鎮魂
ザンと別れ、○○島から出て沖縄に戻り観光を楽しんだ俺とメリーはサトウキビ畑と夕陽を眺めていた。
「すごい綺麗ねぇ」
「そうだなぁ。こんな夕陽は初めてかも」
「そろそろホテルに行こうか」
「そうね、そうしましょ」
ホテルに戻る為に来た道を戻ろうとしたその時、別の畑に行く道に大勢の人が列を生して歩いていた。それを見たメリーが耳元で囁く。
「あの行列何かしら?」
「なんだろう?祭りでもあるのかな?」
気になった俺は歩いているおばあさんに声を掛けた。
「こんばんは。あの、これから何か祭りでもあるんですか?」
おばあさんは俺達に顔を向けた。
「あんたら、本土の人かい?」
「はい。そうです。観光に来ててそろそろ街に戻ろうと思ってたらおばあさん達を見かけたので何かあるのかなと思って声をかけたんですが?」
俺の質問に、おばあさんは気さくに答えてくれた。
「これから戦争で戦ってくれた兵隊さんを供養しに行くんだよ」
おばあさんの言葉に俺は思わず口を塞いでしまった。メリーも思い出したかの様に手をポンと叩く。
「そういえば沖縄は激しい戦地だったわね」
そう、沖縄は戦争で多くの兵隊さん達が亡くなった所でもある。
これも何かの縁と思った俺は、
「あの、俺も一緒について行って良いですか?」
「ああいいよ。本土の人も拝んで行ったらいいさ」
「えっ!?行くの!?」
おばあさんと俺の会話を聞いたメリーは思わず二度見する。だが、メリーと話す訳にも行かないのでメリーの意見も聞かずに俺はおばあさんと共にその場所へと向かった。供養する場所は野球が出来るくらい開けた場所で身長を遥かに超える草木が生えている場所だった。あちこちに地元の住民やお坊さんが儀式の準備をしていた。
「本格的なんだね」
「そりゃ日本を守ってくれた兵隊さんを供養する儀式だからね。しっかりやらないと英霊達に失礼だよ」
「……そうね。あたしは邪魔になりそうだから離れてるわね」
メリーも英霊達に気を遣って俺から離れて行った。俺も懐からローラさんに直してもらった十字架が付いた数珠を取り出し、準備をしていた中年のお坊さんに声をかけた。
「すいません。俺も儀式に参加したいんですけど良いですか?」
お坊さんはゆっくりと振り返って、
「はい、それは構いませんが……法衣はありますか?」
法衣……お坊さんが着てる服か。
「いえ、法衣は持ってないです。法衣がないとダメですか?」
「そんな事ありませんよ。では、私の作務衣をお貸ししましょうか?」
「良いんですか!?」
俺は申し訳なさそうに言う。お坊さんは両手を合わせながら、
「これも何かの縁ですし、何より参加する事に意味があるのです」
「ありがとうございます」
「では、こちらへ」
お坊さんは偉い人なのか役員らしき人に説明して休憩室として使うテントの中に特別入れて貰った。中には着替えているお坊さんが何人もいた。俺もお坊さんから作務衣の着替えを手伝ってもらった。
「これで良いでしょう。では、皆さん時間ですので参りましょう」
「はいっ!」
俺達は設置された祭壇に向かった。儀式の場所は草木に覆われた場所で拓けた場所に観客席が並んでおり、観客席の前には祭壇と俺達が座る畳が用意されていた。作務衣を貸しくれた偉いお坊さんを中心に横一列に座ってその時を待った。そして、太鼓をドンドンと鳴らした。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
これって、確か【十念】ってやつか?
十念とは。【南無阿弥陀仏】を10回称える作法のことを言う。
俺も一語一句間違えないように他のお坊さん達と合わせた。唱え終えると、【般若心経】を唱えると言う。般若心経は、お経の中でも最も知名度が高いものであり、さまざまな場面で読み上げられるもので、般若心経は本当の名を「般若波羅蜜多心経」と言い、「自分の知恵を使って彼岸へ至るまでの教え」といった意味合いを持っている。
「仏説摩訶般若波羅蜜多心経〜」
俺に作務衣を貸してくれたお坊さんが最初に唱えると、続いて他のお坊さんが唱え始めた。それに合わせて俺も唱える。
「仏説摩訶般若波羅蜜多心経〜」
俺達が唱えていると、会場の人達全員が手を合わせて拝んでいた。すると、そよ風が吹き始めると俺は会場の異変に気付き、目を開けた。
なんだ、この雰囲気は?
お経を唱えてる途中に見渡す訳にもいかないので目だけを動かして草木を見つめてみると……草木の間から男性と思われる顔がこちらを覗いていた。俺は思わず目を逸らしてしまう。だが、儀式はまだ続いてる為その場を離れる訳にはいかなかった。もう一度同じ場所を見てみると……今度は息を殺して儀式を見つめる4人の兵隊さんがはっきりと見えた。
怖がったら失礼だよな……。
そう思った俺はお経に心を込めて唱え続けると、1人の兵隊さんが俺にゆっくりと近付いて来た。歳は俺より若そうで、キリッとした顔立ちだった。俺はその兵隊を見つめていると、兵隊さんは俺に声を掛けてきた。
「貴方は……私達が見えてますね?」
そう言われた。俺はゆっくりと頷くと、
「そうですか……今の大日本帝国は平和ですか?」
兵隊さんは不安そうな顔をしながら俺に尋ねて来た。俺はゆっくりと首を縦に振ると……。
「そうですか……。我々の死は無駄では無かったのですね」
その言葉を聞いた途端、俺の目からは何故か涙が零れていた。
ご苦労様でした……。
俺はゆっくり頭を下げた。それしか考えられなかった。すると、他の兵隊さん達も近付いて来ると、草木の奥からは米兵らしき兵隊さんも現れた。その数は参列した人より多かった。俺の返事を悟った兵隊さんは微笑みながら、
「そうですか、これからの日本を頼みます……」
そう言い残し、他の兵隊さん達と共に霧のように消えていった。
2時間後。
儀式が終了し着替え終えると、作務衣を貸してくれたお坊さんが俺に声を掛けて来た。
「ご苦労さまでした、いかがでしたか?」
俺は涙を拭いながら、
「とてもいい経験になりました。ありがとうございました」
俺がそう言うと、お坊さんはうんうんと頷く。
「それは良かったです。どうやら貴方は特別な力がある様ですね」
お坊さんの言葉に俺は驚いた。
「分かるんですか!?」
「ええ、我々は長い修行をして培われるのですが貴方は格が違う様ですね。その力を正しくお使い下さい」
お坊さんはそう言い残し、他のお坊さん達と共に帰って行った。すると、終わったの見計らっていたメリーがスッキリした様な顔をしながら俺に近付いて来た。
「いやぁ、お経でなんかリラックス出来た。肩のコリが解れたわ」
「浄化されたんじゃないかって心配してたよ!」
俺がそう言うと、メリーは笑いながら。
「まさか、除霊じゃないんだからあたしが消される訳ないでしょ。兵隊達はあんたの言葉を聞いてスッキリして成仏した見たいだけどね?」
「やっぱり成仏したのかな?」
「うん、あたしも見てたからね。ほら、そろそろ帰りましょ」
メリーに促された俺は歩き始めた。
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