人魚伝説

 ──────翌日。俺とメリーは○○空港から飛行機に乗り、透き通る海と白い砂浜が広がる沖縄県にやって来た。空港から出てみると、沖縄県の冬の平均気温は18℃前後と本土の春ほどの値だが、体感温度は低く感じられる。メリーは背伸びをしながら辺りを見渡した。

 

「やっと着いたわねぇ。3時間くらいかしら?」

「まぁ、そんなもんだな。他にも人がいるから会話出来ないぞ?」

「それは仕方ないわよ。あたしも気を付けるから安心しなさい」

 

 メリーが鼻息を荒らげる中、俺は恵美さんからのLI○Eの返信を確認していた。朝に送ってから2時間経つが、既読は付いていなかった。

 

「恵美さん、まだ寝てるのかなぁ?」

「まさか、あんたが本気で沖縄に来ると思って無かったからビビってるのよ。そのうち誤魔化しの返信が来るわよ」

 

 メリーにあしらわれながら腕時計を確認してみると、まだ9時過ぎだった。

 

「どーする?時間つぶしながらどっか観光でもして見る?」

「えっ!?マジで!?なら国際通りに行きましょうよ!色んなお店あるんでしょ!?昨日花子達と観光雑誌見て勉強したの!」

「え、それは後でで良くない?」

「見るのはタダじゃん!いーじゃん!行こうよ!」

 

 メリーが俺の腕をグイグイ引っ張って行こうとするが、俺は踏ん張りながら言い放つ。

 

「それは後でいいじゃん。俺だって行きたい所あるんだから!」

「どこよそれ?ひめゆ○の塔とか?」

「いやそこも行きたいけど、こっちに行きたいんだよ」

 

 俺はスマホの画面をメリーに見せた。メリーはまじまじとスマホの画面を見つめる。

 

「なになに?○○島の人魚伝説?いや○○島って沖縄より下じゃん。飛行機乗らないと行けないじゃん」

「ところがどっこい予約済みです」

「なんでそういう時に限って仕事が早いのよ!ってか空港から出る事無かったじゃん!」

 

 メリーは俺の肩をぐわんぐわん揺らす。揺すられながら俺は答える。

 

「まぁまぁ、メリーだって新しい水着で海泳ぎたいでしょ?」

「え?いやまぁ……そうだけど……」

「俺だってメリーが水着を着替える所見たいし?」

「着替えるとこってなんだよ。普通水着姿でしょ!?着替えるとこ見たいって堂々と覗いてるだけじゃねぇかよ!」

 

 胸元を隠しながらメリーは言う。俺は腕時計を確認しながら、

 

「おっと、○○島に行く便がもうすぐ出ちゃうよ」

「だったらもっと早くしなさいよっ!無駄な時間じゃない!」

 

 メリーにぶつくさ文句を言われながら○○島へ行く飛行機に乗った。○○島は約1時間弱で行く事が出来る。

 

 到着後。

 

 俺とメリーは○○島空港に降り立ち、仕切り直した。

 

「やっとゆっくり出来るのねぇ、あんまり人いなかったわね」

「まぁな、時間帯が混まなかっただけじゃないか?」

「で?どこから見る?○○島鍾乳洞?天文台?」

 

 メリーは家で燃やしておいた観光スポット雑誌をベラベラと捲りながら俺に言ってくる。

 

「いや、○○公園に行こう」

「○○公園?なんで?」

 

 メリーが首を傾げると、俺はスマホ画面を見せた。

 

「人魚伝説?」

「そう、○○島と言ったら人魚伝説だろ!」

「あははっ!まさか、龍星は人魚が本当にいると思ってんの?」

 

 メリーはゲラゲラ笑いながら言い放つ。

 

「笑いたきゃ笑え。お前がなんと言おうと俺は行くよ」

「分かった分かった。行くわよ。ここから車で30分程度よね?」

「うん。レンタカー借りて行くぞ」

 

 行き先を決めた俺達は近くのレンタカーの店に足を運んで車を借りて○○公園に向かった。景色を眺めながら30分後、ようやく○○公園に辿り着いた。雑誌の情報によると海中にはカラフルなサンゴや熱帯魚が生息し、海面の色は七色に変化すると言われており、時間帯によっては川平湾が異なる表情を見せてくれるという。浜辺に行くとメリーは靴を脱いでバシャバシャとはしゃぎ始めた。

