犯人はもう見つからない
首なしライダーは頭をかきながら俺達を睨みつける。
「…………まさかあたしが見えるなんてねぇ」
「ねぇねぇ、首があるのになんでわざわざ隠してるの?」
俺が不思議そうに尋ねると、首なしライダーは顔をずいっと近付けて来た。
「あ?んなのお前に関係ねぇだろ?あん?コラ」
「えぇ…………めっちゃ怒ったんだけど!?」
「随分ヤンチャな子ね、殺してやろうか?」
息を整えたテケテケが手をゴキゴキと鳴らしながら首なしライダーに近付く。首なしライダーはテケテケに顔を向けて、
「てめぇは後でケリつけっから待ってろ その前に」
「んぅぅぅぅぅー!」
俺は隙をついて口を3の形にさせながら首なしライダーに熱いキッスをしようとした。
「てめぇっ!何してやがる!?」
「顔が近付いて来たからキッスが出来るんじゃないかと」
「どんな発想してんだよてめぇ!んなわけねぇだろ!!」
首なしライダーは俺の顔を突っぱねて俺を離そうするが、負けじと近付こうとする。隣にはゴミを見るように見ているテケテケと濡れ女。
「初対面の妖怪によくそんな事出来るわね」
「…………コクリ」
「て、てめぇら!黙って見てねぇで何とかしろよ!コイツ力強っ」
「ほら、止めてあげなよ。この子ビビってるから」
呆れたテケテケが俺を止めようと割って入ってくる。だが、俺はテケテケにも、
「んぅぅぅっ!」
「あたしにも来るの!?ちょ、やめっ!やめろぉっ!!」
「なんなんだよ、コイツ!気持ち悪ぃな!おい、お前飛んでみろよ」
今どきチンピラまがいの事をする奴がいるのか。
「小銭なんてないよ。紙ならあるけど」
「あん?札か?札の方がいいに決まってんだろ。ほら、出せよ」
俺は言われた通りポケットから紙を取り出した。
「ティッシュじゃん!」
「札じゃねぇのかよっ!」
「いや、だって紙でもいいって言うから…………」
「誰が洗濯されたティッシュ欲しがるんだよっ!バカかてめぇ!?」
「いらないの?」
「いらねぇよ!!なんなんだよ、コイツ!?頭おかしいんじゃねぇか?」
身の危険を感じた首なしライダーは背中に隠していた木刀を取り出して俺に向けて来る。ネットの情報によると、首なしライダーは日本刀を持って襲って来るという説もある。
「あつ?!武器出したぞコイツ!!」
「そりゃ護身のために出すでしょ、あんたが余計な事するから」
「てめぇっ!生きて帰れると思うなよ!?ぶっ殺してやる!!」
「そんなもん振り回したら危ないよ、ほら、こっちに渡して」
俺が近付いた瞬間、
「来んなっ!」
首なしライダーが木刀を一振りした瞬間、俺の近くにあったガードレール切り落とした。
えっ?ガードレールを切り倒した!?
ガードレールがプラプラとしているのを目の当たりにした俺は冷や汗を垂らす。
「えっ、えぇ…………?やべぇ奴だよコレ」
「あんたが怒らせるからでしょ!?どーすんのよコレ!?」
「えっ?ガードレールは道路法で壊した人はガードレールを弁償することになるんだけど」
「ちげぇよバカ!首なしライダーの事を言ってんのよ!!」
あっ、そっち?とは言ってもあの木刀はかなり不味い。
首なしライダーはゆらりと佇みながら不気味なオーラを纏わせる。
「あたしを怒らせてタダで済むと思うなよ人間!!」
「逃げて!あいつはマジで危ない奴よ!」
「…………コクリ」
「えっ?えっ?」
庇うようにテケテケと濡れ女が俺の前に立ちはだかる。テケテケも濡れ女も今まで見た事ないくらい怖い顔をしていた。だが、激昂している首なしライダーはお構い無しに、
「邪魔すんなっ!どけゴラァッ!!」
首なしライダーはテケテケに向かって木刀を振った。それにより、テケテケの体は上半身と下半身を2つに切り落とされた。
「テケテケ!!」
「───────っ!!」
俺がテケテケに駆け付けようするが、濡れ女は行くなと止める。
「厄介そうな女は片付けた、次はてめぇだ!!」
首なしライダーが木刀を俺の首に向けた瞬間、
「誰を片付けたって?」
「──────っ!?」
首なしライダーの真後ろには下半身を切り落とされたテケテケが首なしライダーの肩にしがみついていた。首なしライダーは振り落とそうと暴れ始める。
