足の小指
山の奥に進んで行くと田中さんが言っていた通り、2メートル程のフェンスにが現れた。太い綱と有刺鉄線、フェンス全体にはが連なった白い紙垂、大小いろんな鈴が無数についてる。俺が懐中電灯で照らしていると、
ガシャガシャ!!
突然フェンスが動いた。お岩さんと口裂け女がビクッと体を震わせていると暗闇から声が聞こえて来た。
「おっおい!こっちだ、こっち!!」
「龍星、あそこ!」
あそこ?おいおい、いきなり下ネタか?
俺がにやけながら口裂け女の下半身に目を向けるとお岩さんにぶたれた。
「どこ見てるんだいこの男は。そっちだよ!」
首を傾げながらお岩さんが指差す方向に懐中電灯を照らすと、先程逃げていった高校生と同じ服装の青年が宙吊りでいた。
コイツが田中さんの息子だろうか?
俺は懐中電灯をチカチカさせながら尋ねた。
「おーい、もしかして君、田中さんの息子?」
「えっ!?あっ、そうだけど!?フェンスが引っ掛かって取れねぇんだ!助けてくれ!」
「はいはい、暴れるなよ?」
フェンスを登って有刺鉄線に引っ掛かっていたシャツを外すと、田中さんの息子は落下した。
「いてて…………」
「大丈夫か?」
俺が手を差し伸べると、息子は手を取って立ち上がった。
「あんた、親父かおふくろの知り合いか?」
「お父さんの知り合いだよ。この先は禁足地なんだろ?」
「ああ、そうなんだけど。変な女がいたから逃げて来たんだ」
変な女?
俺は首を傾げながら息子に言う。
「丑の刻参りでもしてたんじゃねぇの?」
「サラッと怖ぇこと言うなよ!よく分かんねぇけど、奥に行く前で引き返して来たから何も知らねぇんだ!」
「なるほどね、で?どっから入ったんだ?」
懐中電灯をフェンスに沿って照らと、田中さんの息子は指を差す。
「あっちの方に扉がある。鍵壊してそこから入ったんだよ」
「なんつー罰当たりな、見てくるからお前は山を降りろよ?」
そう言い聞かせて俺は扉を探し始めた。数分歩くと、鍵が壊されたフェンスの扉を見付けた。
「あった、これだな? あーあ。派手に壊して」
「ヤンチャ坊主ねぇ、どう?直りそう?」
「どうだろ?」
扉を開けたり閉めたりしたその時。
ガシャーン!
扉が突然勢い良く閉められた。驚いた俺はお岩さんと口裂け女に言い放つ。
「ちょっと!急に閉めないでよ!」
「え?」
「あたいら、何もしてないよ?あんたが勝手に閉めたんだろ?」
「閉めてないよ!開けてよ!」
俺がフェンスの扉を押しても引いてもビクともしなかった。不思議に思った口裂け女とお岩さんも手伝おうとした瞬間。
「いたっ!」
「あっづ!」
お化け達が突然手を引っ込めた。
「なに!?どうしたの!?」
「なんか、熱湯に手を入れた感じがしたのよ!」
「これは結界的なものが張られているんじゃないかね?」
お化け達は手を擦りながらその場を少し離れる。ここで俺は閉じ込められた事に気付いた。
「えっ、どうしよ。開けてよ」
「そんな事言っても…………ねぇ?」
「触ったら痛いし…………ねぇ?」
お岩さんと口裂け女は顔を合わせて首を傾げる。困った俺は…………。
閃いた!
「あっ、息子が見たっていう女の人に開けてもらえば良いんだ」
「大丈夫?人間だったら良いんだけど」
「丑の刻参りをやってるかもしれないんだろ?大丈夫かねぇ?」
お化け達に見送られながら俺は女の人を探し始めた。懐中電灯を照らしながら、
「女女女女女女女女女女女女女女女女女女」
と、呟きながら進んでいった。フェンスから20〜30分歩き、うっすらと反対側のフェンスが見え始めたところで、不思議なものを見つけた。特定の6本の木に注連縄が張られ、その6本の木を6本の縄で括り、六角形の空間がつくられていた。フェンスにかかってるのとは別の、正式な紙垂もかけられてた。そして、その中央に賽銭箱みたいなのがポツンと置いてあった。
何これ?ここ神社?
俺は縄をくぐって六角形の中に入り、箱に近付いて行った。賽銭箱は野晒しで雨とかにやられたせいか、サビだらけだった。上部は蓋になっていて網目で中が見える。だが、蓋の下にまた板が敷かれていて結局見れない。さらに箱には家紋的な意味合いのものが幾つもバラバラに描かれていた。
でも、なんでこんな所に賽銭箱?
俺は賽銭箱を調べてみた。どうやら地面に底を直接固定してあるが、雨風で固定されている部分は脆くなっている。中身をどうやって見るのかと隅々まで確認すると、後ろの面だけ外れるようになってるのに気付いた。
「お?ここだけ外れるな…………勝手に見ても大丈夫かな?でも、あの悪ガキ達が悪戯してないか確認してみるか。怒られたらごめんなさいって言えばいいし」
賽銭箱の中には、四隅に神棚に置かれている徳利が置かれてて、その中には何か液体が入っていた。賽銭箱の中央に、先端が赤く塗られた5cmぐらいの楊枝みたいなのが、/\/\>の形で置かれてた。それを見た俺は直感で触れてはいけない気がした。
これ以上は…………なんかヤバいな。
危険を感じた俺はゆっくり優しく外れた面を戻した。冷や汗を拭いながら立ち上がって、
「嫌な予感がするな、女の人は諦めてフェンスをよじ登ろう」
そう決断したその時。
ガンッ!ガラガラ!
右足の小指部分が賽銭箱に当たってしまった。オマケに脆くなっていた所が外れてしまって賽銭箱が3回転ほど転がってしまった。
あっ。
その瞬間。
ジャリリリリリリリン!!
俺が来た方とは反対、六角形地点のさらに奧にうっすらと見えているフェンスの方から、狂った勢いで鈴の音が鳴った。
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