第25話 友達と悪夢

レイナ第三王女side


 イラス王国の王にはたくさんの子どもがいる。


 その中にはピンク色の髪をしたレイナも存在する。


 彼女はマジック★トラップのヒロインであることから、昔からとても容貌が優れており、自分が願わなくても勝手に人々が自分を綺麗だの美しいだの美辞麗句を並べてほめそやす。


 王位継承順位は低いから目立つことをしない限り兄弟姉妹から敵意を向けられることもない。


 なので、自分は政事に興味を示すことなく、自分をより美しくするための化粧や、自分の身を守るための魔法や、男性の興味を引くための教養や言葉遣いなどを主に学んだ。


 幼い頃、教養と知識に関してはアーロン様、自分を守るための魔法はエイラ様から個人授業を受けていた。


 なので、今でもあのアーロン様とエイラ様には良くしてもらっている。


 二人の超一流エリートたちから教育を受けたレイナは美しさまでもが加わり、隣国や帝国の王子らは彼女の顔を一度でも見たくて、豪華なプレゼントを持ってきてイラス王国にやってくる。


 王子たちは彼女の顔を見た途端に惚れ込み、結婚を申し込む。


 幼いレイナはまだ冷静な判断ができなかったため、お断りした。


 いろんなことを学び、大人になってからでも遅くないと判断したからである。


 このままだと、格好いい王子様といずれ結ばれ、何の不自由のない人生を送っていくのだろう。


 最初はそう思っていた。


 男はみんな優しくて自分のために尽くしてくれる。


 自分は男がくれる愛をもらい、幸せを味わう。

 

 それを当たり前のように思っていた。


 だが、


 二つの出来事が起きる。


 まず一つ目は

 

 自分の兄である第三王子のリベラによる浮気。(4話参照)


 自分がまだ男に理想を抱いていた10歳の時だった。


 当時リベラお兄様はボルジア家の次女であるエリカさんと付き合っていた。


 実に幸せそうに見えていた二人。

 

 だが、


 王宮を一人で歩いていると、

 

『ああ、リベラ様……』

『レベッカ、君は本当に美しい』

『……あの太くてキモいエリカという女よりですか?』

『なぜそんなことを聞く?レベッカの方が美しいに決まっている』

『大人の都合なのは知っておりますが、一刻も早く別れてほしいですわ。そうすれば、私が尽くして差し上げますから』

『レベッカ……エリカなんかどうでもいい。俺はブサイクで太っている子が、大嫌いだからな』


 信じられなかった。


 あれほどエリカさんに親切で、もう婚約するのではと噂されたほど仲睦まじかったのに、あんなひどいことを……


 王宮の穴場でリベラお兄様は、とある伯爵家の次女であるレベッカという女と愛を囁き合っていた。


 普段のリベラお兄様とのギャップがありすぎて、当時のレイナは相当ショックを受けてしまい、男という存在について考え直すきっかけになった。


 だから、今日クラスでエリカさんを見た時にはダイエットに成功したようで嬉しい気持ちもあったが、自分の身内によって深く傷ついた彼女のことを思うと、心が締め付けられるように痛かった。

 

 そして、


 カールさんのこと。


 彼女はハミルトン家のアーロン様の息子であるカールさんがパーティーに参加すると聞いて、嬉々としながら自分も何の躊躇いなく参加した。


 初めてみる彼は太っていて明るい人だった。


 太っても細くても、自分はそんなに気にしてなかったため、カールさんとお近づきになろうと近寄るも、


『姫様!僕と一緒に踊ってくれませんか?』

『レイナ王女殿下は、相変わらずお美しい。きっと大人になればもっと美人になることでしょう』

『俺がリードして差し上げます。どうか俺と一曲……』


 カールさんのところへ近づこうとするも、イケメン男子たちに遮られ、しまいには


『あんなデブ男のことなんてどうでもいいじゃありませんか』

『……』


 カールさんが帰ってからは


『あれがハミルトン公爵の長男だと?笑わせるな!こっちは上流社会で認められるように頑張っているというのによ!』

『本当、馬鹿馬鹿しい。いっそのこと僕がハミルトン公爵家の長男だったらよかったんだ!』

『キモ』


 カールさんは太っているだけで、別に何も悪いことなんかしてないのに、なぜここまで怒りを募らせているんだろう。


 パーティー会場に集まった貴族の男子たちはまるで図ったかのように、カールさんがいなくなった途端に彼の悪口を言い続ける。


 まるで当たり前のように同調し、女子までもが加わる。

 

