第17話 ユニコーン、倒せるん?

「あれが、ユニコーン?」

「あれがユニコーンですね?」


 ロジーネとオーガスタの言葉にタローは深く頷く。


 普通の馬より少し小さいサイズ。ポニーとか子馬と呼べる姿に角がある。一般的に思い浮かべるユニコーンと形は同じではある。


「変」

「想像していたのと違いますね」


 二人が指摘するのも仕方がない。白い体に白い角。そこまではいい。何故か目が赤く充血している。それに角。先っぽが少し丸まっていて、ヌメヌメした液を垂らしている。


「象の鼻みたいですね」

「ずっと角と思っていたが、違うなにかかもしれない」


 タローが観察していると、ロジーネが目を細める。


「先制、攻撃?」


 ロジーネはタローの影に隠れながら、魔法の準備を整える。


「いや、ユニコーンに対して先に攻撃を仕掛けると運気が下がる。って聞く。あくまでもユニコーンに先に攻撃をさせたい」

「了解」


 返事をしたロジーネはユニコーンの動きを観察しているが、ユニコーンは一向に攻撃の気配を見せない。むしろ、ウロウロと三人の周囲をグルグルと回り始める。


「った、タロー様……」


 オーガスタがタローにひっついてきた。鼻息ならぬ角液を撒き散らしながら近づいてくるユニコーンを気味悪がっている。


「ちょっと」


 ロジーネがユニコーンを追い払おうと近づくと、ユニコーンは角でロジーネのことを突き飛ばしてきた。害は無いのかと油断していたロジーネは腹部を思いっきり突かれて、後ろに倒れ込む。


「オーガスタ頼む」


 タローはロジーネの治療をオーガスタに任せて、短剣でユニコーンに斬りかかる。首を一撃で叩き落とすべく放った剣は、首を振ったユニコーンに狙いを外される。それでも、ユニコーンは完全に躱しきれてはいない。


 タローの剣を頭部に受けて、あからさまな怒りを見せる。一度距離を取ってからタローに向かって突進してくるユニコーンはかなりの脅威だ。ミノワウルスとは比較にならないが、真正面から受け止めるわけにはいかない。


 ギリギリの位置で横に飛んだタローは反転するユニコーンに向かって短剣を投げつける。狙いこそ正確に飛んだ短剣だが、ユニコーンは軽々と角で短剣を叩き落とす。


 このままの戦闘が長引けば、タローらに勝ち目はない。間違いなく肉弾戦での戦闘能力ではユニコーンの方が上。だから、タローは杖を使う。


 魔法の矢を杖から放ち、ユニコーンに直撃させる。それほど威力が高い杖ではない。それでも、ユニコーン相手なら十分。フルチャージ分を全て投入すれば、倒すことは可能だ。


 タローは怯んだユニコーンに対して、二発目の魔法の矢を放つ。が、ユニコーンは跳躍するとその場から消え去る。


「あれ? 何故?」


 ロジーネの治療を終えたオーガスタが疑問の声を上げる。


「瞬間移動だよ。ユニコーンもレプラコーンと同じく瞬間移動が使える」

「詳しい、ね」


 ロジーネが起き上がる。もう、ダメージは残っていないようだ。流石、聖女スキル。回復だけならば、間違いなく最強。


「まあ、マップスキルが発現した後に色々と魔物のことも覚えたからさ。近づいてくる魔物がどんなやつでどんな能力を持っているか知らないと不意打ちも上手くいかないし。下手をすれば返り討ちに遭う危険もあるわけだし」

「流石、タロー様」


 オーガスタが笑顔で言う。


「聖女スキルに比べれば大したことじゃないさ」


 タローは謙遜にならない事実を言いながら自分が投げた短剣を拾った。剣の汚れを落としてから鞘にしまい小さくため息をつく。敵の能力は分かっている。強さも分かっている。それなのに勝てない。理由は明白。何故ならば、弱すぎるからだ。


 タローは心の中で嘆きながら、次の作戦を立てる。ユニコーンは絶対に倒しておきたい魔物。噂で聞いた角は見た感じかなり胡散臭い代物だが、万病を治すアイテムとして使える。それに、売ればそこそこの金になる。この世界でお金はかなり大事だ。


