インチキ霊媒師

 俺がそう言い放つと、スタッフがカメラを止めて慌てて駆け寄って来た。

 

「ちょっとちょっと福島さん!?何言ってるんですか?」

「何って、行方不明の子供を見つけたからですよ」

 

 溜まりに溜まった鬱憤をぶちまける様に俺は言った。すると、五狼先生も近付いて来て、

 

「まぁまぁ、落ち着いて下さい。カメラも止まってるのでこの際ネタバレしますけど、お子さんは○○公園の近くにいると分かりました。福島さんもそれを感知したんですね?」

 

 あたかも知ったふうな口を開くインチキ霊媒師。俺は何も分かっていないペラペラ動く口を塞いだ。

 

「黙れ詐欺師野郎。それ以上喋んな」

「んぐっ!?」

 

 怒り任せに言い放つと、メリーと若大将も近付いて来た。

 

「うわぁ……あの龍星をキレさせるなんてこのおっさん終わったわね」

「そーだね。お兄ちゃん、後はボク達も手伝ってあげるから言いたい事言っちゃいなよ」

 

 メリーと若大将に焚き付けられ、さらに俺はヒートアップする。

 

「本物の霊媒師ならなんで部屋の隅で縮こまってる子供が見えないんだ?」

 

 そう言うと、スタッフ達が反応する。

 

「えっ?どこスか?どこにいるんスか!?」

「おい、カメラを回せ!五狼先生なんかより福島さんの方が本物っぽく見えて来たぞ!!」

 

 俺の言葉に信憑性を感じたのか、番組のディレクターが合図を出した。父親も居てもたってもいられず、俺に縋り付きながら尋ねる。

 

「息子は、息子はどこですか!?」

「その前に警察を呼んで下さい。話はそれからです」

「は、はい。分かりました……」

 

 インチキ霊媒師から手を離しながら言うと、父親が携帯で110番しようとした。

 

 だが、その時。

 

「待て!!」

 

 インチキ霊媒師が声を荒らげた。俺達は無表情でインチキ霊媒師に顔を向ける。

 

「デタラメだ!お父さんお母さん、騙されてはいけませんよ!彼は嘘を言っている!!それに、この私をインチキ霊媒師だって!?人を侮辱するのもいい加減にしたまえ!」

 

 推理小説で犯人が言いそうな事を言い出した。

 

 呆れた俺はスタッフに言い放つ。

 

「ならこうしましょう。俺が言った場所を捜査しても何も出てこなかったら虚偽罪なり器物破損で逮捕すればいいじゃないですか」

「本気ですか!?」

 

 番組ディレクターも思わず声を上げてしまう。

 

「分かりました。警察呼びますね」

「バカバカしい、時間の無駄ですよ!」

 

 父親は俺の言葉に賭けて見るのか、本当に警察に電話をかけた。数分後警察がやって来て一人一人に聞き込みを始めた。

 

「事情では、貴方の言い分では隣の部屋に行方不明のお子さんが床下に埋まっているというのですね?」

「はい。そうです」

「分かりました。お父さん、信じ難いので念の為に床下を捜査したいので床を見せて貰ってもいいですか?」

「はい、どうぞ……」

 

 警察が父親から了承を得ると、捜査官が畳をひっくり返す。すると、フローリングに切れ目が入っており、取り外すと床下にクーラーボックスが置かれていた。クーラーボックスを発見した途端、一気に緊張が走り始めた。クーラーボックスを引き上げて中を確認すると……男の子の遺体が入っていた。

 

「そんなっ……うわぁぁぁぁぁっ!!」

 

 父親は泣き崩れてしまった。事件が発覚してしまったので、警察から撮影を止められてしまった。警察官も唖然として、

 

「まさか本当に出てくるとは……」

「これではっきりしましたね」

「ここまで来ると信用出来そうですね。なら、被疑者も分かるのですか?」

「はい。もうこの中に居ますよ」

 

 俺が警察官に言うと、父親が顔を上げた。

 

「誰が、誰がこんな事を……!?」

 

 推理ドラマの様に俺はなんの躊躇いもなく、ゆっくりと指を差した。

 

「奥さん、貴方ですよね?」

 

 俺がそう言い放つと、母親は体を震わせて顔を逸らした。父親は立ち上がって母親に掴みかかる。

 

「お前……なんで、どうしてこんな事を!?」

「ち、違うの……こ、殺すつもりは……あ、あの子が、あの子があまりにも言う事聞かないから」

「事情は署で聞きましょうか。貴女を殺人と死体遺棄の現行犯で逮捕します」

 