「ちくしょう!てめぇ、なんで生きてんだ!?」
「あたしは元々下半身をなくしてる妖怪なの、斬られても死なないわ」
「あぁん!?」
「今よ!木刀を取り上げて!!」
テケテケが千載一遇のチャンスを作ってくれた。そのチャンスを逃すまいと俺と濡れ女は首なしライダーを押さえ付け、木刀を取り上げた。
「くそっ!!あたしの木刀が!!」
「こんなもん振り回しやがって。テケテケは今のうち下半身くっつけておきな?濡れ女も手伝ってあげて」
「分かったわ、ちょっと待ってて」
「…………コクリ」
濡れ女がテケテケと共に切り落とされた下半身の元へ向かった。その間、俺は首なしライダーに顔を向ける。
「良くも俺が買ってやったリアルドールを粗末にしてくれたなDQNめ」
「は?り、リアルドール?」
「テケテケの下半身だよ。あれは人形の下半身だからな」
「はぁっ!?」
「さぁ、お仕置の時間だ」
俺はゆっくりと首なしライダーに近付いた。テケテケはその頃、濡れ女と一緒に下半身をくっ付けていた。
「あー、久しぶりに本気で動いたら疲れた」
「…………ニヤリ」
「あいつ、大丈夫かな?殺されたりしてない?」
「…………?」
下半身をくっ付け終えると、再び俺の所へ戻って来て見たのは。
「きゃぁぁぁぁっ!!やめ、やめろおおおおっ!!」
「あ、あんた。何してんの?」
テケテケと濡れ女が目にしたのは、首なしライダーを押し倒して盛りついた犬のようにカクカクと腰を振っていた。テケテケは慌てて俺を止める。
「あんた何やってんのよ!?やめ、やめなさいっ!!あんた犬か!?」
「なんだよ、邪魔すんじゃあないよ!別に本当にしてる訳じゃ」
「うるさいっ!カクカク腰を振ってんじゃないわよ!」
「うええええん!やめてぇぇ!!」
「ほら泣いてるじゃん!首なしライダー泣いちゃってるじゃん!」
「よく見ろ!本当にしてる訳じゃないだろ!ただ腰をぶつけてるだけであって」
「頭おかしいんじゃないの!?、いいから離れなさいっ!」
なぜ離す!?本当にしてる訳じゃないのに。
テケテケと濡れ女に引き剥がされると、首なしライダーは余程怖かったのか、泣きながら立ち上がった。
「この辺で許してやるよ。で?なんで首があるのに首なしライダーなんて呼ばれるようになったの?噂通りバイクで事故った?」
「あ?てめぇに関係ねぇだろ!?」
冷たいなぁ。
「そんな事言わないでさ、教えてよぉ〜」
俺が鬱陶しく首なしライダーにまとわりつくと、根負けしたのか首なしライダーは話し始めた。
「わーったよ。あたしはあたしの首を切った奴を探してんだよ」
「という事は、龍星の知ってる通りピアノ線が仕掛けられたの?」
「ああ、なんとか首を探して見つけたんだけどよ、ピアノ線仕掛けたやつが分かんねぇんだよ」
どうやら首なしライダーが走り回る理由は自分を殺害した犯人を探してこの峠を彷徨っているらしい。その時、俺はふと気付いた。
「ねぇ、首なしちゃん」
「あ?なんだよ」
「犯人、見つからないんじゃない?」
俺がそう言うと、首なしライダーは俺の胸ぐらを掴んだ。
「はぁ!?なんでだよ!?」
「だって、この道路はもう使われてないよ?廃道になってるんだよもう」
「…………えっ?」
知らなかったのだろうか?
「だから、ここにもう人は来ることはないと思う」
そう言った瞬間、首なしライダーは両手両膝をついて項垂れ始める。
「マジかよ…………通りで車が通らねぇと思ったら…………廃道になってんのかよ」
なんで気づかなかったのだろうか。
「まぁ、首は見つかったんだし。これからは誰にも迷惑かけることなく走り屋でも目指せばいいんじゃない?」
「そうよ、なんならあたしらと友達になる?あんたも1人で寂しいでしょ?」
「…………コクコク」
テケテケと濡れ女に説得された首なしライダーは照れた様子で、
「し、仕方ねぇな…………ダチになってやるよ」
「よろしく!首なしちゃん!」
「いや、てめぇは許さねぇからな!?いつか必ず殺してやる!」
テケテケと首なしライダーは連絡先を交換し、首なしライダーは再び峠を走り去って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます