最終章 悪徳霊媒師編

プロローグ

 アメリカから帰国して数日後、世間は大晦日を迎えていた。商業施設も初売りまで休みという事で俺は○○病院に一旦戻る事になった。俺が出勤の仕度をしていると、お化け達がコタツを囲みながらテレビに釘付けになっていた。

 

《みなさーん!私は今、○○神宮に来ています!見てください、神々しい本殿ですねぇ!!》

 

 アナウンサーが人混みの中リポートしていた。すると、いつもの如く花ちゃんが目をキラキラさせながら振り向いた。

 

「龍星!わしも着物を着て初詣に行きたい!」

 

 このパターンもいい加減慣れて来たな。

 

 俺はネクタイを締めながら、

 

「はいはい。連れて行けばいいんでしょ?」

「あれ?嫌がると思ったんだけど?」

 

 思わぬ返答が来てメリーが目をまん丸にしながら驚いていた。

 

「だってここで拒否したらまた皆で暴れるでしょ?」

「分かってるじゃん」

「だから素直に連れて行くって言ったの。けどさ、着物は高いから正直勘弁して欲しいんだけど?」

「そうですよねぇ、令和になっても着物はお高いですからねぇ」

 

 お菊さんが頬に手をあてながら俺の意見に賛成してくれた。お菊さんの言葉にすーちゃんも便乗する。

 

「あたしもお菊さんの意見に賛成。着替えるのめんどくさいしね?」

「それもそうねぇ、なら普通の服でいいわ」

「わしも初詣行けるならどっちでもいいぞ?」

「皆さんでお出かけですか!いいですねぇ!」

 

 はーちゃんも久しぶりのお出かけが嬉しいのか、手をパンと叩いて喜んでいた。

 

「おーい、朝飯はまだか? ん?なんの騒ぎだ?」

 

 だーりんが朝飯を食べに窓を開けて顔を出して来た。

 

「だーりんおはよう。だーりんも初詣行く?」

「初詣?」

 

 出勤時間になり、俺は○○病院に行くと警備部長がえびす顔で出迎えてくれた。

 

「福島くぅん!久しぶりだねぇ!元気だった?」

「…………あっ、部長ご無沙汰してます」

「ねぇ、忘れてたよね!?今一瞬僕の事忘れてたよね!?」

「そんな事ありませんよ。忘れてなんか居ませんよ吉岡さん」

「名前間違えてるじゃん!忘れてるじゃん!一文字も合ってないよ!」

「あっ、日報書かなきゃ」

「無視しないで!僕の事無視しないで!ねぇ、嫌い?僕の事嫌い!?」

「そんな事ありませんよ」

 

 ぶっちゃけ、部長の名前が分からないなんて口が裂けても言えない。

 

 日報を書き終えて院内を見回りしていると、婦長が人気の無い待合室で座っていた。婦長は俺を見た途端ツンとした態度をとる。

 

「なんだ、もう戻って来たのか?」

「久しぶり婦長。元気にしてた?」

「見ての通りだ、ピンピンしてる」

「あれ?カッシーは?一緒じゃないの?」

「私がどうかした?」

 

 いつの間にかカッシーが俺の真後ろに立っていた。俺は慌てて靴下を脱いで差し出した。

 

「止めて下さいっ!足を刈り取らないで下さいっ!」

「あんたこそ止めてくれる?靴下いらないから。つーかあんたのせいで病室の患者達が靴下をベッドに置くようになったんですけど?」

「ご褒美じゃん」

「どこがご褒美なのよ!年寄りの靴下なんていらないわよっ!」

「んじゃ婦長のストッキング頂戴?」

「なぜ貴様に渡さねばならんのだ!?理不尽過ぎるだろ!」

 

 俺は土下座の更に上の五体投地を繰り出しながら婦長に懇願する。

 

「お願いします!ストッキングを下さいっ!お願いしますっ!」

「お、お前……。幽霊相手に何をやっているんだ?」

「五体投地ですっ!」

 

 五体投地をしながら俺は答えた。カッシーと婦長はゴキブリを見る様な目で見つめてくる。

 

