もう1人の霊媒師
スタッフに声を掛けられた俺はスタッフに尋ねた。
「いや、あの……俺にどうしろと?」
スタッフは俺の質問に答え始める。
「そうですね。こちらで呼んでおいた霊媒師の先生と霊能者対決をして貰います。勿論先生には勝てないので形だけで結構です」
スタッフの説明を聞いたメリーが眉間にシワを寄せた。
「はぁ?それじゃただのヤラセ番組じゃない。しかも龍星にかませ犬になれですって?」
確かに、黙ってかませ犬にはなりたくないな。
「いやぁ、出るのは構わないんですけど……かませ犬はちょっと……」
俺は顔を濁らせながらスタッフに言うと、
「勿論そうですよね。出演料としてこのくらいお支払いしますから」
スタッフは胸ポケットから電卓を取り出し、数字を俺に見せてくれた。後ろで見ていた若大将は数字を見ると空いた口を手で塞ぐ。
「えぇ!?こんなに貰えるの?凄いなぁ」
メリーもその言葉を聞いて指を差しながら電卓の数字を数えた。
「龍星、捜索番組の為に人肌脱いでやんなさい!」
手のひらを返しやがった。
「わ、わかりました……。やって見ます」
俺は渋々スタッフに同意した。スタッフは満面の笑みを浮かべ、
「ありがとうございます!ありがとうございます!これから台本用意しますのでこちらでお待ちくださいっ!」
スタッフにワゴン車に案内されてピンマイクなどを付けさせられ、人生初めてメイクさんにメイクをして貰った。数十分後、先程のスタッフが台本を片手にワゴン車に入って来た。
「お待たせしてしまい申し訳ございません!こちらが台本です」
「はーい」
「どんな内容になってるの?あたしにも見せなさいよ」
「ボクもボクも!」
俺が台本を渡されると、メリーと若大将がスタッフさん達が見えないのをいい事にすり抜けながら台目を読み始める。
「なるほど、どっちが先に行方不明者を見つけられるか勝負するのね。何よ、簡単じゃない」
「そうだね。お兄ちゃんが行方不明の人が適当にどこどこにいるって言えば嫌でも負けるでしょ」
「高いギャラがかかってんだから、龍星、気合い入れなよ!?」
金に目が眩んだ悪霊めっ!
「はいっ大体分かりました。それで、もう1人の霊媒師さんは何処にいるんですか?」
俺がスタッフに尋ねると、
「【山口五狼先生】ですか?先生なら先程から行方不明の御家族と霊視をされていますよ」
山口?
俺は名前を聞いた瞬間、思わず反応してしまった。
確か、恵美のお義父さんは有名な霊媒師をしていると言っていた。まさかテレビに出演する程有名とは思わなかったな。
メリーも名前を聞いてピンと来たのか俺の様子を伺う。だが、メリーは尾行していたのを知られては不味い為、知らないフリをしながら尋ねて来た。
「龍星?どうかしたの?何か思い出したの?」
「すいません、緊張して来たので1人にして貰えますか?」
「あっはい。分かりました。出番が近付いて来たら呼びに来ますのでよろしくお願いします」
スタッフさんとメイクさんは早々とワゴン車から降りて離れて行った。俺は1人になった途端、メリーに顔を向ける。
「いやぁ、恵美さんのお義父さんが有名な霊媒師って言ってたからもしかしてとは思ってたんだ。恵美さんの苗字も山口だったからさ」
「そ、そうなの?も、もしかしたら偶然なんじゃない?全国に山口さんが何人いると思ってんのよ」
メリーは何故か目を泳がせながら言っているが、俺は気にせず台本のセリフを覚えようとブツブツと暗記し始めた。
30分後。
「お待たせしました。福島さん、お願いしまーす」
「はーい。お願いします」
「いよいよ出番ね!」
「なんだかボクも緊張して来ちゃうなぁ」
写りもしないお化け達までもが身だしなみを整え初めて俺と共にワゴン車から出て来た。向かった先には、涙を流す女性の隣に和服に身を包んだ中肉中背の白髪の中年男性が立っていた。
「山口五狼先生、もう1人の霊能者をご紹介します」
「はいはい。彼がそうなのですか?」
五狼先生が俺の顔をじっと見つめる。俺は反射的にペコっと頭を下げた。後ろではメリーと若大将が睨みを利かせていた。
「初めまして。私は山口五狼というしがない霊媒師をしている」
「こちらこそはじめまして、一般人の福島龍星です」
俺と五狼先生が握手をする。だが、気を利かせているのかメリー達の事を一向に話そうとしなかった。
「あのおっさんあたしらと一向に視線が合わないんですけど?本当に凄腕の霊能者なの?」
「「邪悪な気を感じますねぇ」とかベタなセリフも言わないね。もしかして、このおじさん見えてないんじゃないかな?」
後ろでヒソヒソとなんか言っている。
「それでは、撮影を始めます。5秒前、3、2、1……」
スタッフの合図で撮影が始まった。
「皆さん、こんばんは。山口五狼です。今回は5歳の息子さんが行方不明になっているお宅にやって参りました。そして、今回は私と対決する形でもう1人の霊能者をお呼びしています。福島龍星さんです」
山口五狼先生の進行でカメラが俺の方を向いた。俺は顔を引き攣らせながら、
「こ、こんばんは。ふっ福島龍星でしゅ」
思いっきり噛んでしまった。
メリーと若大将は肩を震わせながらクスクスと笑っている。
「福島さんは今回初めてのテレビ出演というので緊張している様です。福島さん、リラックスして行きましょうね」
「はっ、はいっ!」
「それでは、行方不明者の御家族に話を聞きましょう」
上手くフォローされた俺と自信に満ち溢れてる五狼先生は行方不明者の家の中に入って行った。
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