トンカラトン

 初日のシフトを終えて花ちゃんと買い物をする事にした。俺は様々なコスプレの服を眺めながら呟く。

 

「メルヘンウィッチで3,278円…………高っけぇ」

「ほほう、わしはこれでいいかの!」

 

 店内で会話をする訳もいかない。なので俺はスマホを取り出して通話しながら買い物をしてる男を装いながら花ちゃんに声を掛けた。

 

「もしもし?花ちゃん?」

「ん?なんじゃ?わしは隣に居るだろ?」

「今ハロウィングッズ売り場にいるんだけど?」

 

 俺は花ちゃんにスマホをつんつんと指をさして合図を送る。花ちゃんもそれに気付き、手をポンと手を叩く。

 

「メルヘンウィッチでいいの?」

「うむ、これでよい!大きさも丁度良さそうじゃ」

「りょーかい、んじゃこれ買うね」

 

 スマホをしまって商品をレジに持って行き会計を済ませた。そのまま商業施設を出て駅に向かう。花ちゃんは嬉しかったのか、終始機嫌が良かったのか、鼻歌を歌いながら浮かびながら付いてくる。

 

「早く着たいのぉ!楽しみじゃ!」

「はぁ…………これをあと6回しなきゃ行けないのか」

「そうじゃのぉ、まあおじさんが競馬で稼いだ金を使ったのだからいいだろ」

「まぁね、すっかり遅くなっちまった。早く帰らなきゃな」

「うむ」

 

 人気のない道をひたすら歩いていると、脇道から何かが聞こえて来た。

 

 トン、トン、トンカラ、トン…………。

 

 歌なのか何なのか何かが聞こえた。俺と花ちゃんは顔を見合わせて、

 

「ねぇ、今のって」

「空耳ではないの、そっちの方向から聞こえたが?」

 

 なんだろう?まだ聞こえる。

 

「トン、トン、トンカラ、トン」

「トントントンヒノノニ、トン」

 

 俺がそう言い返すと、俺の声が聞こえたのか返して来た。

 

「ト、トントントンあじゃない、トンカラトン」

「間違えよったぞ」

「まんまと釣られたね。人かな?」

「いや…………妖気を感じる。龍星、少し離れておれ」

 

 花ちゃんが俺の前に出て警戒すると、暗闇から補助輪を付けた自転車に乗っており、腕には包帯を巻いていた。白のニットにスカートを履いていてクールな顔立ちに平均の女の子より少し背が高く、灰色の髪色にポニーテールの美女が現れた。

 

 歳は大体20歳そこそこだろう。


「な、なんじゃコイツ!?」

「凄いクオリティ高いコスプレしてるね、俺達も見習なきゃ」

 

 包帯の美女は俺達に気付いて自転車から降りてきた。

 

「そこにいる一般人と幽霊、この私が見えるのか?」

 

 あっ、人間じゃない。

 

 花ちゃんは咄嗟に臨戦態勢に入り、包帯の美女に声を掛けた。

 

「貴様、わしが見えるのだな?なら名乗るのが筋というものではないか?貴様、名を名乗れ!」

「おっとすまない…………確かに名乗らねばいかんな。聞くがよい…………聖なる我が真名を!」

 

 これは…………もしかして?。

 

 包帯の美女は、突然変なポーズを取り始めて名乗り始めた。

 

「我が名は、疾風の如く現れる呪われし闇の剣士!シュナイダーゼロ!混沌としたこの国に君臨しており、秘密組織・漆黒竜に所属している」

「な、なんと?や、やみの剣士?…………え?」

 

 花ちゃんは何を言っているのか理解出来なかったのか、首を傾げながら俺を見つめる。たまらず俺は、

 

「誰かっ!この辺に厨二病の方はいらっしゃいませんか!?通訳をお願いします!誰か!!」

 

 思わず叫んでしまった。闇の剣士とか名乗った美女は突然叫び出した俺に驚いて、

 

「突然叫び出してどうした?  ははーん、さてはこの私に恐れをなして発狂したか?」

「いや、この人間はただ、貴様が何を言ってるか分からんだけだ」

 

 花ちゃんが俺に指をさしながら指摘すると、

 

「なんと!我が言葉を理解出来ないだと!?それはおかしい」

「いやおかしいのは貴様じゃ」

「そんな事はない、未だかつて我が姿を目にした者はいない!恐らくそこにいる人間は自分の潜在能力に気付いていないのだ!」

 

 潜在能力ってこの見えたり触れたり出来る事かな?

 

 包帯の美女はさらに興奮し始め、俺に詰め寄る。

 

「そうだとも!こうして触れれるという事は!私と同じ前世を共にした盟友だ!輪廻転生をしてこの世界にやって来たのだろう!?」

「え?えぇ?な、何言ってるのこの子? 花ちゃん!助けて!」

 

 俺が助けを求めたのに対して花ちゃんが何故か驚く。

 

「あの龍星が助けを求めた!?コイツ、名のある妖怪なのか!?」

「そうだとも!さぁ、呪禁に縛られた我が名を呼ぶが良い!」

「な、名前!?えーっと、名前なんだっけ!?シュナイダーゼロ?」

 

 妙な恐怖に囚われた俺は思わず名前を言った。すると、包帯の美女は首を横に振った。

 

「違う!その名前ではないっ!さもなくばこの妖刀で斬る!」

 

 包帯の美女は腰に装備していた刀に手を掛け始める。花ちゃんは理不尽な行動に声を掛けた。

 

「いや、貴様さっきその名前を名乗ったではないか!」

「え?違うの?1から10まで言わなきゃダメなの!?」

「我が名を忘れたのか?そうなのか?」

 

 包帯の美女は突然目に涙を浮かべ始める。

 

「情緒不安定過ぎんか!?なぜ泣く!?」

「えーと、えーっと………… 疾風の如く現れる呪われし闇の剣士のシュナイダーゼロ?」

「ちーがーうっ!その名前ではないっ!」

「違うのか!?何が違うっていうのだ!?」

 

 どうしようも無いので、ポケットからスマホを取り出して【全身包帯 自転車 妖怪】と検索をかけた。

 

「えーっとなになに?【トンカラトン】?」

「そう言えばそんな言葉言っておったな」

 

 俺がスマホを見ながら呟くと、包帯の美女は泣き止んだ。

 

「ほえ…………な、なんだ!やっぱり知ってるじゃないか!」

「これが貴様の名前なのか!?」

「そう!私の本当の名はトンカラトンなのだっ!」

 

 トンカラトン。全身包帯をぐるぐるに巻いた人間の様な怪人の都市伝説。日本刀を腰にさして、「トン、トン、トンカラ、トン」と歌いながら、自転車に乗って現れる。誰かに出会うと「トンカラトン」と言えと命令してきて、その通りに従うと、満足して去っていくという。

 

「自己満足じゃないか、害はあるのか?」

「いや、まだ続きがあるんだよ」

 

 情報をさらに読むと、だが、何も答えなかったり、質問されるよりも前に「トンカラトン」と言ってしまうと、日本刀で切りつけられて体中に包帯を巻かれ、新たなトンカラトンにされてしまう。

 

「なにこの理不尽な妖怪」

「確かに、危険と言えば危険だな」

 

 ふむ、だが妖怪と分かれば…………。

 

 俺はトンカラトンに近付くと、トンカラトンは首を傾げた。

 

「む?どうした?」

 

 もにゅもにゅ。

 

 俺はニットに大きく2つの山の様に膨らむ胸を両手で鷲掴みにした。

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