「動けるか?」

「うん。大丈夫」


 ロジーネは立ち上がっている。先程受けたダメージが嘘のようにピンピンしている。


「それじゃ、追撃するか」

「今度は、不意打ち、いいの?」

「ああ、今なら敵対状態だから問題ない。頼めるか?」


 タローがロジーネに訊ねると、彼女は二つ返事。突き飛ばされた怒りもあるのかやる気満々に見える。


 タローはユニコーンがそれほど離れてない場所で体力回復の休憩をしているのをスキルで確認する。まだ見つかる可能性がないので、歩いて彼我との距離を詰めながら作戦の説明をする。


「今回は、遅延の魔法で動きを遅くしてから攻撃を仕掛けたいと思う。直撃すれば、突進の威力も下げれるし、逃げられる可能性も減る。遅延の魔法はメリットしか無い」

「その後は?」


 出番がなさそうなオーガスタが質問をした。


「不意打ちで強くあたってあとは流れで」


 タローは話を区切り短剣を構える。発光虫のおかげで暗闇ではない薄暗いダンジョンの通路。角を曲がった場所は小部屋になっている。ユニコーンはそこで休息している。


 タローは左手で合図を出し、曲がり角から飛び出す。と同時に背後からロジーネの魔法がユニコーンを直撃する。


 威力はない。だが、遅延の魔法は効果的だ。明らかに動作が遅くなる。タローは短剣を首筋に狙いを定めて振り下ろす。直撃すれば致命傷。そんな攻撃をユニコーンに角で受け止められる。


「くうっ!」


 タローは回り込もうとするが、ユニコーンも体勢を動かしてそれを許さない。このまま二人が戦い続ければ硬直状態になるところ。だが、タローはユニコーンと違って仲間がいる。


 追加の攻撃がユニコーンに突き刺さる。魔法の矢だ。威力はそれほどではないが、一発だけではない、二発、三発。


 背後から魔法を受ける形になったユニコーンは、流石にたまらずタローを無視してロジーネらに向き直る。


 タローに対して、完全に無防備になったユニコーンを見逃すわけにはいかない。目標としてロジーネが見つかる前に倒す必要がある。


 ダッシュしてユニコーンに飛び乗ったタローは首元を斬りつける。魔物としては中程度のユニコーンだが、胴体は子馬ほどある。短剣で斬りつけたところで、即効性は無いだろう。それより、首か頭部への確実な攻撃で仕留める必要がある。


 ユニコーンは首を振り体を振って抵抗するが、乗られてしまっては為すすべはない。乗騎を目的としているならば苦労したに違いない。だが、タローの目的はユニコーンを倒すことだ。短剣で首筋を複数回斬りつけると、少しずつ抵抗は弱まりその場に倒れ込む。


「大丈夫?」


 確実なとどめを刺していたタローにロジーネが駆け寄ってきて声をかけてくる。


「ああ、何とか」

「流石、タロー様です」


 オーガスタはゆっくりと近づいてきてから、ユニコーンに向かって祈りを唱える。神への感謝と魔物が安息を得られるようにとの神への祈り。タローも短剣の汚れを落としながら、心で唱和する。


「この角、変な液体を飛ばしていたように見えましたが……」


 オーガスタの言葉に同意するタローだが、切り落として見ると別段違和感はない。普通の角だ。単なる硬い石と同等。


「売れる?」

「売ったらそこそこの金額になるはず」

「金貨五枚くらいにはなる?」

「まさか。銀貨五枚にはなるな」

「それ、衝撃の杖と、同じ」

「十分だよ。けど、持っていたほうが良い。うちにはオーガスタがいるから不要かもしれないけど、状態異常を回復させる効果があるからな」

「ふーん」


 少しだけ興味が薄れたと言わんばかりのオーガスタ。タローにもその気持ちはわかる。だが、確実な利益が出たことがタローにとっては嬉しい。


 もし、ユニコーンを衝撃の杖を使って倒していたら利益など無い。下手をすれば赤字だ。タローはユニコーンの杖をバッグに入れてからため息をつく。


「どうしました? タロー様」


 オーガスタがタローのことを覗き込んでくる。


「いや、自分の弱さが、な」

「タロー様は弱くありません」

「いや、やっぱり弱いよ。ファーベルの言葉が痛く感じる」

「でしたら、お金で解決しません?」

「はあっ?」

「お金で強くなれば良いのです」


 タローの悩みに対して、ロジーネは平然と答える。何も大したことではない。そう言わんばかりの言い方に、タローはどう答えてよいのかすぐには思いつかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る