7人ミサキ

 海に入っていることに気付いた俺は女の子達に声をかけた。

 

「ちょとまてちょとまてお姉ちゃん!!」

「えっ?なーに?どうかしたの?」

 

 赤いビキニの女の子が反応してくれた。

 

「海に入ってるんだけど?ダメだって、遊泳禁止なんだから」

「釣れないこと言わないでよ〜。大丈夫だって!」

「そー!そー!このまま進んじゃおう♪」

 

 青い髪の子とスクール水着が言い返してくる。その間どんどん海を進んで行き、足がつかない所まで来ていた。

 

 あっ、コレはマズイ。

 

 妙な寒気を感じた俺は咄嗟に、

 

「ごめん、おしっこしたい」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

 尿意を示した途端、女の子達はピタッと止まった。だが、俺の尿意は限界を超えそうになる。

 

「ご、ごめん、マジで出そう!離れて!マジで離れて!」

「嘘でしょ!?ヤダこっち来ないでよ!!」

「まだ出してないよね!?離れるからこっちに来ないでよ!?」

 

 女の子達は慌てて俺から離れ始める。

 

 チャンス!

 

 俺は用を足すフリをして岸を目指した。

 

「ごめんねぇ、海で用を足す訳にはいかないからさ」

 

 そう言った瞬間女の子達の目つきが変わり、ヒソヒソと7人で話し始めた。

 

「バレたね」

「どうする?」

「バレたからには生かして返せないよ」

「そうだね、殺しちゃおう」

「どうやって殺す?」

「溺れさせれば誰も怪しまないよ」

「んじゃ、そうしよっか」

 

 女の子達は物凄い勢いで俺を追い掛けて来た。

 

「ヤバッ!こっちに来る!!」

 

 岸まであと10メートル近くになりギリギリ足が付く所まで泳いだ俺は、必死すぎてトランクスが脱げてるのに気付いていなかった。ようやく腰までの高さまで来た時に俺は女の子達に振り向いた。

 

「こっちに来るな!ここで出したって良いんだぞ!?」

 

 俺は女の子達に怒鳴り散らすと、女の子達は俺の下半身に目を向ける。

 

「出したって良いんだぞ!?って、もう出してるじゃん!」

「ちょっと見えてるって!見えてるって!」

「きゃぁぁぁっ!!」

「なんてもん出してんのよ!?」

 

 金髪、褐色肌、サングラス、白い髪の子が揃って俺に指を指す。残りの3人は両手で顔を隠していた。

 

 なんてもん?何を言って…………。

 

 俺が自分の下半身を見てみると、トランクスがどこかに行っていた。

 

「あら!?パンツどっか行った!!やべっ!!」

 

 俺は慌てて着ていた白いTシャツで下半身を隠したが、

 

「透けてるんですけど!?」

「それで隠してるつもり!?」

「マジで気持ち悪いんだけど!?」

「キモイキモイ!!」

「もう、何もしないから早く下履いてよ!」

「乳首透けててちょっとキモイ!!」

「汚ぇもん見せてくんじゃねぇよ!」

 

 女の子達に浴びせられる罵声の中、俺は泣きそうになりながらハーフパンツを履いた。履いて砂を払っていると、既に女の子達に囲まれていた。

 

「ねぇ?着替え持って来てないの?」

「ない」

「んじゃなんで海に入ってんの?馬鹿なの?」

「それは君たちが入れたからです」

「はぁ?あたしらのせいにする気?」

「したくもなりますよ」

「つーか、あたしらの体触ったよね?」

「なんの事でしょうか?」

「とぼける気?みんな気付いてるからね?」

 

 女の子達に言われる事に俺はゾッと青ざめる。

 

 あっ、コレはマズイ、通報されちゃう。

 

「いやぁ?俺が?君達の体を触る?んなまさか」

「少し前海に沈めたおじさんも最初そんな事言ってたし」

「そーそー」

 

 海に沈めた!?

