心霊研究家
ドアが突然ノックされた音に俺達はビクッと体を震わせ顔を見合わせる。その中で最初に口を開いたのはメアリーだった。
「えっ、誰よこんな真夜中に。アンタ、余計な幽霊まで連れて来たの?」
「エ?、ワタシシラナイヨ?」
ヨローナはメアリーの問に首を横に振る。
メアリーでもヨローナでもないとすると……ルームサービス?
意を決して俺はパタパタとドアに近付き、ドアスコープに目を当てる。スコープの先には、気品を感じさせる白人女性とスーツに身を包んだ白人男性が立っていた。
え?誰?
俺は思わずメアリーとヨローナに振り返った。
「全く知らない夫婦が立ってるんですが?」
「いやあたしらに言われても困るんだけど?」
「ヘヤマチガエテルンジャナイノ?」
ヨローナに促された俺はゆっくりドアを開けた。
「はい?何か御用ですか?」
俺が尋ねると、白人男性が答えた。
「夜遅くなのに驚かせて申し訳ない。僕は【エドガー・ウォーリー】、こっちは妻の【ローラ・ウォーリー】。僕らは【心霊研究家】なんだが、少しいいいかな?」
「えっ? まぁ、はい。どうぞ」
心霊研究家と名乗ったウォーリー夫婦は俺が泊まっている部屋の中へと入って来た。メアリーとヨローナは唖然としながら夫婦を見つめている。すると、エドガーさんの後ろを歩いていたローラさんが、辺りを見渡し、メアリー達に目を向けた。俺はその時確信した。
この人、”見えてる”んだ。
確信した俺はローラさんに声をかけた。
「貴女も、見えるんですか?」
ローラさんは面食らった様に、目を大きくさせる。見えるというワードに部屋中の写真を撮っていたエドガーさんも反応した。
「まさか、君も見えるのか?」
「ええ、まぁ……」
「冗談だろ!?ローラと同じ力を持ってるのか!?」
エドガーさんが俺に近付いて来ると、ローラさんが止めに入った。
「エドガー、彼は私以上の力を持ってるわ……」
「なんだって!?」
「ええ……。長年研究して来たけど、こんなの初めてだわ。2人に挨拶しても良いかしら?」
ローラさんは俺に優しく微笑んで来た。俺はメアリーとヨローナの様子を伺いながら、
「まぁ、大丈夫だと思いますけど」
「ありがとう」
「おい、ローラ」
「大丈夫よ。彼女達からは殺気を感じないから」
そう言いながらローラさんはメアリーとヨローナの前に立った。
「はじめまして、私はローラ。大丈夫、危害は加えないわ」
「はぁ?そんなんで信じられると思ってんの?」
「Hijo de puta!!」
「ヨローナ。コイツアメリカ人だから」
「ア、ソーダッタ。ナメテンノカテメー」
今にも捻り殺しそうな2人を俺は慌てて宥めた。
「やめろやめろ!2人共落ち着けって!」
「何よコイツ、いきなりズカズカ入って来て」
「モクテキハナンナノヨ。リュウセイ、ドサクサニマギレテ厶ネモマナイデ、ヒトマエヨ!」
「おっと、失礼!」
「イチャついてんじゃねぇよ!」
「良くこの2人を宥められるわね……。確かに、突然押し入ってしまったのは謝ります」
「心霊研究と何か関係するんですか?」
「そうだな。まずはそこから説明しよう」
俺はコーヒーを用意し、椅子に座りながら事情を聞くとエドガーさんとローラさんはホテルのオーナーからホテルの幽霊の特徴を調べて欲しいという依頼を受けたそうだ。ウォーリー夫妻はそれに承諾しホテルにしばらく宿泊しながら調査をしていたという。
「そうだったんですか。それでどうでした?このホテルにはメアリー達の他にも幽霊はいるんですか?」
「ええ、浮遊霊だけど何人かは居たわ」
ヨローナ以外にも幽霊いたんだ……。
俺はうんうんと頷いていると、ローラさんは俺をじっと見つめていた。俺は首を傾げた。
「ど、どうしたんですか?」
「あっ、ごめんなさい。貴方がどうして幽霊が見える様になったのか気になったから『透視』をしたの」
「そんな事も出来るんですか!?」
「ええ。辛い事があったのね……お気の毒に……」
俺の過去を透視したのか、ローラさんは顔を歪ませる。
「あの、透視ってどうやるんですか?」
「そうね……見たい人の目をじっと見つめるのよ。そうすると次第に夢を見ている時の様に相手の記憶が少しずつ見えてくるわ」
なるほど、ちょっと試して見るか。
試しに俺はメアリーの目を見つめて見た。
「えっ、あたし!?まぁ、どうせ出来るわけないんだから好きなだけ見てれば良いわ」
メアリーはツンとした態度を取りながら俺の目を見つめる。
その時だった。
突然、俺の視界の風景が変わった。誰もいないホテルの一室に俺は立っていた。辺りを見渡していると、目の前にはメアリーが白レースのパンツ一丁で俺が買ってあげたスポーツブラを試着している所だった。メアリーは鏡の前で何かを呟いていた。聞く耳を立てて見ると、
「うーん……もうちょい大きく見えねぇかなぁ……」
そんな事言っていた。
ハッと意識を戻すと元の風景に戻っていた。息切れをしている俺を見たローラさんは何かを感じ取ってうんうんと頷く。
「そうそう。その感覚を忘れないで」
「分かりました……あー、びっくりした」
「ローラ、そろそろ……」
息を整えていると、エドガーさんが腕時計をローラさんに見せ付けた。
「ごめんなさい。そろそろ休ませて貰うわね。私達は明日オーナーに調査報告しなければならないの」
「あっ、そうなんですか。なんだかすいません」
「いいのよ。押し掛けたのは私達なんですもの。お詫びに明日私達の家にいらっしゃいな。『興味深い』ものが見れるわよ?」
ローラさんはそう言って住所の書いたメモ用紙をテーブルに置いて部屋を後にした。ウォーリー夫妻を見送ると、メアリーが俺に声をかける。
「さっき透視出来たんでしょ?何を見たの?」
「ワタシモキニナルヨ。オシエテヨ」
2人が首を傾げる。俺はあっけらかんとしながら、
「あー。今日の下着……もしかして白レース?」
「─────ッ!?」
俺がそう言った瞬間。メアリーの顔は青ざめていた。
「え、マジでお前透視出来たの?」
「エ?ンジャ……アタッタノ?」
「1回も見せてないのに……他には?」
「えっ?言っていいの?」
「どうせ偶然よ。ほら、何を見たっての?」
メアリーに促された俺は、
「うーん、もうちょい大きく見えねぇかなぁ……」
声を裏っかえしながら、真似をした。メアリーは俺に指を差す。
「はぁ!?マジでお前見えてんじゃん!!」
「スゴイネリュウセイ」
「ふざけんじゃねぇよ!プライバシーの侵害だっ!!」
「でも白レースのパンティは良いと思うよ!」
「うわぁぁぁっ!」
俺は親指を立ててグッとポーズをしていると、耳まで真っ赤にしながらメアリーが俺の顔面に拳をねじ込んで来た。
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