我が子を探して!
俺達が家の中に入ると、泣き崩れる母親と泣くのを堪えている父親がソファーに座っていた。五狼先生は場を宥めながら俺を両親に紹介した。
「お父さん、お母さん。実はもう1人助っ人を連れて来てるんです。この人は福島龍星さん。腕利きの霊能者ですよ」
「どうも、いきなり押しかけてしまいすいません……」
俺は頭をペコペコと下げながら挨拶する。ふと目を逸らした先には部屋の角で小さい男の子が無表情でこちらを体育座りをしながら見つめていた。それを見たメリーは俺の耳に囁く。
「龍星、あの子……あたしらが見えてる見たいよ?」
まさか、偶然だろ?
メリーの言葉に答える訳にも行かないので、俺はカメラに映らない様にアイコンタクトをした。察したメリーと若大将は小さい男の子に近付いて行く。
「ぼく。お姉ちゃん達の事見える?」
「怖がらなくていいからね?見えてるなら「うん」ってしてくれればいいからね?」
メリーと若大将がそう言うと、小さい男の子は真顔でゆっくりと頷く。確信したメリーは俺に合図を送って来た。
本当に見えてるのか……これはこれでやりずらい。
もし、男の子が慣れて来てテレビの前でメリーや若大将の存在を教える事になったら五狼先生の面子を潰してしまう事になる。
そう考えた俺は、
「すいません、早速霊視をしたいので辺りを見せて貰っても良いですか?」
「あっ、はい……どうぞ」
父親の了承を得た俺は部屋を後にすると、メリー達がヒソヒソと声を掛けてくる。
「ダメね。何を言っても頷くだけだわ」
「無表情だから余計不気味だよね。何考えてるか分からないよ」
「そうか、俺の邪魔をしない様に見張っててくれ」
「分かったわ」
メリー達が離れて行くと、今度は五狼先生が近付いて来た。
「どうですか?何か感じましたか?」
あんたは何も感じないのか?
一瞬その言葉が喉から出かかったが、ぐっと我慢して。
「えぇ……そうですね……少し感じます」
「そうですか、私も少し感じている所なんです」
あたかも同じ意見だったかのように五狼先生は言った。すると、依頼人の父親が俺に声を掛けて来た。
「あの、具体的に話もせずに何かを感じる事が出来るんですか?」
「え?」
そういえば俺は誰を探しているのか分からない。ざっくりに子供を探して欲しいとしてか聞いていない。
「ね、念の為に先生と同じ事をもう一度聞かせて貰って良いですか?」
苦し紛れに言ってしまった。
父親は疑っているのか、俺を怪しい目で見詰めてくるが事情を説明してくれた。1週間前に子供が学校から帰ってきてから遊びに行ったきり行方不明になってしまったらしい。警察にも声をかけたが未だに手がかりが掴めないという。藁にもすがる思いでこの捜索番組に依頼をしたという。
「なるほどね、兄弟が帰って来ないんだもの。この子だって心配するのも無理ないわね」
「どこに行ったのかなぁ?沖縄からは出てないと思うけど……」
話を聞いていたメリーと若大将も顔を曇らせた。
「では、霊視してみますので行方不明になった子の写真か何かありませんか?」
「それならここにあります」
父親は財布から写真を取り出すと、そこに写って居たのは……先程話しかけていた子供だった。俺やメリー達は冷や汗を流しながらこの言葉が頭をよぎった。
この子はもう死んでいる……。
スタッフは俺の顔色が迫真の演技に見えたのかカメラを向ける。
「どうしたんスか?この子見た事あるんスか?」
「い、いえ……ちょっと……」
スタッフに尋ねられたのだが、俺はどう説明すればいいか分からなかった。メリーと若大将は心配そうに俺に近寄る。
「伝えちゃえば?」
「残念ながらとか言えば解決じゃない?」
簡単に言うがそれはそれで問題だ。
頭を悩ませていると、五狼先生が父親と母親に風呂敷に包まれた細長い木箱を持って来た。
「お父さん、お母さん。これも何かの縁ですから御守りとしてこれをお持ち下さい」
「先生、これは?」
父親が受け取ると、母親が尋ねる。
「これは私自身が作った壺が入っています。これさえあれば災いは無くなるでしょう」
「こんな御利益がある物……先生、ありがとうございます!ありがとうございます!」
父親と母親は涙を流しながら先生に何度も頭を下げる。それを見ていたメリーと若大将が、
「はぁ?あんなもんで子供が見つかる訳ないじゃん。バッカじゃないの?龍星、あの人達騙されちゃうから教えてあげようよ」
「そうだよ。御利益あるとか言ってるけど、ボク達なんにも感じないからタダの壺だよアレ?」
眉間にシワを寄せ、睨み付ける様に訴えて来た。言おうか言わないか迷っている間に話は進んで、
「あっ、でもタダで貰う訳には……」
「あっ、それなら局でお支払いするので大丈夫ッスよ」
「それなら有難く頂きます」
そんなやり取りが行われている。
耐えられなくなった俺は慌てて男の子がいた所に向かった。
「あっちょっと、福島さん?どうしたんスか?」
「来ないで下さい。集中したいので」
スタッフにそう言い聞かせてドアを閉めて俺は男の子と2人きりになった。俺は頭を撫でながら声を掛ける。
「大丈夫。お兄ちゃんは君の味方だよ?何もしないから何があったか教えてくれるかな?」
そう優しく言うと、男の子は俺の後ろを指差した。そしてボソッと呟いた。
「ぼく……そこに埋まってる」
男の子の言葉を聞いた俺は顔を青ざめる。俺は心を落ち着かせ、男の子に尋ねる。
「何があったの?いや、違うな……誰に痛い事されたの?」
「…………ママ」
男の子はそう言った。俺は全てを悟り、男の子に言い放つ。
「後は兄ちゃんに任せろ」
そう言って怒りを抑えながらドアに向かって行き、勢い良く開けた。
「今すぐ警察を呼んで下さい!!」
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