TバックBEAT

 そう決めた俺はドアに向かう。ラ・ヨローナは今だにドンドンとドアを叩いていた。ドアに近付き、ゆっくりと鍵を開けてドアノブを回し、開けると……隙間から細い手が入って来た。

 

「入って来るわよ!?どうするつもり!?」

 

 メアリーが後ろで慌てふためくが、俺はニヤリと笑う。ラ・ヨローナがドアを開けようとするが、ドアは開かれなかった。不思議に思ったメアリーが俺に再び声をかけた。

 

「入って来ないわね……一体どうしたのかしら?」

 

 メアリーが様子を伺うと……。ラ・ヨローナの手がプルプルと震えていた。

 

「え?なんで震えて……っておい。お前、なんでドア抑えてんだよ」

 

 メアリーの目には、ドアを開けようとするラ・ヨローナとそれ以上開けない様につっかえ棒の様に両手で抑えている俺だった。

 

「えっ?」

「いや、えっ?じゃないよ。ヨローナを笑わせるんでしょ?なんで入れないの?」

「いや、面白いかなって」

「イカれてんのかよ。どこが面白いんだよ!」

 

 ドアの向こうからは、啜り泣きしながら僅かに声が聞こえた。

 

「ア、アレ?……アカナイ」

「ふっ、ふふふふ……」

「何プルプル震えながら笑ってんだよ」

「だって、今カタコトで「アカナイ」って言った……ふふふふっ」

「面白いか!?なぁ、面白いか?今現在楽しそうにしてんのお前だけだよ。どんな心境でドア抑えてんの?」

「いやぁ、泣いてるから和むかなって」

「余計泣くわ。火に油を注いでどうすんの?」

 

 メアリーに文句を言われた俺は突然パッと手を離した。ドアは勢いよく開かれた為ヨローナはヘッドスライディングする様に部屋に転がり込んで来た。

 

「急に離すなよっ!転んじゃったじゃん!」

「だってメアリーが離せって言うから」

「離すタイミングってもんがあるっしょ」


 注文が多いなぁ……ん?

 

 メアリーに説教されているが、俺はヨローナに視線を釘付けになっていた。不審に思ったのかメアリーが俺の視線を辿ると、転んだ拍子でヨローナのドレスのスカートが捲れ上がっていた。

 

「ほぉ、Tバックですか。それにプリっとしたケツが」

「何見てんだよ変態っ!」

 

 遂にメアリーに頭を叩かれた。

 

「いたっ!俺別に何もしてないでしょ!?」

「そういう意味で言ったんじゃねぇよ!パンツ見てんじゃん!」

「見せてる奴が悪いんですぅ」

 

 俺は小馬鹿にする様に言い返す。メアリーは半ば呆れながら、

 

「あーもーめんどくさい。さっさと起こして上げなって」

「分かったよ」

 

 メアリーに促された俺はえぐえぐと泣き続けるヨローナを起こそうとしたが、どうしてもTバックに目がいってしまう。

 

 ダメ、我慢出来ないっ!

 

 耐えきれなかった俺は。

 

「ペチペチペチッ!ペペペッペッペッペチ!」

「───────っ!?」

 

 ヨローナの桃尻を楽器を奏でる様なリズムで叩いた。メアリーも思わず口を開いたまま驚愕していた。

 

「Heyペチ!Heyペチ!Heyペチ!」

「お、お前、何やってんだよ!や、やめろ!」

 

 メアリーは慌てて俺を止めた。羽交い締めにされた俺は振り返える。

 

「止めないでくれ!俺のTバックBEATに火が着いたんだ!」

「マジでお前頭のネジ何処で落として来たんだよ!相手幽霊といえ女だぞ!?ちょっとアンタ大丈夫?」

 

 俺とメアリーが目を向けると、

 

「ヤ、ヤメテ……ハ、ハズカシイ……」

 

 プルプル震えながら笑いを堪えた。

 

「笑ってる?ちょっと笑ってない?」

「いやどう見ても引き笑いだろ!?これで楽しまれたらメキシコの都市伝説の恐怖感ゼロになるぞ!?」

「ぷぷぷっく……ふふふふ」

「てめぇ何笑ってんだよ!」

 

 メアリーもヨローナのケツを一発叩いた。ようやく落ち着いたのか、ヨローナは立ち上がってこっちに振り向いた。ヨローナは褐色肌に幽霊特有の悪魔のごとき美しさを持ち合わせていた。


「ゴメンナサイ、オチツイタ」

「何よ、英語喋れるんじゃない」

「どうだろ?ヨローナ、英語話せるの?」

 

 俺がジェスチャーを混ぜながら尋ねた。

 

「スコシ、スコシハナセル」

 

 ヨローナもジェスチャーをしながら答えた。

 

 凄いな。ちゃんと聞き取れるくらい上手い。メキシコに近いからか?

 

「分かった。俺はリュウセイ。こっちはメアリー」

「よろしく。あたしも幽霊だから」

「ホント? ナラ、リュウセイモ?」

「あっ、俺は人間だからね? 俺はスーパーヒーローっぽく言うと幽霊と話せたり触れたりする事が出来るんだよね」

「¡Maravilloso…………」

 

 なんて?

 

「え、ちょ……今なんて言ったの?」

「ア、ゴメンナサイ。スバラシイッテイイマシタ」

「そうなんだ。あのさヨローナ、なんでアメリカにいるの?」

「あたしも気になる。良ければ教えてくれる?」

「ワカリマシタ」

 

 ヨローナはなぜアメリカにまで来たのか説明してくれた。簡単に言えばヨローナを裏切った花婿の子孫を呪う為にあちこち彷徨い続けた所に俺が現れたという。遠くからだったから花婿かどうか分からなかったからドアを叩いて今に至るという。

 

「なるほどね、そういう事だったのか」

「ハイ。オドロカセテゴメンナサイ」

「ううん、気にしなくていいよ。けどさヨローナ? 花婿なんか忘れちゃえば?確かにヨローナのした事は良くないけど、それじゃ子供達が浮かばれないんじゃないかな? これからはヨローナの様な人を出さない為にクズ野郎を見張る幽霊になればいいんじゃないかな?」

 

 俺はヨローナの手を取り、ヨローナの目を見つめながら言った。ヨローナは気持ちが晴れたのか、目からはまた涙がこぼれ始める。

 

「リュウセイ……グスッ」

「本当に泣く女ね。あーあ湿っぽい」

 

 確かに湿っぽい。ここは話題を変えるか。

 

「それにしても、ヨローナって胸デカイね」

「……は?」

「……エ?」

「メアリーを見てみなよ。なんもないんだよ!?」

 

 ヨローナはメアリーの胸を見つめて自分の胸をもにゅっと触ると、

 

「フッ」

 

 勝ち誇りながら鼻で笑った。

 

「てめぇ何勝ち誇ってんだよコラァッ!!なんだ、舐めてんのか!?」

「ナメテナイヨ〜」

「舐めてんだろ!ちょ、殴らせろ!」

「落ち着けよメアリー」

「ソウヨ、オチツイテヨ……フッ」

「ほらほらほら、また笑った!この野郎ぶっ殺してやる!」

 

 メアリーがヨローナに襲いかかろうとしたその時。

 

 ドンドン!

 

 突然ドアがノックされた。

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