捜索番組
新年が明けて商業施設の応援が終わる日が近付いて来た。俺は新年の初出勤を商業施設の初売りを迎えていた。職場に到着した頃には初売りを求めるお客さんの行列が出来ていた。
「おはようございまーす。凄い行列ですねぇ」
「おはよう、福島くん。残り少ないのに申し訳ないね」
「いえいえ、そんな事ないですよ」
「この商業施設の最大イベントでもある。トラブルの無いように気を付けよう!」
俺達は開店と共に配置に就いた。お客さん達は我先にとお目当ての店の福袋に駆けて行く。1時間経っても、2時間経ってもお客さんが途絶える事は無かった。ある時は迷子、またある時は落し物、またまたある時はお客さん同士のトラブルが起きる始末だった。そしてようやく、渡辺さんと昼休憩の交代が来た。
「福島くん、休憩だ」
「お疲れ様です。ようやくですね」
「1時間だけだけど、ゆっくり休んでくれ」
「分かりました。行ってきます」
1時間後。
休憩はあっという間に終わり、俺は持ち場に戻って業務を再開した。午後からも荒れ狂う人混みに揉まれながら業務をこなし、商業施設の新年初売りを終えた。日報を書き終え、タイムカードを押して帰宅するとお化け達がなにやら神妙な顔つきでテレビに釘付けになっていた。
「ただいま……って、新年早々何見てんだ?」
「うるさいっ!ちょっと静かにしててっ!」
メリーがこっちに振り向かず言い放つ。
やけに真剣だな、何を見てるんだ?
おくまの頭を撫で廻して服を着替えながらテレビを眺めて見ると、一昔前によく放送されていた行方不明者を捜索する番組だった。MCが行方不明者のパネルの隣に立ちながら情報を求めていた。
《○○さん、男性、年齢は30歳。タバコを買いに行くと言ったきり行方が分かってません。どんな些細な情報でも結構です!○○さんの顔を見た事がある方はご覧の番号にお電話下さいっ!》
MCの隣には奥さんなのか涙ぐみながら視聴者に訴えた。
《お願いします……私の夫を探して下さい……お願いします!》
奥さんの言葉を聞いたお化け達が、
「こんな可愛らしい奥さんを放って一体何をしとるんじゃ!?」
「下郎めっ!四肢を引きちぎってやろうか!?」
「ゆ、ゆるせないっ!」
「可哀想ですね、何処へ行ってしまったのでしょうか?」
「どーせ借金とかなんかでケツまくって逃げたんじゃねぇのか?」
「おじさんみたいにクズじゃないから」
「なんだとこの小娘っ!」
「お?やんのかこのハゲェッ!!」
メリーがおじさんのゲージを掴んでガシャガシャと揺らし始める。そこにジャージに着替えた俺が介入した。
「うるさいんだけど、何?何騒いでんの?」
「聞いてよ龍星!このハゲがっ!」
「ハゲって言うな!」
「そこじゃないでしょ。何?新年早々シビアな番組見てるけど?」
俺の声がようやく耳に届いたのか、だーりんが振り返った。
「なんだ、帰っていたのか?貴様、透視が出来るんだよな?もしかしてこの人間を探せたり出来るんじゃないのか?」
「えぇ〜?まさか、無理に決まってんじゃん」
ほう、面白いじゃないか。
メリーの挑発に乗った俺は、行方不明者のパネルをじっーっと見つめて集中した……。透視をして見ると、行方不明者はどこかの寂れたスナックでホステスを必死に口説いている風景が見えた。スナックでも捜索番組を放送していた。
《あら?あの番組に出てるのお客さんじゃないの?》
スナックのホステスに指を差された当の本人は、
《あー?あのバカ女、あんな番組なんかに出やがって……。消してくれ!俺はもう帰らねぇって決めたんだ!》
《えー?でも可哀想じゃない?》
《良いんだよ、金せびっても出しやしねぇしな。俺は○○ちゃんが居てくれれば良いんだよ!》
行方不明者はリモコンでチャンネルを変えてしまい、グラスに酒をついでガバガバと飲み始めた。近くにはスナックのライターが置いてあった。ライターの住所を確認すると、○○県○○○市3丁目13−52と記されていた。
「うわっ!」
「びっくりしたぁー!見つけたの!?」
すーちゃんが上擦った声を出しながら俺に振り向く。我に返った俺はスマホを取り出して捜索番組の電話番号を押した。
「もしもし、あのテレビを見て似てる人を見かけたんですけど……。はい、場所は○○県○○○市3丁目13−52のスナックです。はい、はい。匿名でお願いします。はい。失礼します」
スマホを切ると、番組で進展があった。
《えっ!?匿名で○○県○○○市3丁目13−52のスナックに居るという情報があったようです!奥さん、どうしますか?》
MCが奥さんに尋ねると、奥さんは肩を震わせながら……。
《あのクズ野郎、人が心配してんのに酒飲んでやがんのかぁ!?》
奥さんがキレた。しかも、ガチギレだ。
《おい、CM入れろ!ヤバいぞ!カメラ止めろ!》
《奥さん落ち着いて!》
《あの野郎、ピーしてやる!》
奥さんはMCを突き飛ばしながらカメラから姿を消した。すると、生放送にも関わらず『しばらくお待ちください』というテロップが流れ始めた。それらを目の当たりにしたお化け達は……。
「盛り上がって来ましたよ!」
「ほら見ろ男ってのはこんなもんなんだよ」
「激昂という言葉が似合いそうな顔つきだったな」
「これ、私達が悪いのかな?」
「どーかのぉ。探して欲しいって言うから探してやったのに結末はただの家出じゃないか」
良かれと思ってやったのに生放送事故が起こってしまった。
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