食い込むブリーフ
ブリーフにお経が書かれてないのに気付いた俺はもう頭がブリーフの様に真っ白になった。
お菊さんは働き者だけど、天然ボケだけはダメだ。
痺れた足を奮い立たせながらゆっくりと動くと、お岩さんの視線も動く。そして、遂にお岩さんの口が開く。
「なんだい?この白いふんどしは?」
「──────っ!?」
お岩さんは不思議そうに近付いて摘む様にブリーフを引っ張り始めた。俺は声が出そうなのを必死に堪える。伸び縮みするブリーフが珍しかったのか、お岩さんはびょんびょん伸ばす。
「なんだか面白いふんどしだねぇ、伊右衛門様に差し上げたいね」
な、なんだと!?
本当に俺が見えてないのか不安になる様な事を口走ったお岩さんは、急にブリーフの両端を上に引っ張り始めた。それにより、ブリーフは股にくい込みハイグレの様な形になる。
いだだだだぁっ!!
「なんだい?取れないねぇもっと引っ張ればいいのかね?」
更に力を加えられた。グイッと引っ張られて俺の2つの秘宝が両脇からはみ出て来てしまった。悲鳴を上げたいが、俺は下唇を噛み締めて堪える。
「取れないねぇ、まぁ。これは後にしようか」
お岩さんは諦めたのか、ぱっと両端を離した。ゴムが伸びたヨレヨレのブリーフを抑えながら俺は痛みを我慢する。
「伊右衛門様〜?そろそろ出て来てくださいな」
この人、本当は見えてるんじゃないだろうか。
俺は股を擦りながら座ると、お岩さんの口調が段々荒々しくなって来た。
「また裏切るのか、あんたはまたあたいを裏切るのかぁぁっ!あたいにトリカブトの毒を飲ませて殺し、他の女と夫婦になろうとした事は忘れたとは言わせないよぉっ!出て来い!この人でなしぃぃっ!!」
耳を塞ぎたくなる様な甲高い声で叫び出す。そこへ更に、追い討ちをかけるように俺の体に異変が起きた。
屁が出そう。
先程ブリーフが食い込んだ事で放屁感が高まったらしい。
だが、ここで音を出してしまったらお経の効果がなくなってしまう。けど放屁感も高まる。なら、どうする…………?
頭をフル回転させて振り絞った結果。
すかしっぺにすればええんや!!
俺は体を丸めて土下座の様に体勢を変えた。
よし、けど一気に出したら音が出てしまう。ゆっくり、少しずつだ。
「プスゥ〜」
音を立てないように空気が漏れるような音を出して放屁する。順調に出ている事に俺は安堵した。
助かった、これでなんとかなる。
と、その時。油断してケツの力を緩めてしまった。
「プスゥ〜…………ブッ、プ」
あっ!
音を立てた瞬間、お岩さんは俺の方に顔を向けた。
「そこかい?そこにいるのかい?伊右衛門様ぁぁぁっ!」
俺は慌てて離れようとした。それと同時に乳首に書かれていたお経が擦れてしまい、遂にお岩さんに見つかってしまった。
「へぇ〜、お経で姿を隠してたのですねぇ、伊右衛門様」
「はわわわっ!」
「逃がしませんよぉ〜。あたいの伊右衛門様ぁぁっ!!」
お岩さんは俺の乳首をデコピンする。敏感な俺はデコピンに耐えながらビクッと体を震わせる。
はうっ!
「ここだねぇ?さぁ、あたいと一緒に来て貰いますよぉ」
不気味に笑みを浮かべるお岩さんは何を思ったのか、とんでもない力で俺の乳首を引っ張り始めた。激痛で俺は断末魔を上げる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
「あたいが受けた憎しみと悲しみ、地獄でたんと味わうがいいわ!」
「あぁぁぁっ!と、取れる!乳首とれるぅぅっ!!」
俺の悲鳴を聞きつけたお化け達が雪崩込む様に駆け付ける。そして俺の惨状を目の当たりにしてメリーが、
「えっ?なに、どういうこと!?」
「速攻で殺されると思ったら、ち、乳首を責められてるの?」
「こ、これはどうすればいいんじゃ?」
「と、とにかく龍星を助けなきゃ 八尺さん?」
メリーや花ちゃんが戸惑い、くねちゃんは手で顔を隠す中、すーちゃんがはーちゃんを見上げると、はーちゃんは何故か頬を赤らめてどこか興奮している様に見えた。
「え、ちょ!八尺さんがおかしくなってる!変な扉開けようとしてる!」
「興奮してる場合!?早く助けようよ!」
「らめぇぇぇっ!壊れちゃぅぅぅっ!」
「わしは行く。って言うより、不快だからな。夢に出て来そうじゃ」
メリー達は再びお岩さんに立ち向かおうとしたその時、後ろから鼻血を止めたお菊さんも合流する。
「うぅ…………龍星さんは!?」
「今から助ける所よ!お菊さんも手伝って!」
「行くぞ!せーので行くぞ!」
「行くわよ〜。せーのっ!」
「やぁぁぁっ!」
お化け達は総出でお岩さんを取り押さえる。はーちゃんが覆いかぶさり、すーちゃんとメリーが腕を抑え、くねちゃんは両足を抑えた。取り押さえられたお岩さんは騒ぎ出す。
「えぇい!なんだい!あんた達!退きな!」
「誰が離すもんですか!お菊さん!龍星を!」
「はいっ!龍星さん、大丈夫ですか!?」
お菊さんが俺に手を差し伸べたが、俺は余りの激痛で、
「いやっ!来ないで!あっち行って!」
「いや、あんた女か!?しっかりしなさいよ!」
メリーが俺に言い放つ。気を取り直したお菊さんは俺の手を取って安全を確保した。お菊さんに抱かれた俺は安心して泣き叫ぶ。
「うわぁぁぁん!お菊さぁぁぁん!痛かったよぉぉっ!」
「よしよし、もう大丈夫ですからね。怖かったでしょう」
ようやくお岩さんを取り押さえ、落ち着いた俺はお岩さんを見下ろす。お岩さんは悔しいのか、恨めしそうに俺を睨み付ける。
「俺は伊右衛門とか訳分からんクズじゃない。俺は福島龍星だ」
「龍星?伊右衛門様じゃないのかい?」
「そんなに龍星似てるのかな?」
「どうじゃろうな」
メリーと花ちゃんがヒソヒソ話していると、その話が聞こえたのかお岩さんは答えた。
「まぁ、似てるよ。雰囲気とか目元とかね」
「なのその微妙な言い方」
「似てるか分からんけど、人違いです。だから俺に取り憑くのはやめてくれないかな?」
俺がそう言うと、お岩さんは悲しそうな顔をした。
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