ただいま!

 首なしライダーと出会して無事に紅葉を見終えた俺は無事に研修を終える事が出来た。

 

 あの子達に挨拶しなきゃ…………けど、こういう時って涙を誘っちゃうから黙って行った方が良いかもな。

 

 そう考えた俺は出会ったお化け達に別れも告げずに社宅を掃除し、鍵を掛けて荷物を持って駅に向かった。新幹線に乗った。車窓から外を眺めていると、マフラーちゃんやテケテケ達がサーカス団の様に首なしライダーのバイクに乗って新幹線を追いかけて来ていた。

 

 見送りに来てくれたのかな?可愛い子達だなぁ。

 

「───────!!───────!!」

 

 テケテケがバイクから何かを叫んでいた。だが、新幹線の窓は厚いうえに開けられないので彼女が何を言ってるか分からなかった。仕方なく、俺は小さく手を振った。

 

「挨拶くらいして行きなさいよぉっ!!何しれっと帰ってんのよ!」

「テケテケあぶねぇって!暴れんなよ!」

「…………ニヤニヤ」

「いひ、ひひひひひ、に、逃げるなんて卑怯だね」

「首なしもちゃんと運転してよ!ガタガタうるさいんだけど!?」

「砂利道なんだから仕方ねぇだろ!ってかあいつなに手振ってんだよ!」

 

 首なしライダーは器用に砂利道をガタガタと進んで行来る。

 

 この先海なんだけど、大丈夫なのかな?

 

 それにも関わらず4人は追いかけて来る。俺も何故か気になったので駅弁を食べながらそれを眺め始めた。

 

「あいつ弁当食ってんだけど!?」

「はぁ!?こっちが必死に追いかけてんのにか!?」

「ひ、ひひひひ、さすが、あ、頭おかしい人」

「───────っ!!」

 

 濡れ女が首なしライダーの肩を叩いて首なしライダーに伝えた。首なしライダーが前を見るとそこには…………断崖絶壁の崖だった。新幹線は橋に差し掛かった為、道路はそこで終わっていた。

 

「ブレーキ!ブレーキぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

「うおおおおっ、とまれぇぇっ!!」

「ひ、ひひひひひ、お、落ちたら、し、死ぬね」

「──────っ!!」

 

 あっ、落ちた。

 

「ご馳走様でした」

 

 俺は駅弁の弁当を食べ終え、周りの人に迷惑をかけないなように静かに弁当を片付け始めた。

 

 さようなら、○○県!

 

 3時間後、ようやく故郷の○○県に帰って来た。駅に辿り着くと既に夕方を迎えていた。俺はいつのもタクシー乗り場に行くと、口裂け女が暇そうにベンチに座っていた。周りに人が居ないことを確認した俺は、口裂け女に声を掛けた。

 

「口裂け女、久しぶりっ!」

「あら、久しぶりじゃない。チャオッ!」

「研修で○○県に行ってきたんだよ。元気だった?」

「ええ、元気満タンよ!」

「そっか!んじゃ、また今度寄るから。またね!」

「ええ、バイビー♪」

 

 口裂け女に挨拶をしてからタクシーを呼んで我が家に向かった。3ヶ月ぶりに帰って来た我が家がとても懐かしく感じた。俺は元気よく玄関の扉を開けて、

 

「ただいまー!」

 

 玄関を開けると、おくまがボーボーに髪を伸ばしてもはや顔が見えない状態になっており、部屋は荒れ放題散らかり放題だった。それを見た俺は唖然とする。

 

 …………何これ?

 

「おくま?大丈夫?」

 

 伸びた髪を退かして顔を確認すると、おくまは疲れた顔をしていた。

 

 一体何があったんだろうか?

 

「後で髪切ってあげるからな?」

 

 おくまを置いて家に入ると、悲鳴が聞こえて来た。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「あの悲鳴は…………はーちゃん?」

 

 悲鳴が聞こえた方に向かうとそこには、はーちゃんのスカートの中に顔を突っ込んでいる雑種犬が見えた。その近くには、疲れきった花ちゃん、すーちゃん、くねちゃん、お菊さん、メリーがへたりこんでいた。

 

「お前ら何やってんの?」

「…………龍星?龍星!?」

 

 疲れきっていたメリーが俺の顔を両手で掴みながら尋ねてきた。

 

「うん、ただいま。なんだあの犬は?何があったんだ?」

「龍星、あの犬捕まえて!あたしらじゃ捕まえられないのよ!」

「はぁ?たかが犬だろ?犬なんて小さいおじさんにだって」

 

 そう言いながら俺がゲージを覗いて見ると、小さいおじさんは一点をじっと見つめて体育座りをしながら何やらブツブツと呟いていた。

 

「おじさん?おじさんまでどうしたの!?」

「………ブツブツ…………おじさんは役立たず…………」

 

 ダメだ、リストラされた中年サラリーマン見たいになってる。

 

 状況が飲み込めない状態だったが、俺ははーちゃんのスカートに顔を突っ込んでいる犬を掴んだ。はーちゃんは俺にようやく気付いた。

 

「龍星さん!?帰ってたんですか!?」

「はーちゃん!君にはそのプレーはまだ早いっ!」

「なんの話をしているんですか!?」

「おいバカ犬、そこは俺の特等席だ!どきやがれ!」

「いや龍星さんでもダメですからね!?」

 

 犬を引き摺り出すと、その犬は…………普通の雑種犬じゃなかった。尻尾から胴体までは雑種なのだが、顔は犬というより中年男性に近かった。驚いた俺は思わず吹っ飛ばした。

 

「うわっ!なんだコイツ!?」

「いててて…………なんだ、人間か」

 

 喋った!?

 

「コイツ…………もしかして【人面犬】?」

「あん?俺を知ってんのか?」

 

 人面犬。1989年から1990年にかけて、主に小中学生の間で広まった。その目撃例は、大別して以下の2種類に分かれる。深夜の高速道路で、車に時速100キロメートルのスピードで追いすがり、追い抜かれた車は事故を起こす。繁華街でゴミ箱を漁っており、店員や通行人が声を掛けると、「うるせぇ!」と言い返して立ち去るという。別説も存在していて、犬にされた人説や、リストラされた中年男性の怨念が取り憑いたという説もあると言う。

 

 俺がスマホで人面犬を調べている間に、人面犬はまたはーちゃんのスカートに顔を突っ込んだ。

 

「きゃぁぁぁっ!龍星さぁぁん!!」

「あっコラ!ダメだって言ってんだろ!?」

「うるせぇっ!」

 

 なんて口の悪い犬なんだ。どうやら家の中を荒らしたのはこの人面犬の様だ。

 

 俺はとりあえずビニール紐を押し入れから持って来て人面犬を押さえ込んだ。

 

「みんな手伝って!」

「確保ー!」

「良くもやりおったなバカ犬め!」

「囲め!囲め!龍星がいるなら怖いもの無しよ!」

 

 人面犬はようやく取り押さえられ、ビニール紐で拘束された。

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