アクロバティックな女
建物の屋根の上に立っている人を見かけた俺は首を傾げた。
「あんな不安定な所に命綱なしで立ってる…………。今の時代の鳶職人さんは凄いなぁ」
そう呟くと、職人さんは俺を見つめているようにも思えた。
あそこから俺が見えるの?視力凄くない?
面白半分に俺はその人に手を振って見た。すると突然、その人はパルクールでもしてるのかと言わんばかりにアクロバティックな動きで屋根を降り始めた。
「早っ!パルクールって凄いな!まぁいいや。帰ろっと」
俺は車に乗り込んで自宅に戻って行った…………。その数秒後、先程のパルクールの人が忍者のように現れ、俺の車をじっと見つめていた。
それから数十分後、トコトコと車を走らせる中家にたどり着いた。借りて来たDVDを手に玄関を開ける。
「ただいま〜」
「あっ、龍星さん!おかえりなさい!」
出迎えてくれたのははーちゃんだった。俺は靴を脱ぎながら先程の話を始めた。
「はーちゃん、実はね?さっきTSU〇AYAの帰りに凄い人見たんだよ」
「凄い人?どんな方だったんですか?」
はーちゃんは靴を揃えながら俺に尋ねる。
「遠かったから分かんないんだけど、赤い服来た鳶職の人がアクロバティックに屋根を駆け下りたんだよ。凄いよねぇ」
俺がそう言った瞬間、はーちゃんの動きが止まった。はーちゃんはガシッと俺の両肩を掴んで、
「どのくらい離れてたんですか!?」
滅多に怒らないはーちゃんが俺を強く揺さぶると、はーちゃんの巨乳も揺れた。俺は揺れる巨乳を目の当たりにしながら答える。
「おお…………。1キロくらいかな?」
「目の前まで近付いて来ましたか!?」
「え?いや、車に乗って帰って来たけど? どうしたの?」
俺が鼻の下を伸ばしながら聞くと、はーちゃんは口を開く。
「いえ、知らない方が龍星さんの身の為です。あえて言いません」
「ということは、やべー奴なんだな?」
「はい。絶対関わらないって約束して下さい!」
はーちゃんは俺を子供を高い高いする様に上下に持ち下げしながら言った。俺は天井ギリギリのところで言い返す。
「分かった分かった。そんなヤバそうな奴には近づかないから降ろしてくれ。天井スレスレで怖い」
「あっ!ごめんなさい!」
─────数日後。仕事終わりに借りたDVDを返却しにTS○TAYA店に立ち寄った。今日も今日とて虎徹の周りには女子高生が群がっていた。小鳥のさえずりどころか、カラスの鳴き声にも聞こえてくる。
「お兄さーん、今日こそデートしよーよー!」
「ずるーい。あたしもー!」
邪魔くせぇ。
俺は返却ポストにDVDを入れて再び大人の楽園に向かおうとすると、女子高生達に見つかった。
「この前の人またエロいとこ行こうとしてるんですけど〜?」
「ヤバくない?どんだけ性欲溜まってんの?ウケる」
そんな冷たい言葉が聞こえて来た。だが俺は無視して大人の楽園コーナーののれんを潜ると、虎徹の声が聞こえて来た。
「お客様、大変申し訳ありませんが他のお客様のご迷惑になりますのでお静かにお願いします」
と、虎徹が丁寧な対応をする。女子高生達は大人しくなり、
「はーい」
「そろそろ行こっか。またね、お兄さん!」
「またの御来店をお待ちしております」
虎徹は女子高生達に丁寧にお辞儀をして見送る。女子高生達の姿が見えなくなった途端に、
「忌々しいブタ共め、拙者に話し掛けるなでござる!!拙者に話し掛けていいのは2次元の女の子達だけでござる!」
ブツブツ早口に文句を言いながら大人の楽園コーナーに入って来る。
「そうは思わぬでござるか!福島氏!香水の匂いが取れないでござる!」
「ご褒美じゃん。ねぇねぇ、熟女ものどこ?」
「じゅ、福島氏!どうして3次元に入り浸るのでござるか!この貧乳騎士を借りないのでござる!メルメルたんの何処が気に入らないのでごさるか!?」
「あっ、お客」
「いらっしゃいませ〜!」
虎徹は突然の来客にも器用に言葉を使い分ける。お客が本のコーナーに行くのを確認してヒソヒソと話し始める。
「福島氏!拙者で遊ぶのは止めて欲しいでござる!」
「遊んでないよ。旧作になるまで待つんだよ。グイグイ押し付けてくるな」
「そ、そうでござるか…………熟女系ならこの棚の反対側でござる」
「はいはい。ありがとう」
俺は数枚DVDを選びレジに向かった。虎徹は手際良く会計した。
「今回は熟女系でござるか、福島氏も好き者でござるな。合計金額600円でござる」
「幅広く見てるだけだよ。はい1000円」
「400円のお返しでござる」
お釣りを貰って店を後にする。そして、この前見かけた方向に視線を向けると、鳶職人はいなかった。安心した俺はホッと胸を撫で下ろす。
と、その時。
俺の目の前に突然、はーちゃんが着ているワンピースによく似た赤い服に長くサラサラの髪をした長身の女性がアクロバティックに現れた。女性の左腕には自傷痕のような切り傷があってその眼窩には…………眼球が無かった。身長はほぼはーちゃんと同じくらい大きい。
え?
「みぃつけぇた」
その女性は俺を見た途端、にいっと笑った。俺は自分の事を言っているのか後ろを確認して、首を傾げながら答えた。
「こんにちは〜!」
とにかく、挨拶は大事。
ペコッと頭を下げてその場を後にしようとした。すると、もの凄いスピードで再び前に現れる。
「逃がさないよ?」
「………………」
俺はまた頭を下げながら、スキを見て走り出した。不意をつかれた女性ははっとした表情で俺を追い掛け始める。
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