若大将

 ショートパンツを下げられたボクっ娘は恥ずかしそうにペタンと座り込んで頬を赤らめながら、

 

「み、見ちゃった?」

 

 そう言われた途端。

 

「う、うわぁぁぁぁっ!!」

 

 俺は化け物を見た様な叫び声を上げた。流石のメリーも顔を赤くさせる。

 

「ちょ、ちょっと!さっさとショートパンツ履きなさいよ!」

「あはは、見られちゃった」

 

 立ち上がってパーカーを引っ張って隠そうとしているが、大きなハブは隠れきれて無かった。

 

 ボクっ娘って可愛いもんじゃない。今後は若大将と呼ぶべきだ。

 

「ちょっと龍星!いつまでも騒いでないでなんとかしなさいよっ!」

 

 メリーに促されるが、俺は至近距離で若大将のハブを見せられてしまった為腰が抜けて動けなくなっていた。

 

「こんな時に何腰抜かしてんのよっ!」

「こ、こんな立派なモノを見せられて平気な訳がないだろ。ありゃ一般男性が見たら自信を無くすレベルだ」

「知らないわよそんな事!早く立って!」

 

 無理矢理俺を立たせようとメリーが俺の両手を引っ張る。だが、全体重を掛けている為ビクともしない。そんな時、若大将が声を掛けてきた。

 

「ねぇお兄ちゃん」

「貴様にお兄ちゃんと呼ばれる筋合いはないっ!」

「腰抜かしてても口は達者なのね」

 

 メリーに皮肉を言われながらも俺は若大将に悪態をつける。それでも尚、若大将は俺に近付いて来る。

 

「お兄ちゃんのせいでボクはもう興奮しっぱなしなんだ。さぁ、お兄ちゃん。さっきの続きをやろうよ、続きはトイレでやろうか  さぁっ!」

 

 そういいながらこの華奢な体にどこに力があるのか、俺の足を力強く掴んで引き摺り始めた。

 

「はわわわわっ!メリー!メリー!助けて!」

 

 漫画のヒロインの様に助けを求めるが、メリーは余程めんどくさいのか目を逸らす。

 

 え?何その反応?

 

「ごめん、あたしをこのカオスに巻き込まないでくれる?」

「た、頼むっ!このままじゃ俺は色々トラウマが生まれちまう!」

「知ったこっちゃないわよ。2人で解決して頂戴」

 

 メリーの言葉を聞いた若大将は妖艶な顔をする。

 

「お姉ちゃんの許可が降りたなら……いいよね?」

「い、いやだ!いやだぁぁぁぁっ!」

 

 俺はガリガリと地面に爪を立てるが抉れるだけだった。そして、さっき立ち寄ったトイレに引き摺り込まれそうになる。俺は男子トイレの入り口に掴まって必死に踏ん張ろうとする。

 

「うおぉ……トラウマを植え付けられてたまるかっ!」

「んもぉ〜。お兄ちゃんも強情だなぁ」

 

 若大将がそう呟くと俺の服を捲って、

 

「後ろからイジられる気分はどう?」

「ハゥンッ!!」

 

 乳首を抓られた。

 

 不意をつかれた俺は力を緩めてしまい、それを見逃さなかった若大将は一気に個室トイレに引き摺り始める。

 

「うわぁぁぁぁっ!!」

 

 バタンと個室トイレは閉ざされた。メリーは考え直したのか、男子トイレの入り口から顔を覗かせて様子を伺う。

 

「り、龍星?」

「鎌の柄を……ゆっくり……馴染ませて……」

 

 暗い男子トイレから変な言葉が響いていた。メリーは慌てて個室トイレの扉を叩く。

 

「龍星!ちょっと大丈夫なの!?龍星!!」

「ひゃう!ひょおおおっ!」

 

 俺は日本語を失いパニック状態で叫び、メリーに助けを求める。いよいよ身の危険を感じ取ったメリーは右手をかざして霊力で鍵を開けた。俺はトイレットペーパーの芯を片手に半ケツ状態で飛び出した。

