第18話 力は売り物買える物

「近くに教会はありませんか?」


 オーガスタに言われてタローはマップスキルを使う。が、同じ階層には見当たらない。


「階層を上がってもいいか」


 タローがロジーネとオーガスタに訊くと、二人は頷く。もし、強ければ攻略のついでに下層に降りながら教会を探せるが、タローは今のままでは魔物を倒していく自信がない。浅い階層であれば、魔物も強くないし、最悪、逃げる算段はいくらでもつけれる。


 タローはマップスキルの操作範囲を広げる。ダンジョンは階層によっては中規模な都市程度の広さがある。端から端まで調べていれば、一日あっても足りないくらいの迷路が数十階層もあるのだ。


 五階層以下の迷路は十個以上に区切られている。どの迷路に到達するかはランダムだが、上下階段は必ず存在する。但し、

 単純に攻略するだけならば、下の階段を見つけて降りていけば良い。四階層から五階層に移動した時、ランダムに五階層のだが、迷宮にある教会や店に行くのはそんな単純ではない。五階層に降りたとき、当たりの迷路にの迷路から隣接の迷路に行く必要がある。元々、五階層に降りたときに教会や店があるかどうかは運次第なのだ。


「早くぅ」


 オーガスタに引っ張られて、階層を上がる。タローの腕は故意なのか無意識なのか、オーガスタの胸元に抱えられているから抵抗のしようがない。ロジーネの目が少しだけ細くなっている気がするが、あまり考えないようにする。


「見つけた」


 六階層に戻ったところで、タローは二人に告げる。思ったほど距離はない。ただ、壁を一つ撃ち抜く必要がある。


「どうしますか?」


 オーガスタに訊かれてタローはロジーネのことを見た。


「ん?」

「穴掘りの魔法って使えないか?」

「んん~」


 タローの問いにロジーネはすぐには答えない。


「無理ならいいんだ」

「ごめん」

「謝ることじゃない。俺たち仲間。出来ること、出来ないことある。それは仕方がない。でも、だからこそ出来ることある。助け合うことぉ♪」


 タローはリズムを取りながらバッグから杖を取り出す。


「残量ある?」

「なんとか」


 タローは壁に穴を開けて通り抜ける。開けた穴はすぐに閉じるわけではないが、ロジーネとオーガスタも慌てて通り抜ける。


「近くに魔物は?」

「ホブゴブリンが一体。ちょうどこっちにやってくる」

「倒す?」

「頼む」


 三人は魔物を軽々と倒しながらダンジョンを進む。五階層に現れる魔物のレベルは低い。タローでも問題なく倒すことが出来るレベルだ。だからと言って、タローが倒すことはしない。ロジーネの魔法を使って効率的に倒していく。


 この階層の魔物を倒したところで、得られる経験値など大したことはない。それより、効率を優先する。魔力量の制約で使える魔法の量は決まってくる。だが、時間が経てば魔力量は回復する。


 敵の強さを事前に察知しているので、最適な魔法で教会までのダンジョン内を進んでいく。


「あ、あれです」


 オーガスタが嬉しそうに見つめる先に、小さなレンガの建物があった。ダンジョンの中でもかなりの大空間となっているこの場所は、街のようにいくつかの建物がある。そのうちの一つは、ステンドグラスの窓、白い壁。荘厳な造りをしている。


「お金、かかりそう」


 ロジーネがポツリと呟く。


「そうですね。お金はかなりかかりますよ。相場はレベルの400倍の寄付が必要になりますから」

「400倍!? 金貨? なら無理」

「銅貨です。銀貨なら2枚」

「レベル、1で?」

「そう。ロジーネがレベル10なら銀貨20枚必要」

「くっ、銀貨、22枚か……」


 ロジーネは腕を組む。お金の算段をしているのだ。その横でタローも同じように腕を組む。


「ところで、タロー様のレベルは?」

「あまり、良くわからない。自分で調べたこと無いから」

「それは困りました。400倍の寄付が一番効率が良いのです」

「私、調べる?」


 ロジーネはタローの前に立ち魔法を使う。レベル確認の魔法。レベルと簡易的な能力確認を行うことが出来る魔法だ。すぐに魔法の効果は現れてロジーネはタローのレベルを確認する。でも、答えない。


