脅迫
十字架を突き付けられた私は突然電気が走った様な感覚に見舞われた。体が痺れていると、白人の男が必死な形相で叫び出す。
「父と子と聖霊の御名において邪悪な者よ、この者から去れ!」
そう叫んだ途端白人の男は私に液体をかけた。
「ぐぁぁぁぁぁっ!?」
液体がかかった所が熱湯の様に熱くなっていった。
これは……聖水!?
「キリストと聖人天使の御名において 命令する!正体を現せ!」
呪文を唱え続ける白人の男の足元で悶え苦しむ私を見た怨霊は、突然部屋を見渡して鏡を見つけた途端鏡の前に立って、
「メアリー!メアリーキコエル!?リュウセイガタイヘンナノ!チカラヲカシテ!」
怨霊が鏡に向かって何かを訴えていた。すると、鏡が水面の波紋の様に動き出すと、鏡の中から金髪の怨霊が現れた。
「呼び方雑にすんなよ!なんだってのよ!?」
「タイヘンナノ!リュウセイガヒョウイサレチャッタノ!」
「何ですって!?」
ここに来てもう1人増えるのか!?
もう1人の怨霊が驚くと、白人の女が金髪の怨霊に言い放つ。
「ホテルにいた子ね!?緊急事態だから手を貸して!このままだと体を乗っ取られてしまうわ!」
「よく分からないけど、コイツはあたしの獲物。横取りなんてさせないわ!」
2人の怨霊が私を取り抑えようとするが、私は抵抗する為に思いっきり暴れ回った。ソファーや本棚をなぎ倒し、怨霊から距離をとる。
「はぁっ、はぁっ……お嬢さん達、暴力はいけませんね」
「暴れてるアンタに言われたくねぇわ!」
「ベンショウシロ、コノヤロウ」
「それは出来ない相談ですね。私も幽霊ですし、弁償するならこの体の持ち主でしょう」
私がニヤリと笑うと、白人の女が言い放つ。
「リュウセイ、負けちゃダメ!戦うのよ!」
「そんなヤツに負けんな!」
「リュウセイ、タタカッテ!」
お嬢さん達が体の持ち主に話し掛けている隙に、白人の男が倒れた本棚を起こして本を漁り始めた。そして1冊の本を手に取りベラベラと捲った。
「どこだ、どこだ……ヤツは……!!」
「そこの紳士は一体何をしてるか分かりませんが邪魔をされては困りますね」
私は割れたガラスを手で握り白人の男に近付こうとしたその時。椅子が突然飛んで来て行く手を阻まれた。飛んで来た先に目を向けると、お嬢さん達が物凄い形相で私を見つめる。
「何か私に御用でもありますか?」
「それはこっちのセリフよ。そのガラスで何しようっての?」
「チョウシニノルナ!!」
「おやおや、お2人でどうするおつもりですかな?」
「アンタを止める!行くよヨローナ!」
「ウン!メアリー!」
大した自信ですねぇ。
2人が私に襲いかかろうと近付く。だが、私はガラスを首に突き付けた。
「お嬢さん達。おてんばもそこまでですよ?この体の持ち主が死んでしまいますがどうしますか?」
「てめぇ……」
「ヒキョウスギル」
「なんとでも言いなさいな。私は痛くも痒くもありませんしね」
私はガラスの破片を首に刺すと血が垂れ始める。
そろそろ茶番も飽きましたね。魂を頂いて退散しますか。
そう考えた私はガラスの破片を首に刺しながら白人夫婦に言い放つ。
「では、私はそろそろ退散させて頂きます。ちなみにこの人間の魂は頂戴しますのであしからず」
「お願い止めて!彼は関係ないわ!」
「では、失礼します」
私はガラスの破片に力を込めて一気に首を裂こうとしたその時。掴んでいた右手が動かなくなった。
「ん……?おかしいですね。手が動きません……」
「えっ?」
「どうしたの?アイツ……?」
「モシカシテ、リュウセイガナカデタタカッテルンジャ?」
まさか、まだ抵抗するのかこの人間は!?
