第27話 決闘

訓練館にある決闘場


 SSクラスの全員は目を丸くして驚いた。


 それもそのはず。

 

 まさかこんなに早く決闘を申し込まれるとは思いもしなかっただろう。


 俺だってそうだ。


 なぜベルがキレた状態で俺に勝負を挑んだのか全く理解ができなかった。


 しかし、彼の決闘ランキングは32位。


 対して俺は9位。


 つまり、上位者である俺は断る権利を有していない。


 なので、戸惑うエリカとレイナ王女殿下を落ち着かせて俺とベルは訓練館にある決闘場にいる。


 もちろんSSクラスのほぼ全員も観戦席で興奮気味に俺たちを見ており、噂を聞きつけてやってきた他のクラスのものもいる。


 つまり、ここで負けたらすごく恥ずかしい思いをすることだろう。


「おい、戦う前に一つだけ聞いておこう」


 俺は目を細めてベルに言う。


「な、なんだ!」

「なぜ俺に挑む?ランキングを上げたいなら俺じゃなくてもいいだろ。俺は9位だ」

「決闘ランキングはどうでもいい!」

「はあ?」

「俺は……貴様に勝つことで示したいことがあるんだ!」

「何をだ?」

「貴様にいう義理などない!」

「言えないか……どうせつまらない正義ごっこみたいなやつだろう」

「っ!貴様を倒す!」


 本当に面倒くせーやつだ。


 完全に絵面が悪役に挑む正義の味方の主人公じゃないか。


 定番のストーリーだと幾多の試練を乗り越えてやがて悪役を倒し、美少女ヒロインズと結ばれるだろう。

 

 マジック★トラップだって、そんな話になっている。


「では、始め!」


 審判の先生の声により決闘が始まった。


「いくぞ!カール!」

「ふっ」


 ベルは真っ直ぐ俺の方に走っては、右の拳に魔力を流す。


 すると、彼の右手に硬い石の拳が出来上がった。


 そう。


 やつの属性は土。


 その中でも石や岩といった硬いものを召喚することのできる能力に特化している。


 こうやって俺に直接攻撃を仕掛けることもでき、遠いところから石や岩でできたモンスターを召喚することだってできる。


「ロックパンチ!」


 ベルが間合いに入って、俺のお腹を狙い、パンチを食らわす。


「集中!」


 と、俺が唱えると、俺の頭の中に彼が俺を攻撃する姿が鮮明に浮かぶ。

 

 拳を覆っている石の細かいデザイン、彼の黒髪に白髪が3本生えていること、制服の生地の細かいパターン、風に揺れる髪と制服の動き、彼の顔や瞳に吸収されていく埃の数まで。


 膨大な量の情報がしきりなしに入っていく。


 しかし、無駄な情報があまりにも多すぎる。


 なので彼の動きを予想するための情報だけ絞る。


 彼の足、手、胸、腰。


 服じゃなく、髪の毛じゃなく、彼の体に俺は集中する。


 そして、


「理解!」


 彼の動きに関する情報を『理解』を使って、自分のものにする。


 よって、やつの動きを予想することができ、俺はやつが攻撃する前に地面を蹴り、避けた。


 すると、彼の石の拳に当たった地面は少し凹む、


「よ、読まれた!?」


 まあ、読まれたという言葉も間違ってはないが、


 どっちかというと、お前は分析されたのさ。


「遅い」

「っ!なめるな!」


 俺の感想にこめかみを浮かせたベルが追加の攻撃を仕掛けてくる。

 

 しかし、俺は集中と分析を使い、うまいことスレスレ避け続けた。


 ボルジア家の執事たちによって鍛えられたこの体のおかげで、俺は疲れることなく、うまく躱せている。


「これならどうだ!」


 攻撃が入らないことで、もどかしさを覚えるベルは片方の手にも魔力を流し、石の拳を作る。


 そして、俺にまた走ってきては、


「ロック・ガトリング!!!」


 どっかの海賊漫画に出てくる主人公が使いそうな技名と動きをしてる。


 だが、


「集中!理解!」


 そう唱えて、俺はやつの攻撃を全部避けた。

 

