首なしライダー

 喫茶店に入り、店員さんに変な目で見られながらも紅茶2つにオレンジジュースとフルーツパフェ1つを頼んだ。テケテケと濡れ女は紅茶の生気を啜りながら俺がオレンジジュースをがぶ飲みし、フルーツパフェをほうばってるのをただじっと見ていた。たまりかねて、テケテケが口を開いた。

 

「ねぇ?今から山登るのにそんなの飲んで食べて大丈夫なの?」

 

 そんな事を聞いてきた。この喫茶店には俺たち以外にもお客さんがいるので俺はスマホを使って筆談を始めた。

 

《大丈夫、平気》

「ほんとに〜?後で吐いたりしないでよ?ねぇ?濡れ女?」

「…………コクリ」

《大丈夫だってば、これ食べたら登るよ?お前らこそ大丈夫なのか?》

 

 ムキになりながらスマホを打ってテケテケに見せると、テケテケはため息を吐いて呆れていた。

 

「大丈夫に決まってるでしょ?幽霊なんだから」

「…………コクリ」

 

 そりゃそうだ。

 

 その後フルーツパフェを食べ終え、生気を吸われて冷めた紅茶を飲み干して俺は会計を済ませた。そのまま俺達は人気のない山道を登り歩き始めた。

 

 1時間後。

 

「うえぇぉっ!おえぇっ!」

「ほら言わんこっちゃない!バカじゃないの!?」

 

 テケテケに背中をさすられながら吐いていた。俺が苦しんでいるのがツボに入ったのか、濡れ女は転げながら爆笑している。

 

「あんたも爆笑してないで手伝いなさいよっ!」

「大丈夫……もう、大丈夫…………」

 

 俺は腰掛けになりそうな石に座りながらリュックを漁り始めた。

 

「飲み物あるんでしょ?ちょっと飲んで落ち着きな?」

「あ、ああ…………」

 

 リュックにしまって置いた保冷バッグからホー○ランバーチョコレート味を取り出して開けてぺろぺろと舐め始める。

 

 1個10円の破格アイスだ。

 

「なんでアイス食ってんのよっ!飲み物を飲めって言ってるでしょ!?」

「食べたくなって…………飲みすぎて脇腹痛いし」

「食いしん坊かよっ!食うなっ!」

 

 テケテケに横っ面を引っぱたかれてホーム○ンバーを取り上げられてしまった。濡れ女に至ってはバカすぎる俺を見て地面をどんどん叩きながら爆笑している。テケテケは怒り狂いながら俺の胸ぐらを掴む。

 

「お前何しにここへ来たんだよっ!遠足か!?」

「だって、暑いから」

「飲み物飲めってば!なんなの?山舐めてんの!?」

「食べる?」

「要らねぇよっ!」

「てか…………ここどこ?」

「知らねぇよっ!」

 

 そんなやり取りをしていたら道に迷ってしまった。少し歩くと、昔まで使われていたとされる廃道路が見えた。

 

「迷ってんじゃん!どうすんのよ!熊でも出たらどうすんの!?」

「それはクマったな」

「シャレ言ってる場合か!」

「まぁまぁ、あそこ廃道見たいだけど下れば町にたどり着くっしょ?なんとかなるって!」

 

 石から腰を上げて錆びたガードレールを跨いで廃道を歩き始める。廃道から見下ろした紅葉風景はとても綺麗だった。

 

「ほら、見てみ?絶景じゃあないか!」

「いやまぁ、確かに綺麗だけどさ」

「アイス食べよーっと」

「お前どんだけアイス買ってんだよっ!レジャーシート広げるな!」

 

 俺は廃道のど真ん中にレジャーシートを広げて再びホー○ランバーチョコレート味を開けて食べようとしたその時。

 

 ブオーーーン…………。

 

 どこからかバイクの排気音が聞こえて来た。テケテケと濡れ女にも聞こえたのか、辺りを見渡した。

 

「なに?この音…………バイク?」

「…………?」

「峠だもん、バイクだって通るだろ。いただきま─────」

 

 ブォンブォンブォン!ブォーーーーン!キィーッ!!