「で、どうだった?」

「……」

「ロジーネ。話して。それが大事」

「うん。俺も知りたい」


 タローとオーガスタが発言を促すと、ロジーネは目を閉じて深呼吸を一度する。


「タロー、レベル、5」

「えっ?」


 タローはロジーネに言われて驚きの声を上げる。


「なにそれ、レベル5、やるじゃん俺。そこそこ強い。魔物も余裕で倒せるよな♪」

「「強くないです」」


 言われてタローは眉を寄せる。


「タロー様のレベル。正直、よく今まであの階層まで潜れたってレベルです。多分、タロー様はファーベルとブーンに任せて直接戦闘をしていなかったからレベルが上っていなかったのですね」

「こき使われてた、私」


 ロジーネがちょっと冗談風に言って笑うとタローは苦笑いをする。


「でも、僥倖ですね。レベルが高い方がお金を沢山払う必要がありますから。タロー様は銀貨10枚で済みます。20枚で2回できます」

「えっ?」


「何回でもお金がある分だけ出来ますよ。だから、レベルを上げないで教会まで来る冒険者もいるくらいです」

「そうなの?」

「ええ、ただ、5回以上は効果が確定ではなくなりますけど」

「5回か……。銀貨50枚は厳しいな。半年は暮らせる」

「1回でも効果は十分あります」


 タローは一人で小さく頷くと、教会の中に入ろうとする。


「待ってください」

「何で?」


「銀貨10枚だけ持って入ってください。沢山のお金を持っていると、敬虔な信者ではないと判断されて効果のランクが下がります」


「うーん」

「ちょっと、待って、オーガスタ。何回も、出たり、入ったり、するの?」

「そう」

「おかしくない?」

「教会側にも建前ってものがあるのですよ」


 オーガスタが平然と言うと、ロジーネは苦笑い。


「じゃあ、荷物は頼むわ」


 タローはオーガスタに荷物を渡すと、ズボンのポケットに銀貨10枚だけ突っ込んで教会の中に入る。それほど大きくない教会は蝋燭の明かりで照らされているが、薄暗い。かなり近づかないと表情がわからないほどだ。


 これでは牧師が見つからないかも。一瞬、ドキッとしたタローだが、牧師は目の前、教会一番奥の祭壇の前に立っていた。


「ようこそ迷える子羊よ。神が汝に恵みを与えんことを」


 牧師の凛と通る大きな声が教会の中に響き渡る。その場で返答したくなったタローだが、ゆっくりと歩いて祭壇の手前で立ち止まる。


「牧師様。ここは素晴らしい教会ですね」

「ええ、神の恵みのおかげです」

「是非、寄付させてください」


 タローはちょっと白々しいと思わなくもないが、牧師と会話を楽しみたいわけではないので話を進める。


「おお。信心深いものよ。神の祝福あらんことを」


 タローが牧師に銀貨10枚――現時点での全所持金――を牧師に渡すと、牧師はその場でお礼を言った。そして、神にタローのことを祝福するように祈りを捧げてくれる。


 すると、教会の中を雷鳴が轟いた。目を閉じながら両手を組んできたタローは、驚きのあまり目を見開く。金色の淡い光が自分を包み込んでいることを知ったタローは動揺する。だが、逃げ出しはしない。今までの自分ではなかったような力が湧き出すのが感じられたから。


「ありがとうございました」

「これも神のお導きあればこそ。良き迷宮を」


 タローは牧師にお礼を言ってから教会を出た。


「どうでしたか?」

「ああ、多分上手く行った」

「鑑定、する?」

「待ってもう一度行ってくるから」

「うん」


 タローは預けていたバッグから銀貨を取り出すと、再び教会の中に入っていく。まだまだ終わらないぞ。そう言わんばかりである。


「タローも、あと数回。私達も、何回か。牧師、大変」

「大丈夫ですよ。それが商売ですから。でも、外で待つ方はちょっと面倒ですね。ペロペロして待ってますか?」

「いや、いい」

「遠慮なさらずに」


 ロジーネは抱きついてこようとするオーガスタから逃れるために走り出す。逃げるものは追う習性のある魔物のようにオーガスタもひっついて走る。そして、二人は教会の周囲を全速力で走り続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る