 

 俺はバッと顔を上げて女の子達に尋ねた。

 

「あの、色々気になる事があるんだけど、とりあえず君達の名前聞いても良いかな?」

 

 そう言うと7人の女の子達は同時に、

 

「「「「「「ミサキ」」」」」」

 

 なんて?

 

「ごめん、なんて言ったの?君の名前は?」

「ミサキ」

「君の名前は?」

「ミサキ」

「んじゃ君は?」

「ミサキ」

 

 赤いビキニ、青い髪、金髪に名前を尋ねると【ミサキ】と名乗った。他の4人を見ると同じ名前だと言わんばかりに頷く。

 

「あっ、みんなミサキなんだ」

「うん、そう」

 

 俺はバッグからスマホを取り出して【7人ミサキ】と入れて検索して見た。7人ミサキとは、災害や事故、特に海で溺死した人間の死霊。その名の通り常に7人組で、主に海や川などの水辺に現れるとされる。7人ミサキに遭った人間は高熱に見舞われ、死んでしまう。1人を取り殺すと7人ミサキの内の霊の1人が成仏し、替わって取り殺された者が7人ミサキの内の1人となる。そのために七人ミサキの人数は常に7人組で、増減することはないという。

 

 なにこれこわい。

 

「って、俺遭ったのに高熱出ないんだけど?なんで?」

「知らないよそんなの!人のケツ触っておいて生きて帰れると思ってんの?」

「だから触ってないって!証拠あんのか!?あぁん!?」

「だからあたしが見たって言ってんの!」

 

 幽霊と分かった俺は通報される事がないと判断し、一気に攻勢に出た。

 

「だから何だ!ごちゃごちゃうるせぇよ!なんだ7人ミサキっておそ○さん見てぇな事しやがって!お前らが幽霊ってんなら怖いこと何もねぇからな!!」

「なに開き直ってんの!?」

「やかましい!ミサキB!」

 

 俺はサングラスを掛けたミサキにミサキBと呼んだ。

 

 正直みんなミサキだと分かりにくい。赤いビキニをミサキAとして、スクール水着のミサキをミサキGと呼ぼう。

 

「おい、ミサキC!」

「な、何よ!?」

「成仏してないのになんで俺を海に沈めようとした!?」

 

 ミサキCに尋ねると、ミサキCは困った顔をしながら答える。

 

「なんでって…………?えーっと…………」

「狂ってんのか!?理由も無しに人を襲うんじゃないよ!」

 

 俺がそう怒鳴ると褐色肌のミサキEがミサキCを庇うように、

 

「違うの!この前のおじさんはこの海を荒らしてたの!色々ゴミとか勝手に捨てたりしてたから!」

 

 なるほど、不法投棄して海を荒らしてたのか…………。

 

 真実を知った俺は複雑な顔をしながら考えた。どうやら7人ミサキはこの海を守っているらしい。不法投棄などした奴を海に引きずり込んで退治をしているようだ。

 

「事情は分かった。ミサキシスターズの事は誰にも言わないよ。ただ、俺みたいに迷い込んだ人を襲ったりするなよ?」

「いや、しれっと善人ぶってるけど、あんたも沈める動機あるからね?」

「よーし、なら分かった。責任とる!」

 

 俺は再び全裸になり綺麗な砂浜に大の字になって、

 

「煮るなり焼くなり好きにしておくんねぇっ!!」

 

 潔くしていると、7人ミサキ達は。

 

「いやもういいから帰ってくんない!?マジで気持ち悪いから!」

「ほんとほんと、マジで気持ち悪い!!」

「キモイキモイ!!」

「砂かけよ」

「あっ、いーねそれ!早く帰れ!クズッ!」

「二度と来るな!!」

「気持ち悪い!!」

 

 7人ミサキは気味悪がって何もしてこなかった。むしろ、俺を置いて海に消えて行った。取り残された俺は上半身裸で近くのコインランドリーに向かって行った。

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