 

 バイクは急ブレーキで止まり、俺達の目の前に黒いジャージ姿でフルフェイスを被った人物が現れた。驚いた拍子に俺はホー○ランバーを落としてしまった。

 

「ア゛イ゛ズゥゥゥゥゥッ!!」

「いや、アイスは諦めなさいよっ!なんなのコイツ!?」

 

 テケテケがそのライダーを睨みつけると、ライダーは何を思ったのかフルフェイスをカチャカチャといじり始めて外そうとしていた。フルフェイスを外すと…………ライダーの首がなかった。テケテケと濡れ女はゾッと顔を青ざめた。

 

「くっ、首がないっ!?」

「───────っ!?」

 

 濡れ女が慌てて俺の肩をバンバンと叩くが、

 

「俺のホームラ○バァァァァァァッ!!」

「濡れ女!そいつはもうダメだから放って置いて!それよりこいつよ!」

「…………っ!!」

「あんた、何者?あたしらが見えるん──────」

 

 ブォンブォンブォンブォンブォン!!

 

「だからぁっ!あたしらが───────」

 

 ブォンブォンブォンブォンブォンブォン!!

 

 テケテケが声を掛ける度に首のないライダーはバイクのエンジンを吹かす。イラッとしたのか、テケテケは一瞬で距離を詰めて首のないライダーの手を掴んだ。

 

「いい加減にしなさいよ…………体を真っ二つにされたいの?」

 

 濡れ女も道を塞いで首のないライダーの行く手を阻んだ。首のない為どんな顔色をしてるのか分からないが突然テケテケを蹴り飛ばしてバイクを前進させ始める。濡れ女は轢かれそうになったが、なんとかギリギリかわせた。

 

「あんのやろぉっ!龍星っ!いつまでいじけてんのよ!」

「うう…………ホーム○ンバー…………仇は取るからな!」

「10円のアイスにどんだけ愛着湧いてんのよ!ほら、首のないやつが逃げたよ!?」

 

 首のないライダー?

 

「もしかして…………【首なしライダー】の事?」

「あんた、アイツの事知ってるの!?」

「知ってるもなにも、テケテケと同じくらい有名な幽霊じゃんか」

 

 首なしライダーとは。何かの事故で首をはねられて亡くなった人が、首なしライダーとなって現れると言われている。道路側に折れて曲がった道路標識に突っ込んで首が切れた説や、トラックの荷台からはみ出た鉄板やパイプに頭が当たって首がはねられた説、あるいは、暴走族の騒音に我慢出来なくなった人やいたずら目的の人が、道路を横切るようにピアノ線を張り、気付かずに走って来たバイクが突っ込んで首を切り飛ばされたと言われている都市伝説妖怪だ。

 

 直ぐにスマホで調べた情報をテケテケと濡れ女に見せると驚いていた。

 

「へぇー、そんな事があったんだね」

「なんの理由があったか知らないが、ホーム○ンバーの報いを受けてもらおうか」

「そう言っても相手バイクよ?勝てる訳…………えっ?」

 

 ─────────────────────

 

 首なしライダーがのうのうとバイクを走らせていると、後ろから叫び声が聞こえて来た。首なしライダーが後ろを振り返るようにしていると、そこには…………。

 

「まぁぁぁてぇぇぇぇ!!」

 

 テケテケが俺をおぶりながら全力疾走していた。テケテケも口裂け女程のスピードを出せるらしく、相手がバイクに乗っていようが短距離なら勝てるそうだ。

 

「─────っ!?」

 

 首なしライダーは並走してくる人間を見て驚いてバランスを崩し、少しよろけた。その隙に俺は溶けたホー○ランバーをジャージに擦り付ける。

 

「どうだ!気持ち悪いだろ!早く洗濯しなきゃベトベトするぞ!」

「も、もうちょいマシな攻撃ないわけ!?」

「勿論ある。見てろよ…………」

 

 俺は背負っていたリュックから水の入ったペットボトルを取り出し、一気に水を口に含んで…………。

 

「ぶぅぅぅぅーーっ!!」

 

 一気に吹き出した。驚いた首なしライダーはバランスを崩して転倒した。バイクは紅葉の木にぶつかり、首なしライダーはゴロゴロと落ち葉の上を転がった。

 

「ようやく止まりやがったなこのDQNめ」

「ぜぇー、ぜぇー、はやく…………捕ま…………えて…………うぇ」

 

 テケテケは今にも死にそうな声をしながら倒れた。俺はそのまま首なしライダーに近づくと、

 

「ちょ、ちょ待て!今起きっから!ったくよぉ…………」

 

 首なしライダーが起き上がると、先程まで見えなかった首がうっすらと見え始めて来た。すると、ポニーテールにサングラスを掛けた素行の悪さが感じる女の子の顔が現れた。

 

 

「ってぇなぁ…………んだよテメーら」

「なんだ、首あるじゃん」

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