時代に乗り遅れた女
その時、口裂け女は俺の後ろにいる巨大な女を見て慌てて大きく飛び退り、ポケットからハサミを取り出して構えだした。それを見た俺は首を傾げる。
「めっちゃ飛んだな。なんだよ急に?」
「あんたこそ何よそのデカい女!?」
デカい女?
俺は肩越しに振り返ると、
「あの〜?龍星さん、口裂け女さんに何をしているんですか?」
「はーちゃん!?」
そう、俺の後ろにははーちゃんが立っていたのだ。恐らく俺が心配だったのだろう。
「なんでここにいるんだよ!?」
「だって、龍星さんが心配になったので………つい」
「もう、他の人に見られたらどうすんの?大騒ぎになっちゃうじゃん」
俺とはーちゃんが話を盛り上げていると、蚊帳の外状態の口裂け女が騒ぎ出した。
「な、なによ!急に話し込んじゃったりして!そいつは私の獲物よ!横取りしないでくれる!?」
口裂け女がはーちゃんに向かって文句を言い出した。文句を言われたはーちゃんは困った顔をして、
「そ、そんな!?わたしは龍星さんを獲物だなんて思ってないです!」
「嘘よ嘘嘘!そんな事言っても私は騙されないんだから!なによ!長身美人だからってさ!」
「ちょ、長身美人!?」
そう言われたはーちゃんは突然頬を赤くした。はーちゃんも負けじと応戦し始める。
「く、口裂け女さんだって綺麗な瞳ですし、赤い服がとってもオシャレです!ぽっぽぽー!」
まずい、恥ずかしかったのか、はーちゃんの語尾がおかしくなってる!
はーちゃんに言い返された口裂け女ははーちゃん同様に頬を赤くして。
「な、なによこの子ったら………冗談はよしこちゃんよ!」
なんて?
口裂け女の最後の言葉が気になった俺は口裂け女に尋ねた。
「あの、今なんて言った?冗談はよしこちゃん?え?誰?」
困惑していると、口裂け女は何食わぬ顔で、
「え?何言ってんのよ。冗談はよしこちゃんよ!あなた知らないの?」
「し、知らない………はーちゃん分かる?」
「ええ、まぁ……ギリギリ分かります」
「何それ知らない…………」
知らないと答えた途端、口裂け女は勝ち誇って様に笑いだした。
「あはは!遅れてるわねぇ!アッと驚く為五郎〜!」
「また出て来た変な言葉!」
「龍星さんは令和の人間ですから、分からないと思いますよ…………」
「そいう言えばなんか母ちゃんが似たような事言ってた様な…………。なぁ、口裂け女。今何が流行してる?」
俺は口裂け女に一般常識的な事を聞いてみた。すると、口裂け女は何の迷いもなく言い放った。
「それはモチのロン。インベーダーゲームよ!」
「えっ!?」
インベーダーゲーム!?
口裂け女の流行が大体自分の母親と分かった俺は、口裂け女に言い放つ。
「あんた、時代に乗り遅れてるぞ?それもかなりの年数で」
「そ、そうですね。わたしも最近令和の時代が分かって来ましたから」
はーちゃんと俺が口裂け女に言うと、
「わ、私が時代に乗り遅れてる…………!?」
「うん。ほら、これなんだと思う?」
俺が自分のスマホを取り出して口裂け女に見せてみた。口裂け女はまじまじと見つめて。
「な、なによこれ?電卓?」
「ちっげーよ!電話だよ!電話!携帯電話!」
「携帯電話ですって!?バカおっしゃい!」
「嘘じゃないよ。電話かけてやるから携帯だせよ。あんたも令和を彷徨ってるんだから携帯一つくらい持ってるだろ?」
「バカにするんじゃないわよっ!私だってとびきりナウい携帯電話くらい持ってるわよ!」
口裂け女はハサミをしまってポケットを探り出した。そして、自信満々に取りだした物は。折り畳めないタイプの古い携帯電話だった。口裂け女はこれ見よがしに携帯を見せ付ける。
「どう?この携帯ナウいでしょ?このクルクルピッピってのが」
「クルクルピッピ!?何それ!?知らないんだけど!?」
「あんたこそなによその平べったい携帯!そんなの電話じゃないわ!」
「お前の方こそ化石みてぇな携帯使ってんじゃねぇよ!今の時代スマホかガラケーだぞ!?ガラケーでもねぇじゃんそれ!!」
「ガビーン…………」
口裂け女は余程ショックだったのか、その場にへたりこんだ。
「この私が時代に乗り遅れたなんて…………」
「ま、まぁ俺で良ければ色々教えるけど…………」
「ほ、ほんと!?」
嬉しかったのか、口裂け女はぱぁっと満面な笑みを浮かべる。
「けど、その代わりにこの辺の人達を脅かすのはやめろよ?警察やらYouTuberが動き出したら近隣住民に迷惑がかかるからな?」
「わ、分かったわ。時間がある時連絡してくれる?」
「お、おう。んじゃ口裂け女、携帯番号教えてくれ」
「ええ、いいわよ030-○○○-○○○よ!」
「ほーい」
俺はスマホを操作して口裂け女の携帯番号を登録した。念の為に番号に掛けてみた。
ピリリリッ!!
番号に掛けてみると、口裂け女の携帯が鳴り出した。
「来たわねっ!これでバッチグーよ!」
「そうだな。んじゃ、これから俺のことは龍星って呼んでくれよ」
「だいじょうV!けど、この飴はいらないから持って帰ってくれる?」
「なんでだよ!人がせっかく作ったのに!!」
再び子宝飴(べっこうあめver)を突き出すと、口裂け女は手を突っぱねて拒んだ。グリグリ突き出していたら、はーちゃんに止められた。
「龍星さん、このままじゃ口裂け女さんの大好きなべっこうあめが大嫌いなべっこうあめになっちゃいますよ!」
「っんだよノリ悪ぃな。んじゃ、俺達は帰るからな」
「口裂け女さん、夜分遅くまでありがとうございました」
「気にしないで、私も友達が出来てなんだか嬉しいわ。また会いましょ」
口裂け女はそう言い残し、暗闇の中に消えて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます