招かれざる客

 保管室から出た俺は家の中を探索していたヨローナに声を掛ける。

 

「ヨローナ」

「ナカハドウダッタノ?」

「ヨローナと同レベルの物が沢山あった」

「ヘェー、スゴイネ」

「さっ、リュウセイ、ヨローナ。お茶にしましょ」

「はい」

「ハイハーイ」

 

 ローラさんは俺達をテーブルに招き、ティーカップに紅茶を入れてくれた。ローラさんとエドガーさんはその時にこれまで除霊してきた幽霊の話をしてくれた。中でも印象的だったのは、やはり先程のピノッキオの話だった。ピノッキオがこの家にやって来た理由は前の持ち主の男の子が不慮の事故により亡くなってしまい、その時からピノッキオに憑依しているらしい。

 

 海外版おくまみたいだな……。いや、それ以上か。

 

「あのケースに入ってる時は大丈夫なんですか?」

「ええ、直接触れなければ大丈夫よ?」

「保管室に何か異常は現れたりとかは?」

「ラップ音なんて年がら年中よ?」

 

 慣れって怖い。

 

 ふと、窓の外を眺めると雪が降り始めていた。それに釣られてローラさんも見る。

 

「これから雪かきが大変になるわねぇ」

「この辺はどの位積もるんですか?」

「それはもう除雪機が壊れるくらいよ!」

「流石アメリカ、なんでもダイナミック」

「ヨローナのメキシコでは雪は降るの?」

 

 俺が驚いている間にローラさんはヨローナに聞く。ヨローナは少し考えて答えた。

 

「ウン。メキシコシティハタカイトコロダカラフルコトモアルヨ?」

「そうなのねぇ」

 

 そんな他愛のない話をしていると、裏庭から鶏の鳴き声が聞こえて来た。それにエドガーさんとローラさんが反応する。

 

「何かしら?」

「コヨーテでも忍び込んだのかも知れない。見てこよう」

「あっ、俺が見て来ます!せめてものお礼をさせて下さい!」

「そう?、ならお願いね」

「裏庭にはそこのドアから行くといい」

「ここですね?それじゃ行ってきます」

 

 俺はそのまま裏庭に出て鶏小屋に向かった。数メートル先でも鶏がギャーギャーと鳴いている。周りにコヨーテがいない事を確認した俺は小屋の扉をゆっくり開けると……。部屋の奥にピノッキオが壁に寄りかかりながら座っていた。

 

「えっ……?」

 

 思わず声が漏れた。

 

 え、嘘、なんで?

 

 頭を真っ白にさせながら後退りする。鶏小屋から離れようとしたその時、足元にメモ用紙が落ちていた。拾って確認すると『Let me introduce my friends』と記されていた。

 

「と、友達って……」

 

 パキパキ

 

 後ろの方から枯れ枝が折れる音がした。振り返ってはいけないと頭を働かせても反射的に振り返ってしまった。雑木林が広がるその先には細身で異常に背が高く黒い背広を着ている。背中からは黒い触手の様な物が出ており、顔のパーツが全て無く日本で言う所のっぺらぼうの様な得体の知れないヤツが立っていた。

 

 俺はローラさん達を呼ぼうと家の方に走ろうとしたが、触手が俺の両腕と首を締め付け、呪文も唱える事も封じられた。

 

「かっは……っ!!」

 

 ヨローナ!ヨローナ、助けてくれ!!

 

 家にいるヨローナに助けを求めたが、ドラマのように念を送れる事は出来なかった。得体の知れないヤツは自分の元へと近付ける。すると、顔から白い霧が俺の口の中へと入る。

 

 やばい!これはやばい!意識が…………。

 

 意識が無くなると同時に、身に付けていた数珠がブチッと音を立てて地面に散らばった。目を覚ました”私は”直ぐに起き上がり体を見渡す。

 

 ふむ、この体は丈夫そうですね。これで暫くは過ごすとしましょうか。

 

 あまり遅くなっては怪しまれると思った私は出て来た家に向かう。そこには白人夫婦ととてつもない霊力を持った怨霊が紅茶を嗜んでいた。私に気付いた白人の女が私を見つめていた。

 

「遅かったわね。どうかしたの?」

「いえ、何もありませんでしたよ?」

「そ、そう?なら良かったけど」

 

 私と白人の女の会話を見ていた怨霊が首を傾げながら見つめてくる。

 

 まさか私がこの人間に【憑依】しているのに気付いているのでしょうか?ここは慎重にして悟られない様にこの人間を演じなければいけませんね。

 

「どうかしました?お嬢さん」

「オ、オジョーサン!?」

「お嬢さんでしょう?私にも紅茶を頂けませんか?」

 

「「「──────っ!?」」」

 

 その場にいた3人が同時に驚きながら私を見つめる。

 

 何か間違えましたかね?

 

「一体どうしたんだ?なんか紳士の様な言葉遣いになってるが?」

「そんな事ありませんよ。至って健康ですよ?」

 

 白人男性に答えると、

 

「なら1つ聞いてもいい?裏庭に出る前になんの話ししたか覚えてる?」

 

 はて?なんの事ですかね?ここは真面目な話題にして誤魔化しますか。

 

 私は両手を前に組んで神妙な顔付きをしながら白人女性に答えた。

 

「原油価格の高騰と人種差別の話しでしたよね?実は私も人種差別には反対なのですがね?」

「一言もそんな話ししてないんだけど?」

「えっ?」

 

 間違えてしまいましたかね?

 

 私が首を傾げていると、白人夫婦が顔を見合わせて何かヒソヒソと話しをしている。

 

 お客人を前にヒソヒソ話しとはいけませんね。

 

 すると、白人男性が席を立って玄関の方に向かって行くとドアに鍵を掛け始めている。隣に座っていた怨霊も今にも私を殺しそうな殺気を出しながら睨み付けて来ていた。白人女性がテーブルに置いてあったティーカップなどを片付けて再び席に座った。

 

「貴方は何者?体の持ち主は無事なんでしょうね?」

「な、なんの事ですかな?」

「トボケンジャネェーヨ、ダレダテメェ」

「家中の鍵は掛けた。もう逃げられない」

 

 おかしいですね。なぜバレたのでしょうか。

 

 白人男性が忌々しい聖書と十字架を持って戻って来た。待ってましたと言わんばかりに白人女性が声を掛けて来た。

 

「もう逃げられないわよ。大人しく彼から離れなさい」

「リュウセイ、キコエル?イマタスケテアゲルカラネ!」

 

 あっ、この人間の名前はリュウセイと言うのですね。

 

 私が1人で納得していると、白人の男が突然十字架を私に突き付けてた。

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