イケメン店員現る!

 お化け達がアラスタッタピィーヤを食らって寝込んだお化け達を看病していた俺は仕事帰りにTSU○AYA○○店にやって来ていた。その理由はお岩さんの騒動で借りていた大人のDVDを延滞してしまった為である。延滞料金と返却をしに店に入るとレジに女子高生が集まっていた。

 

 レジにあんなに人だかりが出来ている。何かあったのか?

 

 レジに目を向けてみるとそこには、テレビに出てる俳優やタレントの様に整った顔立ちの男性店員が囲まれていた。

 

「お兄さーん、この後私とデートしよう?」

「すいません、また今度お願いします」

「お兄さん、彼女いたりする?」

「ご想像にお任せします」

「ねぇねぇ、お兄さん。LIN○教えてよ〜」

「すいません、仕事中ですから」

 

 イケメン店員は女子高生の猛烈アタックをのらりくらりと対応している。俺はとても見ていて不快だった。

 

 けっ、リア充めが。悔しいから楽園コーナーにでも行こう。

 

 そう思った俺は堂々と18歳未満立ち入り禁止の楽園コーナーののれんをくぐって行った。入る瞬間を見られていたのか、レジの方からヒソヒソと声が聞こえて来た。

 

「うわ、あの中に人入って行ったんだけど?」

「え、マジ? どんだけ飢えてんだよ」

「どんなの借りんのかな? 痴漢モノとか?」

「それヤバイ!キモ〜イ!きゃははは!!」

 

 と、そんな声が聞こえて来た。

 

 黙れ小娘!!

 

 俺はやり場のない怒りを痴漢のDVDを握り締めながら耐えた。静かに深呼吸をして怒りを鎮めている中女子高生達は、

 

「んじゃ、また来るねえ!」

「またねお兄さん!」

「お兄さんはエッチなDVDなんか借りないでよ〜?きゃははは!!」

 

 そう言い残して店を後にした。俺はカゴに数本のDVDを入れていくと、足音が聞こえて来た。ふと目を向けると、イケメン店員が忙しそうにDVDやブルーレイディスクを並べていた。俺は視線を戻してオススメと記されているDVDのパッケージに目を向ける。

 

 だがその時、視線を感じた。

 

 何となく目の前の棚の隙間を見てみると、イケメン店員がこちらをじっと見つめていた。俺は思わずビクッとリアクションを取ってしまった。イケメン店員は何故か1つのDVDを手に取って何かを呟いていた。俺はそれが無性に気になって耳をすませていると、

 

「はぁ、小便臭いJKが毎日のように拙者に気安く声を掛けてくるでござる。拙者が3次元の女子に興味無いのに困った限りでござる。やはり女の子と言えばこの美少女剣客のお鶴ちゃんが1番でござるな」

 

 え?

 

 思わず顔を見上げてしまった。さっきとは打ってあんなに女子高生達にキャーキャー言われる程美男子が早口でオタクの様な喋り方をしていた。

 

「貴殿もそう思うでござろう?」

 

 イケメン店員はそのまま棚の隙間から俺の目をじっと見つめて言い放った。急に怖くなった俺は、視線を外した。

 

 すると、

 

「何を臆するのです?」

「──────っ!?」

 

 いつの間にか俺の隣に立っていた。

 

「うわぁっ!!」

 

 突然現れたイケメン店員に耳のそばで大砲を打たれたように驚き、カゴの中をぶちまけてしまった。俺は慌ててDVDを拾い始める。

 

「驚かせて申し訳ございません」

「あ、いえ、大丈夫です」

「いつも御来店ありがとうございます。会員番号12545の福島龍星さん」

 

 そう言われた瞬間、心臓が止まった気がした。俺は財布から会員カードを取り出すと、会員番号が12545となっていたからだ。俺はゆっくりと振り返りながら、

 

「な、なんで俺の番号を?」

 

 俺の問にイケメン店員は首を傾げた。

 

「何故って言われましても、拙者ここの従業員ですからな」

「い、いや普通覚えないでしょ!?」

 

 俺が怯えながら返すと、

 

「ブフォ!何を言うか福島氏。貴殿はこのアダルトコーナーの常連ではござらんか。何を隠そう毎回福島氏が満足出来る作品をピックアップしてるのは拙者ですぞ?寧ろ感謝して貰いたいでござる」

 

 顔に似合わず不気味な笑い方をしながら答えた。

 

「マジかよ!?前からここの店のオススメ作品俺の琴線を刺激して来るなとは思ってたんだよ」

「頻繁にご利用されれば嫌でも覚えるでござるよ。申し遅れました。拙者アルバイトの【石川虎徹】と申す。以後お見知りおきを」

 

 石川虎徹と名乗ったイケメン店員は気品を感じる礼をして来た。俺は2歩下がって会釈をする。

 

「ど、どうも」

「早速だが福島氏、アニメの方にはご興味はござらんのか?」

「え?アニメ?」

「無論、この作品もアダルトアニメでござる。初心者にはまずこの『貧乳騎士メルメル』から慣らしていくと良いでござる。このアニメは作画、キャラクターのデザイン、ストーリーともに」

 

 ピンポーン!

 

「あっ、お客さん」

「ちっ、いい所で…………はーい。いらっしゃいませ〜!」

 

 虎徹は舌打ちしながら接客する顔つきと言葉遣いを戻してレジに戻って行った。

 

 忙しそうだな。延滞料金を払ってさっさと帰ろう。

 

 俺は勧められたアダルトアニメを棚に戻して数本のアダルトDVDをカゴに入れてレジに並んだ。数分後、ようやく俺の番になると虎徹は。

 

「ふ、福島氏!なんで貧乳騎士を借りないでござる!?」

「え?だってまだ新作じゃん。レンタル代たけーじゃん」

「そ、そうでござるが価値はあるでござるよ!  福島氏!延滞料金が発生してるでござる!7泊8日での1本につき延滞料金1日313円でござるそれらを延滞してるので合計1565円上乗せするでござる!」

「あっ、お客さん」

「いらっしゃいませ〜!」

 

 俺と喋ってるのにも関わらず、器用に顔と言葉遣いを使い分ける虎徹。お客さんが奥に行くのを確認すると小声で、

 

「延滞料金と今回のレンタル代を合わせて、1965円でござる」

「はいはい。2000円と65円ね」

 

 料金を支払い、レシートをしまう。虎徹はDVDを専用の袋に入れて俺に手渡す。

 

「くれぐれも延滞しないで欲しいでござる」

「分かった分かった。気を付けるよ」

 

 DVDを受け取った俺は店を出て帰ろうとしたその時、ふと空を見上げて見ると、建物に目がいった。

 

 ん?

 

 目を凝らして見てみると、建物の屋根の上に…………誰かが立っているように見えた。

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