 

「龍星大丈夫!?」

「うおうっ!おおん!?」

「ちょっと何言ってるか分かんないんだけど!?」

「ねぇねぇ……これからがいい所だったのに……。邪魔しないでよ」

 

 若大将はどこに隠していたのか、右手に鎌を持っていた。先程とは打って変わって凄まじい殺気を出していた。殺気を感じ取ったメリーは若大将を睨みつけながら、

 

「ちょっとオイタが過ぎたんじゃない?」

「邪魔するなら、お姉ちゃん殺しちゃうよ?」

 

 対抗する様に若大将も鎌をメリーに突き付ける。メリーは左手を出して手招きする様に振る。

 

「上等よ。かかってらっしゃい」

「じゃぁ  行くよぉっ!!」

 

 若大将がメリーに襲いかかる。だが、メリーは若大将の顔面を鷲掴みにして持ち上げ床に叩きつけた。

 

「がはっ!!」

「そんなんであたしを殺せると思ってたの?」

 

 若大将を抑えながら辺りを見渡し、

 

「龍星大丈夫?」

「いやぁっ!見ないで!」

 

 俺はケツを突き出しながら怯えていた。それを見たメリーは汚物を見るような目で見つめる。

 

「いやあの、見るなって言うならその汚いケツをしまいなさいよ」

「だって!若大将がっ!」

 

 ケツをフリフリと振りながら言い訳をする。

 

「何ケツ振りながら言い訳してんのよ!状況考えなさいよっ!」

「なんかメリーに勝った気分になれるんだよね」

「何に勝ったんだよ、新手の変態かよっ!」

 

 俺とメリーが言い争っていると、床に叩きつけられていた若大将が口を開いた。

 

「あいたた……やっぱりお姉ちゃんは強いなぁ」

「あんたにお姉ちゃんって呼ばれる筋合いないわよ。あんたもさっさと下履きなさい。引きちぎるわよ?」

 

 ドスの聞いた声で若大将を脅すメリー。若大将は降参して鎌を手放した。その後、落ち着いた俺達はトイレから出でベンチに座る。

 

「で?なんで若大将は幽霊になったの?女にでも捨てられた?」

 

 俺はメリーの陰に隠れながら若大将に尋ねた。

 

「ボクの事知りたいの?」

「知りたいわね」

 

 すると、若大将はクスクスと笑う。

 

「教えな〜い。どうしてもボクの事を知りたいならもっと仲良くしてくれなきゃ」

 

 無邪気な笑顔の若大将に俺はケツをキュッと力を入れる。

 

「まだお兄ちゃん達沖縄にいるんでしょ?ボクもついて行っていい?」

 

 何を言い出すんだこの男は。

 

「はぁ!?なんで野郎2人連れて歩かなきゃないのよ!無理無理!」

「硬いこと言わないでよお姉ちゃん。両手に花じゃん」

「花?変態と変態に挟まれる気持ちあんたに分かる!?」

「いいじゃ〜ん。ねぇ?お兄ちゃんもいいでしょお〜?」

 

 妙に幼く、甘えかかるような声で若大将は俺に言う。ケツを守りながら俺は根負けして、

 

「わかったわかった。沖縄にいる間若大将に案内して貰うから」

「はぁっ!?嘘でしょ!?」

 

 俺の言葉を聞いた若大将はパァっと明るくなる。

 

「ホント!?やったぁ!お兄ちゃん大好き!」

「巨大ハブをぶら下げた貴様が気安くお兄ちゃんと呼ぶな!」

 

 抱きつこうとした若大将を俺は思い切り振り払う。

 

「もう、冷たいなぁ。けど、明日はうんとおしゃれして行くね!」

「はいはい。だったらもう帰りなさい」

 

 メリーはうんざりとした顔をしながら若大将を追い払う。

 

「んじゃ、また明日ね!お兄ちゃんお姉ちゃん!」

 

 そう言って若大将は公園の暗闇に消えて行った。

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