俺だって新しい彼女がほすぃ!

 それから数日後。毎日仕事に明け暮れて日々を過ごしていたある日、俺は日報を書きながらふと思った。

 

「あー、彼女ほすぃ」

「えっ、なに急に!?」

 

 同じく日報を書いていた佐藤さんに突っ込まれた。それに関わらず俺は更に大きな声で叫んだ。

 

「新しい彼女がほすぃよぉっ!」

「いや仕事中に出す音量じゃないからね!?」

「毎晩毎晩心細いよぉっ!!うわぁぁぁん!」

「もしもし部長っ!福島くんがまた発作起こしましたぁっ!」

 

 俺が丁寧に日報を書きながら錯乱していると、佐藤は電話で警備部長に応援要請した。数分後、息を切らしながら入って来た警備部長がロッカーからスルメを取り出し、俺の口に差し込む。

 

「まむまむ……ちゅぱちゅぱ」

「ふぅ、これで良し」

 

 俺が落ち着きを取り戻し、赤ちゃんの様にスルメをしゃぶり始める。警備部長はふうっと汗をぬぐいながら椅子に腰掛け、佐藤さんが声を掛けた。

 

「部長、毎日こんな調子じゃ不味いですって。なんですか赤ちゃん見たいにちゅぱちゅぱスルメしゃぶってるの見るに堪えないっすよ」

「商業施設からずっと働き詰めだったからねぇ……精神が限界なんだろう」

「ママ〜ちゅぱちゅぱ」

「こんなイケメンなのにヤバいですって!!なんすかママって」

「福島くん。もうすぐ帰れるからね?だからもう少し頑張ってくれ」

 

 警備部長が子供を宥めるように促す中俺は、

 

「マ゛ッ!!アッ!!」

 

 威嚇した。

 

「なんて言ったの今!?」

「そうだね。寂しいのは分かるけど、今は頑張ろう?」

「今の言葉分かったんですか!?」

「勿論さ。さぁ、福島くん、あと30分だ、頑張ってくれ」

 

 警備部長に背中を優しく摩って貰うと、俺はようやく正気を取り戻した。

 

「…………っは! すいません!また出ちゃいました!?」

「ようやく正気を取り戻したね。もうすぐ交代だから頑張ってくれ」

「すいません。頑張ります」

 

 しばらくして。

 

 ようやく交代の時間になり帰宅する事になった。俺は帰り道にTSU○AYA○○店に足を運び、寂しさを紛らわせる為にDVDを借りる事にした。店に入るや否や、

 

「いらっしゃいませ福島氏。今日こそエロアニメの素晴らしさを刮目するでござる!」

 

 自動ドアを通った瞬間、どこからともなく背後から現れたイケメンオタク。俺は辺りにお客さんが居ないこと確認した俺は振り返る。

 

「いや今日はいいや。えーと石川さん、恋愛映画でお勧めの奴とかある?ちょっと寂しくてさぁ……」

 

 そう言った瞬間。石川虎徹は冷めた目をしながら、

 

「けっ、福島氏も忌々しいリア充の仲間入りでござるか?そんな奴は拙者の同士ではござらんよ。リア充はその辺のG級映画でも借りてさっさと出てけでござる  ぺっ!」

 

 もの凄い悪態をつけて来た。

 

「そんな事言わないでよ。お詫びにえーっとなんだっけ?豊満熟女のイケナイスポーツだっけか?」

「一文字も合ってないでござる!正しくは【ツンデレで何がいけないの!?貧乳騎士メルメル】でござる!まずはこれで慣らして行くといいと以前言ったではござらん─────」

「あっ、お客さん」

「いらっしゃいませー!」

 

 器用に言葉遣いを変える石川虎徹。他のお客さんが奥に行ったのを確認して、

 

「福島氏、拙者で遊ぶのは止めて頂きたい!」

「だってお客さんじゃん。あんた接客が命だろ?」

「そ、そうでござるが……と、兎に角!これを借りるでござる!」

「分かった分かった。んじゃその代わりに恋愛系のやつ教えてよ」

「ったく、仕方ないでござるな……」

 

 石川虎徹はレジのパソコンを操作し、何かを調べ始めた。日頃から扱ってるせいか、もの凄いスピードのタイピングで文字を入力して行く。

 

「……ふむ、どうやら【チョコレートLove】っていう恋愛ドラマが良くレンタルされておるようでござる」

「へぇ、そうなんだ。んじゃそれ借りるわ」

「運が良いでござるな福島氏。1本だけ在庫があるでござる。奥行って左側の3番目の棚にあるでござる」

「はーい」

 

 俺は指示された場所へ向かってお目当てのDVDを見付けた。

 

「あっ、コレだコレだ」

 

 手を伸ばしたその時。横から見知らぬ手が伸びて来た。俺が隣を見ると、そこには黒のボブカットの女性が立っていた。

 

「「あっ」」

 

 恋愛ドラマのよくあるシチュエーションの様な状況になってしまった。俺は思わず手を引っ込ませて彼女に譲った。

 

「あっ、良ければどーぞ」

「えっ?良いんですか?」

「いやいや、ここはレディファーストって事で」

 

 女性は俺に会釈しながらDVDを手に取り去り際に香る香水はとてもいい匂いがした。それと同時に俺の胸がときめいてるのに気付いた。

 

 コレはまさか、恋っ!?

 

 俺は貧乳なんとかというDVDを借りずに渋そうな映画を適当に手に取ってレジに向かうと、先程の女性が石川虎徹の接客を受けていた。

 

「ありがとうごいましたー!」

「あっ、先程はどうも……」

「いえいえこちらこそ」

 

 お互いに頭を下げると、女性は自動ドアを通って外へ出て行った。俺は彼女をずっと見つめながらレジに立つ。

 

「福島氏、先程の女性に先を越されたでござるか?ブフォ!!いい気味でござる」

「うん」

「福島氏!なんですかこのラインナップは!?【ツンデレで何がいけないの!?貧乳騎士メルメル】はどうしたでござる!?」

「うん」

「有り得ぬ!分からぬでござる!」

「うん。早くして」

「ぬぅぅっ、心ここに在らずですな……」

 

 石川虎徹は渋々会計を始めた。

 

「合計で400円でござる」

「釣り要らない」

「ま、毎度ありがとうございます……」

 

 俺は早々と外に出ると、辺りを見回すが彼女の姿は既になかった。

 

 もういないか……。

 

 諦めかけたその時。

 

「あのっ!」

 

 さっきの女性の声が聞こえた。俺は慌てて後ろを振り返ると、さっきの女性が立っていた。

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