エピローグ

 私は泣きながら叫んだ。

 

「私の名前は【スレンダーマン】です!お願いします!家族には手を出さないでくださいっ!」

「スレンダーマン?初めて聞くわね?」

「アメリカノモンスターナノカナ?」

 

 怨霊達が顔を見合わせながら首を傾げる。そこへ、黒い本をベラベラ捲っていた白人の男が声を上げた。

 

「スレンダーマン、そうだコイツはスレンダーマンだ!細身で異常に背が高く、黒い背広を着た怪人。誰かをストーカーとして追ったり、拉致したり、トラウマを与えたりするらしい。悪魔の使いという説もある!」

「つーか、トラウマを与えられた側じゃん。だっさ」

「ケンカウルアイテマチガエタネ」

 

 すると、白人の男が十字架を突き出し声を荒らげる。

 

「スレンダーマン!神の力によりてお前を地獄に戻す!!」

「ぐぁぁぁぁぁっ!」

 

 俺の体からスレンダーマンが離れ、黒い渦に飲み込まれていった。メアリーは俺の顔をペシペシと叩く。

 

「リュウセイ?」

「おい、パンツ寄越せ」

 

 目をクワッと開いて言うと、メアリーに無言でビンタされた。我に返った俺は辺りを見渡す。

 

「うわぁ……派手にやったなぁ」

「やったのはスレンダーマンよ。貴方のせいじゃないわ」

「タイヘンダッタンダカラネ?」

「何故スレンダーマンに襲われたか心当たりは?」

「ピノッキオが、ピノッキオが鶏小屋にいたんです!エドガーさん達を呼ぼうとした時、スレンダーマンに襲われたんです」

「そんな馬鹿なっ!」

 

 エドガーさんは慌てて保管室に向かってピノッキオを確認すると、ピノッキオはガラスケースにちゃんと保管されていた。

 

「ちゃんとケースに入っていた」

「そんな!?俺は確かにこの目で見ましたっ!」

「信じるわ。ピノッキオはちょっとからかっただけかも知れないわね」

「ヤツにもう近付かない方がいい。テーブルを運ぶから手伝ってくれるか?」

「あっ、はい」

 

 エドガーさんとテーブルを運ぼうとした時、右手首に舞子から貰った数珠が無いのに気付いた。

 

「あれ?数珠がない……」

「腕に着けてたやつ?どっかに落としたの?」

 

 俺はスレンダーマンに捕まった時の事を思い出す。

 

「あっ、あの時……!!」

 

 片付けを一旦中断し、裏庭に向かった。地面を探って見ると数珠がバラバラになって散らばっていた。俺が全て拾い上げると、

 

「掃除してる間に私が直してあげるわよ?」

「いいんですか?」

「勿論よ」

 

 散らばった数珠をローラさんに渡し、再び掃除を始めた。全てが片付け終わる頃には夕方になっていた。

 

「これで終わり?」

「ツカレタ〜」

「メアリーもヨローナもご苦労さま。リュウセイ、これでどうかしら?」

 

 ローラさんの手には、小さい十字架が付け加えられた数珠が手にされていた。

 

「ローラさん、この十字架は?」

「私とエドガーのお古よ。これで貴方を災いから守ってくれるわ」

「ありがとうございます」

「君は明日帰国だろう?ホテルまで送ろう」

 

 翌日。

 

 日本に帰国する朝。ホテルの部屋で荷造りをしていると、ヨローナに声を掛けられた。

 

「モウジャパン二カエルノ?」

「うん。仕事が待ってるからね」

「サミシクナルナァ」

 

 ヨローナの言葉に手を止めて、口を開いた。

 

「ヨローナもメアリーも、俺と日本に行く?」

 

 俺の言葉にヨローナとメアリーは、

 

「イキタイケド、ワタシハココニノコルヨ」

「同感。アタシもアメリカに残るわ」

「なんで?家に面白い奴らいっぱいいるんだよ?」

 

 俺がどんなに説得しても、メアリーとヨローナは首を縦に振らなかった。

 

「タノシソウダケド、スミナレタバショノホウガオチツクカラネ」

「言えてる。こっちはこっちでやるから気にしなくていいわよ」

「そっか。そこまで言うなら……ならせめて空港まで見送ってくれよ」

「しょうがないわねぇ……」

 

 荷造りを終えてチェックアウトをしてホテルから出ると、ウォーカー夫妻が車の前で待っていた。

 

「どうしたんですか!?」

「友人を見送りに来たんだよ。昨日の件もあるからね」

「ほらほら、荷物を積んで!」

 

 ローラさんとエドガーさんに促されたながら俺達は空港に向かった。人気の多い所を避けて車を停めて荷物を取った俺はウォーカー夫妻に頭を下げた。

 

「短い間でしたけど、楽しかったです」

「僕らも楽しかったよ。元気でな」

「彼女達は私が様子を見に行くから安心して」

「ジャパンで死なないように気をつける事ね」

「オナカコワサナイデネ。ナニカアッタラカケツケルヨ」

「ヨローナもメアリーもありがとう。んじゃ、行きます」

 

 俺は空港の中へと入って行き、飛行機に乗って日本へ向かった。日本に帰って来た俺は真っ暗な玄関を開けて声を上げた。

 

「ただいヴぉー!!」

 

 玄関の明かりをつけて元気よく言うと、花ちゃんとメリーがドタドタと走って来る。

 

「おう、龍星。帰ってきたか」

「何よ、生きてるじゃない。ヴぉーって何?」

「ただいま花ちゃん、メリー。他の子達は?」

 

 暗い茶の前に目を向けると、

 

「今夜中じゃぞ。わしらは待っていたからいいものの」

「何?あたしらじゃ不満だって事?」

 

 俺は2人の言葉に首を傾げる。

 

 もう怒ってないのだろうか?

 

 念には念を入れて聞いてみる事にした。

 

「あの、許してくれるの?」

 

 恐る恐る尋ねてみると、

 

「もう怒っておらんよ。で、土産はどこじゃ?」

「そうそう。お土産くれるなら許してあげるわよ。どこ?」

 

 コイツら……。

 

「お土産ならここにあるよ」

 

 俺が紙袋を幾つか出した瞬間、ワクワクしている花ちゃんに紙袋を奪われた。

 

「さっさと寄越さぬ……ん?」

「どうしたの花子?」

 

 紙袋を開けた花ちゃんが手を止めて、

 

「龍星、お主アメリカに行ったのじゃな?」

「うん、そうだよ?」

「何言ってんの?花子?」

 

 メリーに尋ねられた花ちゃんは、首を傾げながら振り返った。

 

「なら何故日本のきりたんぽが入ってるのだ?」

「えっ!?あっ、こっちには生キャラメル入ってるんだけど?」

「いや、ここは正直に言うけど向こうでスレンダーマンってヤツに襲われてホットドッグは食いそこれるし、そのせいで時間も無くなってお土産買おうと思ったんだけど良いのが無くてさ?だから断腸の思いで買ってきたの」

 

 俺がそう言うと、花ちゃんが腕を捲って。

 

「ほうほう。メリー、聞いておけ。龍星が大勝負に出たぞ」

「ふーん。怒らないから正直に言って御覧なさいな」

 

 俺は直ぐに土下座をして頭を床に擦り付けた。

 

「すいません、正直に言うと忘れてました」

 

 正直に言うと、メリーと花ちゃんは微笑みながらお土産を全て持ち去って行った。

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