 その光景を見たレイナは生まれて初めて怒りという感情を直接人にぶつけた。


『本当に、本当にあなたちは最低最悪です!!』


 それ以降、レイナは男をあまり信用しなくなった。

 

 所詮、ほしいのは自分の体だけ。


 中身なんか二の次、三の次だ。


 飽きたら、リベラお兄様みたいに他の女に乗り換えるだろう。


 そんなことを思いつつも、エロゲーのヒロインらしく色気を振り撒き続けて、多くの王子や上流貴族の子息からプロポーズを受けるも、うまいこと受け流してきた。

 

 カールさんとエリカさんは家に引きこもっているという噂が流れ、アーロン様とエイラ様に様子を聞いてみたら、言葉をはぐらかされた。


 もどかしい気持ちを胸に秘めたままアーロン様の宰相任命式の時に変わった彼をチラッと見て、となった。


 だけどこれまで自分から男に話しかけたことはなかったから、結局何も話さず終わってしまった。


 宰相任命式は、遠いところから見たから良くわからなかったが、入学式やクラスでの自己紹介の時のカールさんを近くで見た時は、


 途轍もない喜びを感じた。


 心臓が止まるかと思った。


 高い背、紺色の髪、彫刻職人が作ったかのように整った顔。


 そして、結構鍛えられている体。


 お腹に電気みたいなものが流れて体が熱くなった。


 本来のストーリーだとレイナはキモデブのカールを最初は庇うが、キモデブカールがあまりにもクズみたいなことをすることから愛想を尽かし、結局強くなっていく主人公ベルとエッチなことをすることになっている。


 イラストのエロさと色気を振りまく妖艶な表情からマジック★トラップに登場するキャラの中で3番目に人気がいい(一位はルナ、二位はティアナ)。

 

 言動は男の本能を刺激する魅力があるが、処女であるため、主人公と初めてエッチをした時は、数多くの日本人を燃やし尽くしたほどだ。


 だが、それはカールがキモデブだった時の世界の話である。


 今のカールは


 すっごく格好いい。


「……」


 自分のことをまるで気にしないクールなところが特に。


 だから気づいた時は自分から話しかけていた。


『以前お会いした時とは大違いですね。とてもイケメンで素敵です』


 自分が自ら進んで男を認めたのは初めてだ。


 だが、わざと色気をアピールしたにも関わらず彼は微動だにせず淡々と返答をした。


 そして、


『ああ。エリカは俺の婚約者だ』


 あの言葉を聞いた時は自分の胸の中でいろんな感情が渦巻いた。


 辛い想いをした二人が結ばれたことによる感動。


 そして、


 そいて……


「……」


 レイナは居た堪れなくなって消灯時間であるにもかかわらず、寮を抜けて水が流れる洗濯場にやってきた。


 すると、


 自分と同じ色の目をしている耳の尖ったメイド姿のかわいい女の子が現れた。


 初めてみるのに、なぜかとても心が落ち着く。


「すみません、メイドさん。すぐ出ますので」


 レイナが言うと、ティアナは頭を左右に振る。


「いいえ!大丈夫です!すぐ終わりますので」

「でも、結構量ありますよね?」

「トルネードを使いますので、一瞬です!」

「と、トルネード!?」


 確か、トルネードは家事魔法では最上級魔法として分類される難関魔法だ。


 それをこの耳の尖ったメイドが使うのだろうか。


 目を丸くしていると、ティアナがカゴをそっと置いて作り込まれたワンドを持ち出し、唱える。


「ムービング!」


 すると、洗濯物は宙を舞う。

  

 すかさず


「水よ来れ!」

 

 ティアナは呪文により大量の水が洗濯物を包み込む。


「トルネード!」


 この呪文により水の中には数えきれないほどのトルネードが生まれて洗濯物の汚れを取り除いていく。


「す、すごい」

 