 

「きゃー!コレよコレ!こういうのがやりたかったのよ!」

 

 他にも観光客がいた為俺は黙って頷く。それなのにお構い無しにメリーは俺に声を掛けてくる。

 

「龍星気持ちいいよ!きゃははっ!」

 

 はしゃいでいるメリーは幽霊とは思えない程美しい笑顔だった。俺は思わず見とれてしまったが、はっと我に返る。すると、メリーは我慢出来なくなったのか、興奮しながら言い放つ。

 

「龍星龍星!我慢出来ない!泳ぎたいっ!ここじゃアレだから人が居ない所に行って泳ぎたいっ!」

 

 そんなに泳ぎたいのか……。

 

 俺は雑誌を捲ってメリーに指を指す。

 

「え?なになに?潮の流れが速いことと、観光用のグラスボートが数多く行き来している関係で、海に入ると事故を招いてしまいかねず、海水浴を行えなくなっている……マジ?」

 

 メリーが俺に聞いてくると俺は黙って頷く。

 

「いや人間はダメかも知れないけど、あたしは幽霊だしね?溺れたりぶつかったりしないしね?」

 

 あっ、そっか!

 

 俺は手をポンと叩いて納得した。

 

「でしょ?ほらっ、あっちの方なら人も居ない見たいだし」

 

 メリーはそう言いながら差した場所に向かい出す。俺はメリーを追いかける様に歩き出す。少し離れてみると人はおらず浜辺が途切れて岩場が目立ち始めた。メリーは辺りに人が居ないのを確認して声を掛ける。

 

「人間はあんただけ見たいね、話しても大丈夫よ?」

「おう。泳ぐなら今だぞ?」

「うん!着替えてくる」

 

 メリーが岩場の影に行こうと歩き出すが俺も同時に同じ場所に向かう。メリーは勘づいたのか、俺を睨み付ける。

 

「何してんのよあんた」

「いや、ハブが居たら大変だ。見張ってやるよ」

「だからあたし幽霊だっての!噛まれる訳ないでしょ!?」

「お化けハブが居るかも知れないだろ!」

「お化けハブって何よ!聞いた事無いわよ!そこで待ってなさいよ!」

 

 俺を行かせないと俺の顔を押し戻そうとする。だが、俺は負けじと押し戻そうとする。

 

「こっのっ……なんなのよこの力!?」

「早く着替えろよ!パンツとブラジャー見せろよ!」

「もう本音がめっちゃ出てるじゃん。裸見ようとしてるじゃん!」

「その水着だっていくらすると思ってんだ!金が払えねぇなら体で払いやがれこの悪霊めっ!」

「うるさいわよっ!分かったわよっ!見せればいいんでしょ!?好きなだけ見ればいいじゃない!」

 

 半ば開き直ったメリーは岩場には行かずにその場でドレスのボタンとリボンを外し始めた。メリーは頬を赤らめながら正座している俺を見る。

 

「そ、そんな改まって見ないでよ……恥ずかしいじゃない」

「お構い無く」

「まったく、幽霊相手によく出来るわね……」

 

 スルスルとドレスを脱いで行こうとしたその時。岩場の方から激しい水しぶきの音が聞こえて来た。メリーと俺は音の方向に顔を向ける。

 

「えっ、何!?人間!?」

 

 メリーは脱ぎかけたドレスを抑えながら俺に言う。

 

「なんだろう?くそっ、いい所だったのに……」

 

 けど、人が溺れているのかも知れない。

 

 俺とメリーはゆっくりと岩場の方に行って見ると、

 

「うわー!うわぁー!た、たすけ……ゴボゴボ……ぶはっ!」

 

 透き通った翡翠色の髪と瞳、抜群のプロポーションと人間離れした美貌の女の子が鼻水を垂らしながら溺れていた。

 

「大変っ!ちょっと龍星助けてあげて!」

「こりゃ大変だ!大丈夫ですかー!」

 

 俺は靴と靴下を脱いでバシャバシャと近付いて引き上げてみると女の子の下半身が魚のヒレの様になっていた。

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