興奮しない透けパン

 ───────翌朝。俺とメリーはホテルを出て外に出ると、

 

「お兄ちゃーん!!」

「うわっ、何あれ!?」

 

 メリーの前には、若大将が真っ白なワンピースを身にまとって俺達の前に現れた。途端に若大将は俺の腕に抱き着く。

 

「お待たせ!待った?」

「待ってないし。ってか、腕になんか当たってんだけど?」

 

 俺がハイライトオフで言うと、若大将は恥ずかしそうに。

 

「鈍いなぁ……当てて───────」

「言わせねぇよ!?」

 

 そう叫びながらメリーがドロップキックを繰り出し、若大将を吹っ飛ばした。若大将は何故か大袈裟に両足をおおっぴろげに広げる。それを目の当たりにしたメリーは顔を青ざめる。

 

「ってかあんた……なんで女物のパンツ履いてんの!?ハブがはみ出てるんだけど!?」

 

 メリーが言うと、

 

「きゃっ、もおっ!お姉ちゃんのエッチ!見ないでよ!」

「汚ったないハブ見せ付けておいてそれはないでしょ!?」

「お兄ちゃんも……見ちゃった?」

 

 スカート部分をピチッと抑えながら若大将は上目遣いで俺を見つめる。俺は複雑な顔をしながら、

 

「悲しいなぁ……。相手が男だって分かってるのに、透けてるパンツを目で追っている自分がいる」

 

 思わず本音を漏らしてしまった。

 

「本能に屈してるんじゃないわよっ!あんたもさっさと立ちなさいよ」

「お姉ちゃん、朝からそんなエッチな話はダメだよ?」

「知らねぇよ!さっさと立ち上がれって言ってんの!」

 

 激昂するメリーに言われた若大将は、渋々立ち上がろうとする。だが、無駄に足を広げてハブを見せ付けようとする。メリーは思わず顔を逸らした。

 

「なんでこっちに見せるように立つのよ……」

「え?なんかお姉ちゃんに勝った気持ちになるから?」

「どいつもこいつも新手の変態かよ……まともな男見た事ないんだけど」

 

 メリーは考えるのを諦めたのか、呆れ始める。

 

「それで?今日はどこに行くの?」

「今日は……中心部に行こうかなと思ってたよ。本来の目的を果たさないと」

 

 俺がそう言う中、何故か若大将が顔を赤らめ始める。

 

「ダメだよお兄ちゃん……。こんな真昼間からラブホテルだなんて」

「言ってないんだけど。えっ、何?この巨根持ち怖いんだけど」

「ちょちょ、龍星がビビるって相当だかんね?あたしらは人探してんの。それに、ラブホテル行く意味が分かんないから」

「なーんだ。人探し?誰を探してるの?」

 

 若大将が首を傾げる。俺はスマホを取り出して恵美の写メを若大将に見せた。

 

「誰この雌豚!?お兄ちゃんってばこんな女のどこがいたたたた」

 

 俺は若大将のハブを思いっきり握った。メリーは慌てて俺を止めようとする。

 

「龍星!若大将の気持ちは分かるんだけど、こんな所でハブを捕まえないで!」

「いたいっ!いたいよ!お兄ちゃんっ!そんなに乱暴にしたら壊れちゃうよぉっ!」

 

 若大将は涙目になりながらも俺に言うが、俺は止めなかった。俺は真顔で若大将に、

 

「ごめんなさいは?」

「……えっ?」

「ごめんなさいは!?」

 

 更に力を強めた。

 

「おほぉぉぉっ!しゅ、しゅごいいいっ!   ち、ちがった。ご、ごめんな、さいぃっ!」

「改めて龍星を怒らせるとヤバいって再確認出来たわ。ほらほら謝ったんだから離してあげなって」

 

 パッと手を離すと若大将は距離を取って股間を摩り始める。

 

「おおぉ……もげると思った……。その雌……じゃなくて女の人は見た事ないなぁ……。ホントに沖縄に居るの?」

「居るからここに居るんだよ。だから今日は恵美を探す。手伝ってくれるか?」

 

 俺が若大将に問うと、若大将も真剣な顔付きに変わった。

 

「まぁ、お兄ちゃんの頼みなら仕方ない。ボクも手伝うよ」

「ありがとう。それじゃ、行こうか」

「やっとスタートラインに立った気がするなぁ……」

 

 メリーも呟きながら俺の隣を歩き始め、街に向かった。だがメリー達は幽霊の為話せる訳じゃない為あちこちを飛び回って貰ってる間に俺は国際通りの店を歩き回り、聞き込みを始めた。だが、恵美の手がかりが見付かる事は無かった。俺達は公園のベンチで一息いれながら項垂れていた。

 

「見つからねぇ……こんなに探してんのに……」

「ってか、あんた透視で見つからないの?」

「飛行機の中で透視したけど、なんでかマンションの一室しか映らないんだよ」

「マンション?この沖縄にどれだけあると思ってんのよ!」

「だからこうして国際通りを歩き回ったんだよ。この辺マンション多いから」

「やっぱりあんたあの女に騙され───────」

「ねぇねぇ、お兄ちゃんお姉ちゃん」

 

「「なに!?」」

 

 若大将の呼ぶ声に俺とメリーは鬱陶しそうに言うと、若大将はある方向に指を差した。その先には何かの番組のロケをしているのか、人集りが出来ていた。

 

 なにあれ?ロケ?

 

「ここは沖縄だもん。何かしらのロケしてるでしょ」

 

 メリーが呆れながら言うと、若大将はちっちと言いながら指を振った。

 

「アレはその辺の旅のロケとかグルメロケじゃないよ。捜索番組のロケだよ」

 

 捜索番組!?

 

 俺とメリーは若大将の方を向く。

 

「捜索番組って言った!?」

「メリー、落ち着け、あの捜索番組じゃないかも知れない」

「そ、そうよね。そんな訳ないわよねぇ!」

 

 俺とメリーが顔を引き攣らせていると、スタッフらしき人達が頭を抱えながら言い争いをしていた。

 

「どうすんだよ。先生だけじゃ数字なんて取れやしねぇよ」

「困りましたねぇ……もう1人いれば盛り上がると思うんスけど」

「馬鹿言え、そんな都合よく霊能者が現れる訳ねぇだろ」

 

 そう言いながらスタッフの1人が俺の方を見た。

 

 その瞬間。

 

「あの先輩。もうこの際、誰でもいいッスよね?」

「はぁ?まぁ、先生を引き立てれば問題ねぇけどよ」

「なら、あそこにいる人でもいいんじゃないスか?」

「あの人?」

 

 先輩と呼ばれたもう1人のスタッフも俺の方を見る。

 

「時間もそんなにねぇしな……。お前、頼んで見ろよ」

「ういっす」

 

 スタッフは先輩に促されて俺の方に小走りでやって来た。

 

「どーも、すいません。今お時間よろしいでしょうか?」

「え?俺ですか?」

 

 俺は自分に指を差す。

 

「急にお願いするのも大変申し訳ないんですけど、ほんの少しだけ捜索番組に出演して頂けませんでしょうか?」

「えっ!?テレビにあたし出れるの!?マジで!?」

「うわぁ、ボクもテレビデビューできるのかなぁ?」

 

 俺を他所に後ろでお化けたちがはしゃぎ出した。

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