〇〇公園

 鎮魂の儀式を終えた後、沖縄に戻った俺達はホテルにチェックインしてホテルの窓から月の光が照らされている大海原を眺めていた。メリーは自前のパジャマ姿、俺は備えられていたバスローブに身を包みながら優雅に満喫していた。

 

「絶景絶景」

「綺麗ねぇ……心が癒されるわぁ……」

 

 夜風が吹く中俺はふとメリーの方を向くと、金髪の髪を靡かせながら黄昏ているメリーが海で遊んでいた時の様にまた見とれてしまっていた。視線に気付いたメリーと目が合ってしまった。

 

「な、なによ?」

 

 ジト目で俺に言う。咄嗟に俺は、

 

「いや、こうしてまじまじと見るとメリーって綺麗なんだなって」

 

 と嘘偽りなく言うと、メリーが顔を赤くさせた。

 

「ちょ、そ、そんな事急に言わないでよ!調子狂うんですけど!?」

「え、んじゃ今のナシ」

 

 今度は真顔で今の言葉を撤回する。だが今度は泣きそうになり、

 

「確かに言うなって言ったけどさ、今すぐ急に冷たくならないでよっ!なんなの!?」

「言うなって言うから……」

「少しは乙女心を勉強しろよ!」

 

 情緒不安定な奴だ。

 

 メリーに掴まれ揺すられて居ると、俺のお腹の虫がグゥ〜っと鳴き始めた。

 

「そろそろ晩飯でも食べるか」

「そ、そうね。けど、どうするの?外にでも食べに行く気?」

「いやルームサービスでいいかなぁって思ってたけど?」

 

 俺の言葉にメリーは首を傾げる。

 

「めっずらしぃ〜。あんたの事なら「外で食べて心霊スポットでも聞き込みしよう!」とか言い出すかと思ったんだけど?」

 

 メリーが嫌味っぽく言うと俺はちっちと指を振る。

 

「ノンノン。足で稼がなくても聞き込みは出来るさ」

「え?それってどういう事?」

「まぁ見てなって」

 

 不思議がるメリーを他所に俺は電話でルームサービスを頼んだ。数十分後、若い男性スタッフと共に料理が部屋の中に運ばれて来た。

 

「お料理は以上でお間違いありませんか?」

「はいっ、大丈夫です。ありがとうございました」

「では、失礼します」

 

 若い男性スタッフが部屋から出ようとしたその時、俺は声をかけた。

 

「あっ、ちょっと良いですか?」

「はい?何でしょうか?」

「この辺に有名な心霊スポットとかありませんか?ちょっと肝試しに行きたいんですけど?」

 

 俺の言葉にメリーはようやく理解した。

 

「あっ、なるほどね。ルームサービスに来たスタッフが教えてくれるって訳ね」

 

 メリーが頷くと、若い男性スタッフが少し考えた後に口を開いた。

 

「そうですねぇ……〇〇公園がここから10分程度で行ける場所がありますよ?」

「〇〇公園?それはどんな所なんですか?」

 

 若い男性スタッフが言うには、昼間でも暗い雰囲気に包まれている公園で、霊感がある人にはとても危険な場所とも言われているらしい。公園の内部には洞窟があり「ここから先は、霊域により命の保証は出来ません」などの表記がされているとの噂もあると言う。

 

「そんなに有名なんですね!」

「はい。私が学生の頃から有名な所でしたから。なんでも【ユタ】の修行場所に使われているとも言われてます」

 

 ユタ?

 

 聞いた事のない単語に俺とメリーは首を傾げる。

 

「何かしら?ユタって?」

「すいません。ユタってなんですか?」

「本土の人の言葉で言うと霊能者の事ですね。それと、〇〇公園は殺人事件の現場でもあるらしいです」

「殺人事件?」

「はい。私も先輩から聞いた話なんですが……」

 

 若い男性スタッフの情報では、○○公園にある日カップルが訪れた際に、トイレに行ったきり戻らない男性を不信に思い様子を見に行ったという。トイレに近づいた女性は、首が切られ変わ果てた姿の男性を発見したというのだが。〇〇公園で起きた殺人事件では所説あり、男がカマを片手に彼女の頭を持っていた。女が右手に彼氏の頭を持っていた。など似たような話しであるらしい。

 

「へぇ〜。沖縄にも面白そうな奴がいるじゃない」

 

 話を聞いたメリーが興味が湧いたのか滅多に見せない妖艶な顔を見せていた。

 

「情報ありがとうございました」

 

 情報を聞き終えると、若い男性スタッフは顔を曇らせる。

 

「あ、あの……スタッフの私が言った後に言うのも大変申し訳ないのですが……行くのは止めて置いた方が良いと思います。私のヤンチャな先輩達が肝試しに行った後には必ず「あそこには絶対行くな!!」と言うくらいなのでお勧めは出来ませんよ?」

 

 と若い男性スタッフに忠告されてしまった。

 

 そんなにヤバい所なのだろうか……。

 

 忠告した若い男性スタッフはそそくさと部屋を後にする。俺とメリーは豪華な料理を堪能していると、南国のフルーツの生気を吸って口いっぱいしながらメリーが言い放つ。

 

「ねぇねぇ。さっきの〇〇公園にめっちゃ行きたいんだけど」

「珍しいな。お前がそんなに興味を示すなんて」

「だって、口裂け女さんやお岩さんレベルにヤバい奴なんて久しぶりじゃない?会ってみたいって思うが普通じゃない?」

 

 確かにここに来てからは英霊やザンにしか会っていないな。

 

 沖縄名物のソーキそばをすすりながら俺は、

 

「うーん、確かにここらでセクハラ出来る幽霊に会いたいね」

「なんでセクハラする前提で言うかな?」

「だって幽霊にセクハラしても罪にはならないっしょ?」

「いや、まぁ……そうだけどさぁ……なんかさぁ……」

 

 満面な笑みで答える俺を見たメリーは、何かを後悔するように頭を抱え込んでしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る