 同時に三つの魔法を操るティアナを見て、レイナは驚愕する。


 水の生成は属性魔法じゃないとできない。


 そして、トルネードは共通魔法の中で最難関魔法。


 王宮の中でもこんなに優秀なメイドは見たことがない。


 洗濯を終えたティアナがムービングで洗濯干しにかけると、胸を撫で下ろして満足げに頷いた。


 その光景を見て、レイナは口を開く。


「とても素晴らしい能力ですね。見惚れてしまいました」

「い、いいえ!大したことじゃありません」

「ううん。大したことだわ。私の名前はレイナ。イラス王国の第三王女です」


 突然王女殿下から名乗られたことで作り込まれたワンドを持ち不安そうにしているティアナ。


「わわわ、私はティアナ申します。ハミルトン家のカール様に支えるメイドでございます」

「カールさんに仕えるメイド!?」

「は、はい」

「あなたがずっとカールさんの世話をしてくれてたのね。カールさんのダイエットを手伝ってくれたでしょ?」

「そう……ですけど、私は言われたことをただしただけです」

「とても立派なメイドですね」

「い、いいえ!私は、ハーフエルフで、そ、その……下賎で塵芥のような存在です」

「ううん。カールさんのメイドだもの。それに属性魔法を使って、同時に異なる魔法を三つも使えるのは大したものです」

「……」


 レイナに褒められたティアナは恥ずかしそうに顔を俯かせた。


 そんなティアナのウブな反応がかわいいのか、レイナはクスッと笑ったのち、急にモジモジし出す。


「カールさんが元気で本当によかったです」

「そうですね。ところで、カールさんとはお知り合いですか?」


 ティアナに問われ、レイナは若干寂しそうに夜空を見上げる。


「おそらく、カールさんは私のことわかってないんでしょうね」

「え?」

「でも、わからないままで結構です。すでに、エリカさんがいますから」

「レイナ王女殿下?」


 レイナの表情を見たティアナは自分の胸を抑えたい。


 初めて会った人なのに、なぜこんなに胸を抉り取るように痛いんだろう。


 彼女の紫色の瞳。


 あの瞳を見るたびに、心が落ち着くと同時に、どうしても助けてやりたいと思ってしまう。


「カール様とお友達なりたいですか?」

「え?そ、そうですね……友達……なかなかいい響きです」

「私、カール様にレイナ王女殿下は優しい方だと伝えておきますね!」

「わ、私が優しい?」

「はい!ハーフエルフである私を見てもとても優しい接してくださいましたから!」

「あ、うん。そうね。なぜ……ハーフエルフを見るのは初めてなのに」

「私はそろそろ戻ります!お体に気をつけてくださいね!」


 ティアナはそう言って、カゴを持ってタタタと使用人用の寮に戻る。


 一人取り残されたレイナ。


 彼女は密かに呟く。


「友達は





X X X


ベルside



「俺が全部癒してあげます」

「ベルさん……私、怖いわ」

「俺に任せて」

「はあ……ベル」


 ベルの部屋のベッドでベルとレイナが裸状態で交わろうとしている。


 これはキモデブのカールのクズさを知ってショックを受けたレイナを慰めたベルが、そのままレイナの心までも落としてエッチするシーンだ。


(な、なんで俺とレイナ王女殿下が裸になってるんだ!?)


 離れたところから自分とレイナを見ているベルは目を丸くする。

 

 二人は互いを体を触り、行動はだんだんとエスカレートする。


 やがて超えてはならない線を越えようとしたとき



「おっと!これはダメだな」


 200kgを優に超えそうなキモデブが熱々な二人に向かってダイビングする。


 そのまま、押しつぶされる二人。


 この物々しい光景を見てベルは叫ぶ。


「な、なにやってんだ!?早くそこをどけ!」


 前にも登場したキモデブの存在は自分を余計に腹立たせる。


 だが、そこにはキモデブはなくなり、イケメンのカールと赤髪のエリカとさっき自分と交わろうとしていたレイナが制服姿のまま立っていた。


 ちなみに女性二人はとても幸せそうな顔だった。


「こ、これは一体……」


 と呟くも、前のカールは


「おい、お前、なに見てんだ」

「お、俺は……」

「邪魔だ。どっかいけ。お前の幼馴染だけを気にしろ」

「……」


 素気無くあしらうカールを見て、ベルは悔しそうに唇を噛み締める。


 すると、自分の横にルナが現れた。

  

「あら、カール様……」

 

 憧れの視線を向けてくるルナは、カールの方へ向かって歩き始める。


「ルナ……いくな!いくんじゃねよ!」


 ベルはルナに手を伸ばした。


 すると、


 夢から目が覚めた。


「っ!!」


 聞こえたのは、明朝を知らせるためのスズメの聞き心地の良い囀りだった。

 

 今日はパーティーメンバーを決める日である。






追記


捗っちゃって5000字も書いたっ


次回から魔法とか戦闘とか出てくるかも?



 

 


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