「あんた、恥ずかしくないの?」

「お前をそこまで駆り立てるものは一体何なんだ……」

「そこにストッキングがあるから」

「登山家みたいに言わないでくれる!?」

「俺はストッキングアルピニスト」

「ストッキングアルピニストってなによ。ストッキングの評論家か何か!?」

「婦長もうコイツに関わるの止めない?マジで病気よコイツ」

「そ、そうだな……五体投地とかいう事をしながらスカートの中覗こうとしてるしな」

 

 そう言って婦長とカッシーは薄暗い廊下へと消えて行った。取り残された俺は、何事も無かったかのように立ち上がって業務に戻った。

 

 数時間後。

 

 定時を迎えた俺はタイムカードを押して家に帰ると、お化け達がめかしこんでいた。

 

「あっ、おかりー。あたしら準備出来てるからね?」

「龍星も早く仕度しろ」

 

 俺は着替えながら部屋の中を見渡す。

 

「あれ?だーりんは?」

「姦姦蛇螺さん?多分もう少ししたら来るんじゃない?」

 

 メリーがくねちゃんの髪を櫛でとかしながら答える。

 

「それで龍星、どこの神社に行くの?」

 

 すーちゃんもはーちゃんに櫛で髪をとかして貰いながら聞いて来た。

 

「うーん。○○神社かなぁ?近いし、人もそんなにいなそうだからね」

「あー、あそこなら人も少ないかもねぇ」

「すーちゃん久しぶりにお出掛けだからパンツ新調したの?」

「えっ……?」

 

 俺が透視をした瞬間、すーちゃんはゾッと青ざめる。

 

「えっ、なんで知ってんの?」

「あっ、言ってなかったっけ?俺アメリカで透視教わって来たんだよ。相手の過去くらい朝飯前さ 」

「え、不気味過ぎるんだけど……」

「おーい。皆の者、準備は整っているか?」

 

 すーちゃんとやり取りしてる間にだーりんが窓を開けて声をかけて来た。

 

 全員揃ったな。

 

「よし、行くか初詣!」

 

「「「「おー!」」」」

 

 俺はおじさんとおくまに留守を任せ、残りのお化け達を引き連れながら俺は近くの神社にやって来た。俺の予想通り、あまり人は多くなくお化け達を連れて行っても問題ないくらいだった。あまりにも人がいない為くねちゃんとすーちゃんがはしゃぎ始める。くねちゃんは積もった雪に倒れ込んで手をばたつかせる。

 

「すーちゃん見て見て、天使!」

「クオリティ高いわね、あたしもやるわ!」

「はしゃぎ過ぎじゃぞ、2人共」

 

 俺達は会釈をしてから鳥居をくぐり、参道を進む。そして御神前の前に立った。お化け達はお賽銭を投げられないので全員分のお賽銭を出した。全員で二拝二拍手一拝の作法で拝礼し、会釈をして来た道を戻った。その帰り道、はーちゃんが俺に声を掛ける。

 

「龍星さんはどんなお願いをしたんですか?」

「俺?俺は……みんなが成仏出来るようにかな?」

 

 それを聞いていた花ちゃんが、

 

「ほう、わしらが成仏出来る様に頼んでくれたのか?」

「変かな?」

「変ではないが、なんというか……複雑な気持ちでな」

「複雑?なんで?成仏したいんじゃないの?」

 

 俺が首を傾げると、メリーが口を開く。

 

「鈍いわねぇ。あたしらが居なくなったらあんたまたひとりぼっちになっちゃうんだよ?良いの?って言いたいのよ花子は」

 

 その言葉を聞いた俺は足を止めて……。

 

「お賽銭の1万円取り返して来る」

「はぁ!?あんた何言ってんの!?やめ、やめなさいっ!」

「今更遅いですよ!諦めて下さいっ!」

 

 御神前に戻ろうとした瞬間、はーちゃんとメリーに止められた。

 

「止めないでくれ!もうひとりぼっちになりたくないっ!」

「幽霊に同情されて悲しくないのか貴様は!?良いから帰るぞ!」

 

 だーりんに取り押さえられた俺は無理矢理家に連れ戻されて行った。

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