「この……人間の分際で……!こっこら!やめろ!」
身体が勝手にガラスの破片を首から離し、投げ捨ててしまった。それと同時に身体がブリキのおもちゃの様に動かし始める。それを見ていた怨霊が首を傾げる。
「アレってもしかしてロボットダンス?」
「ナニソレ?」
「ダンスよダンス、あーいうダンスが今時あんのよ。それにしても上手いんだけどリュウセイがやってんの?」
「貴女達彼と仲良しなんでしょ?なんでもいいから声を掛けて!」
「ワカッタ。オーイ、リュウセ〜イ?リュウセイナラ、オモシロイコトヤッテ」
なんですか面白い事って。
声に反応するように身体が勝手に動き出し、壁に立てかけてあったギターに手をかけた。
「な、なんです?私はギターなんて弾けませんよ?」
「あんたわね。けど、リュウセイならどうかしら?」
「アッ、リュウセイ。ヒクナラ『べサメ・ムーチョ』ガイイ」
「ちょっとヨローナ。リュウセイは日本人よ?弾けるわけ」
〜〜♪
「マジ!?リュウセイ弾けんの!?」
「メキシコトイエバ、コレヨ!」
なんて器用な人間なんですか!?
それらを目の当たりにしていた白人の女は声を荒らげる。
「その調子よ!さぁ、お前の名前を言いなさい!」
「誰が言うものですか。私が名前を言ってしまうと服従してしまいますからね。口が裂けても言いませんよ。いい加減ギターを止めて貰えませんかね?」
私はギターを弾きながら手を止めようとするが言う事を聞かなかった。チャンスと睨んだのか、怨霊達が悪ノリをしだす。
「へぇ、名前を言うと服従するんだ。へぇ〜」
「ナントナクダケド、カテルキガスル」
怨霊達が不気味な笑みを浮かべ、
「名前言えば倒せるっぽいよリュウセイ」
「ナマエイイタクナルホドオイコンジャエ!」
怨霊がそう言った瞬間、ギターを弾いていた手をピタッと止めた。それと同時に異変が起き始めた。
「な、なんですか!?こ、声が……」
「え?声?」
「ワタシタチニハキコエナイヨ?」
「聞こえないのですか!?こんなに大きな声で言ってるのに!?」
「ちなみになんて言ってんの?」
「え、えーっと……「せっかくの旅行を台無しにしやがって。許さねぇ、お前のガールフレンドを、俺はどんどん、追い込むぞ」と叫んでます」
「やり方がえげつないんですけど。え、何?ギャングなの?」
「ネーネードーヤッテオイコムノ?」
「知りませんよ「お前に近い者から順番に奪ってやる。待ってろ…待ってろコイツの女友達……へへへへへ」おい、止めて下さい!私の友人に手を出さないで下さいっ!」
「想像しただけで恐怖なんですけど……」
更に口が勝手に動き出す。
「「パンツを奪うぞぉ。ほら選べよ。名前を言うか、それとも妹や姉、奥さん、はたまた女友達のパンツを寄越すか」なんなんですかこの人間は!?」
「いやお前が追い込んだんだからね?どーなっても知らないわよ」
「ザマァミロ」
「「どーもガールフレンドさん、初めまして。リュウセイフクシマと申します。おい、パンツを寄越せ」気持ち悪いお方ですね!」
「ねぇ、もしかしてリュウセイ怒ってる?」
「クビササレテオコッテルノカモ?」
私は口を塞ごうと両手を使うが身体が言う事を効かなかった。
「くっ、なんて力なんですか……「妹さんもお姉さんもおいでぇ、黙ってパンツを寄越しなさい。嫌かい?俺はもっと嫌がらせされてるんだよぉ?いいから寄越せよぉ」だ、誰かこの変態を止めてくださいっ!」
「だったら早く名前を言うのね、そうすれば楽になるわ」
「ホラホラ、イッチャエヨ」
私が悪魔達の囁きに心が折れかけた所に更に追い討ちが来る。
「ぐっ、ここで名前を言ったら……「それを見兼ねたお前の奥さんが泣きながら私のを差し上げます!って言うんだよ。さっさと寄越すんだよ」止めて下さいっ!私の家族に手を出さないで下さいっ!分かりました!言います!言いますから!」
私は、変態の人間に屈してしまった。
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