アラスタッタピィーヤ!!
悲しそうな顔をしたお岩さんを目の当たりにするお化け達はお岩さんが可哀想と思ったのか、力を緩めて解放した。
「お岩さん、もう止めましょう?」
「こやつはお岩さんの夫だった伊右衛門というものでは無いのじゃ」
「うっ、うぅぅ〜」
お岩さんは崩れ落ちる様に倒れておいおいと泣き出す。居た堪れなくなったメリーが背中を擦りながら慰め始める。
「お岩さん、その伊右衛門とかはお岩さんを捨てた男なんでしょ?そんなやつ忘れて新しい男でも見つけたら良いじゃない! ね?」
メリーにそう言われた途端、お岩さんが豹変する。
「安い同情なんて要らないよっ!こんな顔で何が出来るってんだ!」
赤く腫れている顔半面をメリーに見せ付ける。メリーは思わず目を逸らしてしまい、お岩さんはそれを見逃さなかった。
「ほら、同じ幽霊にもまともに見て貰えないなんて無様よね」
お岩さんは人を寄せ付けないような寂しい表情をする。俺のそばにいた花ちゃんが耐えかねて肘で俺をつつく。
「ほれ、お主の出番ではないか?」
「え?俺?」
それにつられてすーちゃんも便乗する。
「そーだよ、龍星。取り憑かれてたんだから責任取りなさいよ」
「そう言われてもなぁ…………」
俺は腕組みをしながら考えた。
お岩さんの顔の腫れものはトリカブトの毒だったって聞いたことがある。
「あれ、確か昔トリカブト使った事件あったような…………」
「え?そんなのあった?」
すーちゃんが俺の言葉に首を傾げる。
「メリー、昔あったよね?」
俺がメリーに問いかけると、メリーは考え込む。
「えー?あったかなぁ。うーん…………あっ!【トリカブト保険金詐欺事件】だよ。確か、フグの毒とトリカブトの毒を複合させて毒をコントロールさせてたって事件!」
「トリカブトとフグ…………それだぁっ!」
俺が突然大声を出した途端、お岩さんはビクッと驚く。
「な、なんだい急に!?」
「岩さん、明日またここに来てくれるかな?上手く行けば、その腫れ物を治せるかも知れない」
「えっ!?龍星さん、そんな事出来るんですか!?」
お菊さんが驚く。肝心のお岩さんは俺の言葉を半信半疑で聞いていた。
「ま、まさかそんな事が…………いや、出来るわけがないよ!からかわないでおくれ!」
「まぁ、疑うのも無理はないよね。けど、ここは騙されたと思って来てくれよ」
「分かった。けど、もし逃げたり治らなかったら…………分かってるだろうね?」
お岩さんは納得したのか、覚悟を決めながら俺を睨み付ける。
「煮るなり焼くなり好きにすればいいさ」
「いい覚悟じゃないか。んじゃ、明日の晩また来るわ」
そう言ってお岩さんはすうっと壁をすり抜けて姿を消した。俺はヨレヨレのブリーフをグイッと上げながら立ち上がる。
「さて、こうしちゃ居られない。早速出かけなきゃ」
「ちょっと、何するつもりなの?」
「何か閃いたのだろう?何をするんじゃ?」
メリーと花ちゃんに尋ねられた俺は、スボンを履いて支度をしながら答えた。
「魚釣りさ。夕方までには戻って来るから待ってて」
俺はそう言って玄関を飛び出し、車に飛び乗り家を出た。
数時間後。
夕方になり空が薄暗くなると、俺はクーラーボックスを両手で持ちながら帰って来た。
「ただいまぁ」
「おかりー。どこ行ってたの?ってか、何そのクーラーボックス?」
「これ?岩さんの腫れ物を治すモノさ」
メリーに尋ねられた俺はクーラーボックスを開ける。お化け達は中を覗くと、
「えっ?これがですか?」
「こんなの一体どうするの?」
「あ、お魚!」
「龍星さん、このお魚…………」
「まぁ、何をするか知らんがもうすぐお岩さんが来るぞ」