 母親はその場で逮捕され、パトカーに乗せられて行ってしまった。取り残された俺達は現場検証が始まる為、家の外に出されてしまった。ディレクターが俺に近付いて来て頭を下げ始める。

 

「福島さん……、すいません。我々の思い付きで出演して貰ったのに事件に巻き込む形になってしまって」

「いえ、偶然ですから気にしないで下さい」

「龍星」

 

 スタッフと話している時に、メリーが声を掛けてきた。俺は余所見をするフリをして顔を向ける。

 

「あの子を……楽にさせてあげて」

 

 そうだな、そろそろあの世に成仏させてあげないと。

 

「あれ?福島さん?どうしたんですか?」

 

 スタッフの声に気にも止めずに、俺は男の子に近付く。俺は男の子の頭を撫でながらゆっくり抱き締めた。

 

「もう終わったよ。天国でいっぱい遊んで来な?」

 

 男の子は楽になったのか、男の子もギュッと抱き返してきた。

 

「ありがとう……お兄ちゃん……」

 

 そう呟いて男の子はすうっと煙の様に消えていった。突然の行動にスタッフが様子を伺って来た。

 

「あの、どうしたんですか?男の子がそこに?」

「はい。けど、もう成仏しました」

「そうですか……。こんなことを言うのも失礼ですが、今回の撮影は中止にしようと思います」

「それがいいと思いますよ。なら、俺はもう用済みですよね?」

 

 俺がスタッフに尋ねると、気まずそうに頷く。

 

「まぁ、そう……なりますね」

「なら、俺はもう帰りますね?」

「は、はい。お疲れ様でした」

 

 俺達は帰ろうとすると、野次馬から離れて蹲っているインチキ霊媒師がいた。俺が近付くとインチキ霊媒師は顔を上げ、恨めしそうに睨み付けてきた。

 

「よくも私の顔に泥を塗ってくれたな!」

「泥もなにも、インチキ霊媒師が何言ってんの?」

「きさまぁぁっ!まだ私をインチキ霊媒師と言うか!?」

 

 インチキ霊媒師は怒り任せに俺に掴みかかる。俺は呆れて、

 

「だったら、こいつらを祓って見ろよ」

「こいつら?」

「メリー、若大将」

 

 俺が2人の名前を言うと、俺の後ろからメリー達が人間にも見える様に現れた。メリー達を見たインチキ霊媒師は腰を抜かす。

 

「なっ、なんだ!?」

「見ての通り、悪霊だよ。本当の霊媒師ならこいつら祓って見ろって」

「龍星もう殺していいでしょ?人が悲しんでるのに壺を売りつけようとした奴はゴミクズ以下よ」

「ボクはおじさんの見た目好みなんだけど、中身腐ってるから無理だなぁ」

 

 メリー達がゴキゴキと指を鳴らしながらゆっくり近付くとインチキ霊媒師は慌てながら立ち上がり、

 

「くっ、来るなぁ!おのれ、福島龍星!覚えておけっ!一度ならず二度も私の仕事を邪魔しやがって!必ず復讐してやるからな!」

 

 え?二度も?

 

 悪党がよく言いそうな捨て台詞を吐きながらどこかへ走り去ってしまった。

 

「あっ、逃げた」

「ほっときなさいよ。あんな奴」

「仕返しとか来ないよね?大丈夫だよね?」

「大丈夫よ。明日には帰るんだから追ってこないわよ」

 

 メリーは平気な顔をしながら俺に言う。そして、もう1つ気になる事があった。

 

「そういえば、あいつ二度って言ったけどなんかしたっけ?」

 

 俺がそう言うと、メリーは。

 

「さっ、さぁ?なんの事かしらね?もう帰りましょうよ」

 

 顔を引き攣らせながら言ってきた。そして、若大将も俺達に声を掛けてきた。

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん。今日は楽しかったよ!明日帰るんだよね?最後に楽しい思い出出来て良かったよ」

「若大将もありがと。また沖縄に来たら遊ぼうな」

「うんっ!そろそろボクも公園に帰るね!バイバイ!」

 

 若大将も公園の方向に向かってスキップしながら帰って行った。

 

「さっ、あたしらもホテルに戻りながらお土産買いましょ。まだ間に合うでしょ」

「そうだな。花ちゃんに怒られるからな」

 

 俺達は再び国際通りの方に向かって行った。

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