ピノッキオ

 それから数時間後、朝を迎えた俺は身支度を整えて観光最終日をウォーリー夫妻の家に向かう事にした。メアリーは寝てる間に帰ったのか姿は無く、退屈そうに椅子に座っていたヨローナは羨ましそうに俺に声を掛けてきた。

 

「リュウセイ?イマカライクトコワタシモツレテッテヨ」

「え?別に良いけど大丈夫なの?」

「ナニカモンダイ?」

「いや、ウォーリーさん達はこっちでは有名な霊媒師見たいだし、もしかすると家に入れないかも知れないよ?」

「ソウカモシレナイケド、ヒマダカラツイテクヨ」

 

 十字架みたいなので浄化されなきゃいいんだが……。

 

「分かった。朝飯は向こうでホットドッグ屋さんでも見つけて食べよう」

「ブエノ!リュウセイダイスキ!」

 

 ヨローナは俺の腕に抱きつきながら胸を押し付けて来る。

 

 メキシコの女は積極的なんだなぁ。

 

「それじゃ行こうか。外に出たら離れてね?見えない人には1人で腕組んでる変な奴にしか見えないから」

「ワタシハキニシナイ!」

「いや俺も気にしないけど、周りが気にするからね?」

「ワカッタ。キヲツケル」

「それじゃ、行こっか。あっ、その前に……」

「ドウシタノ?」

 

 俺はキャリーケースから舞子から貰った数珠を腕に付けると、ヨローナが顔を歪める。

 

「リュウセイ、ソレ……トテモ、イヤナカンジ」

「ごめんね、コレも十字架みたいなもんだから我慢してくれ」

「ウーン……ガマンスル」

 

 渋々合意したヨローナを連れてタクシーに乗ってメモの住所の場所を目指した。街から離れ、黒人男性の運転手の陽気な話を聞きながら1時間後、ようやく目的地に到着した。

 

「チップは取っておいて下さい」

「チップどころかピッタリよこしてるじゃねぇか!」

「ナニ?モンクアルノ?ノロッテヤロウカ?」

「まぁまぁ、これでコーヒーでも飲んで下さいな」

「おいおい、なんか悪かったな。またのご乗車お待ちしておりますよ!」

 

 運転手は颯爽と飛ばして行った。俺とヨローナはタクシーを見送りウォーリー夫妻の自宅を見上げた。ウォーリー夫妻の自宅は一般的に日本の家と比べてサイズは大きく、天井は高め、窓は多めの家だった。

 

「リッパナオウチダネ」

「映画やドラマにで出来そうな家だなぁ」

「ホットドッグドコニウッテルノカナ?」

「無いねー、後で探そう」

「ソウダネ」

 

 俺とヨローナは玄関のドアに立ちトントンとノックをした。すると、ドアが開かれるとエドガーさんが出迎えてくれた。

 

「やぁ、いらっしゃい。良く来てくれたね」

 

 欧米風の挨拶を交わすと、エドガーさんは辺りを見渡す。

 

「1人で来たのかい?」

「いえ、ヨローナが一緒に行きたいと言ったので隣に立ってます」

「そうか。ヨローナもいらっしゃい」

 

 エドガーさんは俺の指した方向に顔を向けて挨拶をすると、ヨローナも軽く会釈を返した。

 

「ドーモ、オジャシマス」

 

 中に案内されると、リビングの奥からローラさんがやって来た。俺は軽く会釈する。

 

「リュウセイ、来てくれたのね!」

「どうも……早々押し掛けてすいません。明日には飛行機に乗らなければならないので」

「そうだったの。じゃあ、とっておきの思い出作らないとね。付いていらっしゃい」

 

 ローラさんとエドガーさんは俺らを連れてある部屋に案内した。その場所は何重にも鍵をかけており、【KEEP OUT】【DANGER】と記されていた。エドガーさんとローラさんは鍵を開けて行き、分厚い扉を開けて中に入って行った。俺達も入ろうとしたその時、

 

「ワッ!」

 

 ヨローナが突然大声を出した。その声で俺もビクッと反応する。

 

「びっくりしたぁ、なんだよ!」

「リュウセイ、ワタシココニハイレナイ」

「えっ?なんで?」

 

 俺は首を傾げると、ヨローナが扉の真上に指を差した。俺も目を向けて見ると、十字架が貼り付けられていた。

 

 あっ、なるほどね。

 

「ならヨローナはここで待ってて」

「ウン、ワカッタ」

 

 ヨローナを置いて中に進むとそこには、古びたピアノ、オルゴール、西洋の鎧、天井に貼り付けられた椅子やウェディングドレスなど様々な物が保管されていた。

 

「ここは……一体……?」

「ここは僕とローラが今まで依頼された人達を苦しめた物達だよ。幽霊は人間だけじゃなく物にも憑依するんだ」

「物に憑依……それがこんなにも!?」

「どう?日本にはあまりない物ばかりでしょう? あまり触れないようにね?」

 

 ローラさんに忠告を受けながら辺りを見渡していると、どこからか視線を感じた。その視線を探していると、一際禍々しい雰囲気を醸し出すガラスケースに保管されていたピノキオのぬいぐるみがあった。そのピノキオのぬいぐるみを見た瞬間、冷や汗が止まらなかった。

 

 なんだ……あれは……。

 

 まるでここの保管されている物達の親玉の様な存在感を出すピノキオから目を離す事が出来なかった。俺の本能がこいつに関わるなと警告している。こいつに関わったら絶対ヤバいことになると肌で感じた。

 

「やはり【ピノッキオ】に気付いたのね」

「なんですかあれは!?なんで除霊しないんですか!?」

 

 俺がローラさんに言うと、

 

「邪悪なものが強過ぎて除霊出来ないのよ……。彼は幽霊を呼び寄せたりしてとても危険なの。だから週に一度神父を呼んで清めてもらい、このケースに封印してるのよ」

「リュウセイも感じるのか?あのピノッキオから」

「感じるなんてとんでもない。腹を空かせたライオンが目の前に居る様な気分ですよ」

「君が言うのだから事実なんだろう。僕らもこの家に連れてくるまで色々あったからね」

「あの、これ以上いたら不味いです」

「そうね……戻ってお茶でも飲みましょう」

「はい……」

 

 ローラさん達とリビングに戻って行くと、ピノッキオは俺を追うように首を動かしていた。

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