった。


 今日は同じパーティーメンバーで打ち合わせがある。


 各々の属性魔法や得意分野などを話し合うことにより、今後、オルビス魔法学園からの依頼をどうこなしていけばいいのかといったことをざっくり決めるための打ち合わせだ。

 

 なので、俺の席にエリカとレイナ王女殿下とルナが来ている。


 ここには男が俺一人だから、俺がリードしていかないとな。


 そう思って、口を開こうとすると




「カール!貴様に決闘を申し込む!」



 

 ベルが入り込んで、俺を指差しながら決闘を申し込んだ。


 彼は悔しそうにルナと俺を交互に見ては息を荒げていた。


 



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