 でも、避けるだけならもの足りない。


 なので俺はロック・ガトリングを使い続けるベルの間合いに入る。


「な、なに!?」


 せっかく避けたのに間合いに入る俺を見て戸惑うベル。


 やがて、彼はスピードを上げて、俺をぶっ飛ばそうとするが、


 俺はそれらの動きをも完全に把握して避けながらベルのすぐ前に辿り着いた。


「っ!!」

「食らえ!」


「ああああ!!!!」


 俺は素手で彼の顎に狙いを定めて強いアッパーカットを喰らわせる。


 3Mほど飛んだベル。


「すごい!あの連打攻撃を全部避けて正確にパンチを喰らわせるなんて……」

「カール様って一体どんな魔法を使っているの?」

「動きが違う……比較にならない……」

「まるで、最初からあのベルというやつの動きを読み切ったような動き……」


 観戦席にどよめきが走る。


 このままベルが10秒間立ち上がらなければ俺の勝ちになるわけだが、


 やつは

 

 そう簡単に倒れてはくれなかった。


「ん……貴様を絶対倒す!」


 主人公っぽく怒って主人公っぽいセリフを吐きやがる。


 つくづく気に入らないやつだ。


 観戦席からはルナがベルを切なく見つめており、エリカは無表情で俺を見ている。


 俺が深々とため息をつきながらベルを見ていると、


 彼はワンドを取り出しては


「土の精霊よ、我が呼び声に応えよ。ミニゴーレム!」


 そう唱えると、彼の周辺に5体ほどの小さなゴーレムが現れた。


 そして、彼はワンドをしまって今度は自分の右手に膨大な魔力を注ぎ込んだ。


 すると、彼の右の拳にはさっきとは比べ物にならないほどの大きな石の拳ができた。


 直径50センチは軽く声そうな拳は、一見すごく重そうな印象を与えるが、ベルは簡単にそれを動かせている。


 厄介だな。


 ミニゴーレムとベル。


 つまり、6人を同時に相手しないといけない。


 6人が動くとなると動きに関する情報だけでもすごい事になる。


 単体なら余裕で分析できるが、ゴーレムとベルが相互作用することによって生じる情報はもっと複雑だ。


 理論上、まだ熟練度が低い俺に六つの動く存在の情報を同時に取得するのは難しい。


「いけ!ミニゴーレム!」


 俺が考えあぐねていると、隙を与えまいと、ベルが自分が召喚したミニゴーレムに指示を出した。


 よって、ゴーレムは俺のところへ飛び込んでくる。


 そして、


「今度こそ、貴様に勝つ!」


 ベルも走ってきた。


 やつの顔にはただただ俺を倒したいという強い意志が感じられる。


 だが、


「ふっ!」


 俺は鼻で笑って、ワンドを取り出した。


 そして、


「憑依!!!!!」


 強く唱える。


 そしたら、ミニゴーレム5体の動きが止まった。


「な、なに!?ミニゴーレム!?」


 ミニゴーレムはベルの戸惑う姿を見た途端に、


 彼を攻撃する。


「なっ!」


 一体のゴーレムによって足を攻撃されたベルが止まって、顔を歪ませる。

 

「カール!貴様!何をした!?」


 当惑するベルに俺は口角を吊り上げて言う。



 もし、俺がやつに直接憑依をかけたら抵抗しまくって簡単に抜け出すことができただろう。


 だが、召喚モンスターはどうか。


 召喚モンスターは自我をもたない。


 ただ術者の操り人形である。


 神獣だと人格を持つため、憑依から抜け出せるが、ゴーレムには人格も正義も性格も存在しない。


 つまり、憑依し放題と言うわけだ。


 もちろんそれをお前に教えるのはずがない。


「っ!貴様……」

 

 ブーメランが返ってきたことで、腹を立たせるベルは、自分を攻撃してくるゴーレムをやっつけるために、でかい石の拳を振ろうとする。

 

 だが


「憑依!」

 

 俺は彼の石の拳に憑依をかけた。


 石の拳は単なる物質に過ぎないため、なんの抵抗なく俺が与えた自我を取り込んだ。


 なので、石の拳はそのままベルの拳から離れて宙に浮く。


「な、なんだこれは!?」

「愚かなやつだ。お前が俺を倒すために召喚したもので、お前が倒れろ」


 俺は石の拳とミニゴーレム5体に命令を出した。


 すると、石の拳とミニゴーレム5体はベルに襲いかかる。


「ああ……こんなの……」


 ベルはまた拳に魔力を流し込んで、石の拳を作るが、俺はまた憑依でそれを奪う。


「馬鹿な!」

「終わりだ」



 石の拳たちとミニゴーレムたちはベルを襲った。






追記


召喚したモンスターは憑依にかかりやすいという設定、昔やってたMMORPGから引っ張ってきたけどなんか懐かしい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る