「そうだな。準備しよう」
俺は準備をしてお岩さんを待った。そして、約束の時間を迎えた。お岩さんは何食わぬ顔で玄関を開けてズカズカと茶の間までやって来た。お菊さんはすかさずお茶を差し出した。
「粗茶でございますが…………」
「ありがとう。気が利くじゃないか」
「恐れ入ります」
「で?あたいのこの顔、治せるのかい?」
お岩さんはお茶を啜りながら俺を見つめる。俺はクーラーボックスをバンバンと叩きながら答える。
「うん、治せるよ」
「ほう、ならやって貰おうかね」
「分かった。んじゃ早速」
俺はクーラーボックスを開けた。お岩さんはその中を恐る恐る覗いた。お岩さんは指をさしながら声を上げる。
「こ、これ、クサフグじゃないか!」
「うん、そうだよ?昨日海まで言って釣りしてるおじさん達に貰ったんだ」
「こんなもん、一体どうするつもりだい!?」
「食べろ」
「…………は?」
バシャバシャと暴れ始めるクサフグ。俺の言葉を聞いて絶句するお化け達。
クサフグは肝臓・卵巣・腸は猛毒、皮膚は強毒で、筋肉・精巣は弱毒とされる。 毒の正体は、有名なテトロドトキシンで、青酸カリの850倍もの毒性を持っている。一応食べられるらしい。
俺はトングでクサフグを捕まえ、お岩さんに押し付けた。
「ほら、食べろ」
「食べろって生きたままをかい!?」
「ゴポッ!ゴポッ!」
「龍星?あたしら幽霊よ?生きたままじゃ食べられないわ」
「せめて焼いてあげなよゴポゴポ言ってるし」
そういえばそうだった。お化け達は生気を吸うんだった。
すーちゃんとメリーに言われた俺はクサフグを引っ込める。そのまま外に出て焚き火でクサフグを焼いた。黒焦げになったクサフグを再び岩さんに押し付ける。
「ほら、焼いたから食べろ岩さん」
「い、いや!焼き過ぎて真っ黒に焦げてるじゃないか!」
「みんな、押さえて」
俺の指示によりお化け達は岩さんの体を押さえる。
「イヤァァァッ!!焦げ臭いっ!そんなもんの生気を吸っても無理よ!」
「やってみなきゃ分からないでしょ」
岩さんは半強制的に生気を吸い始める。
「ゴホッ!ウゴッ!?ゴアッ!?オ゛ォェ!!」
拳ほどの大きさの生気を一気に飲み込んだ岩さんは涙目になる。
「はーっ、はーっ、どう?治ってる?」
「どれどれ?」
俺は岩さんの前髪を掻き分けてみると、以前と変わらない状態だった。
おかしい、トリカブトのアコニチンとフグのテトロドトキシンは拮抗作用があって、同時に飲むとお互いを押さえ込むはずなんだけどなぁ。テケテケの時みたいに、アレやって見るか。
テケテケの時のように岩さんの腫れてる部分に手を当てながらボソボソと唱えた。手を離してみると、岩さんの腫れてた部分は綺麗に治っていた。それを見たお化け達も驚愕する。
「ほら、治ったよ」
「えっ!?嘘!?」
「嘘じゃないよ。くねちゃん、鏡出して」
くねちゃんが岩さんに鏡を渡すと、岩さんは治った顔を見て涙する。
「嘘…………本当に治ってる!?」
岩さんがはしゃいでる中、メリー達が首を傾げる。
「ねぇ、龍星。なんかボソボソ喋ってたよね?お経でも唱えてたの?」
「え?なんでもないよ、気にしないで」
「わしも気になる、何を唱えたのじゃ?」
「なんだよ花ちゃんまで、恥ずかしいから言いたくない」
「笑いませんよ、どんなお経なんですか?」
「どーせその辺のお坊さんの真似事でしょ?」
「わくわく!」
はーちゃん、すーちゃん、くねちゃんまで興味を示して来た。仕方なく俺は、重い口を開いた。
「アラスタッタピィーヤ!」
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