口裂け女
マスクを取った女性は口紅を大きく塗っており、パッと見は口が裂けているようにも見えた。俺がそれを目の当たりしていると、
「どう?これでも綺麗?」
「………………あっ、タクシー!!」
俺は何も見なかった様にして、手を挙げてタクシーを呼び止めた。
「…………っえ?、ちょっと!?」
俺はタクシーに乗り込んでドアに鍵をかけて運転手に行き先を伝える。その間、女は窓をドンドン叩いて何かを叫んでいる。
「ちょっと!答えなさいよっ!どうなの!?ねぇっ!?開けなさいよっ!コラッ!!」
ブーン。
俺は何も聞こえない様に振る舞い、運転手と共にその場を後にした。家に辿り着いた俺は玄関前で立ち止まってさっきの女が付いてきてないか辺りを見渡した。
どうやら着いてきて無いようだな。
ホッと胸を撫で下ろした俺は玄関を開けて中に入った。
「ただいまぁ~」
家に入り、おくまの頭を撫でながら茶の間に行くと、はーちゃん、花ちゃん、メリー、お菊さん、くねちゃん、すーちゃん、小さいおじさんが談話をしていた。
「おかり~」
「おう、兄ちゃん!飲み会は楽しかったか!?」
「おかえりなさい、龍星さん!見てくださいっ!くねくねさんがまた言葉を覚えましたよっ!」
「えっ?マジで!?」
俺がくねちゃんの顔を見ると、くねちゃんは恥ずかしそうにして、
「お、お、お……」
分かった。お疲れ様だな?
俺がその言葉を今か今かと待ち構えていると、
「オマエノコドモハアズカッタ」
なんでそこなの!?
どんなリアクションをしたらいいか分からない俺は顔を引き攣らせてはーちゃんに言い放つ。
「はーちゃん、もうちょい別な言葉を教えてあげてよ。誘拐犯じゃん」
「す、すいませんっ!!」
「あっ、わたしはお茶を用意しますね?」
「ありがとう。ほら、おじさん、お土産」
俺は食べ残しのつまみや寿司を小さいおじさんに渡す。花ちゃんは不思議な物を見るようにして、
「おっ!ありがとよっ!」
「おい龍星?これはなんじゃ?」
「居酒屋で食べきれなかった寿司とかだよ?花ちゃんも食べる?」
そう言って寿司を一つ花ちゃんの前に置いた。花ちゃんは目をキラキラさせて、
「おぉー!美味そうじゃのぉっ!」
「昔の寿司とは違うでしょ?」
「うむっ!わしの生きてた頃は高価過ぎて食べれなかったからな!」
花ちゃんはニコニコしながら寿司の生気を吸い取り、口の中でもぐもぐし始める。余程美味かったのか、花ちゃんは幸せそうな顔をしていた。
「おいひいのぉ~ほっぺが落ちそうじゃ!」
「なら良かったよ」
俺はそのまま立ち上がって着替えを始める。着替えながら先程出くわした女の話を始めた。
「そう言えばさぁ、帰ってくる時駅で変な人に絡まれてさぁ」
「へぇ~。どんな人だったの?てかあんたより変な人っていんの?」
「どんなお方だったんですか?」
メリーとはーちゃんが答えると、俺は首を傾げながら続けた。
「なんつーか、マスクしててさ?赤い服着ててさ?」
そう言った途端、はーちゃんとメリーの顔が固まった。
「ちょっと!!それってまさか!?」
「あのお方でしょうか……?」
やっぱりかぁ……。
俺はスマホを取り出し、帰る途中に調べた事をメリーに見せた。お菊さんがまじまじと見詰めて、
「【口裂け女】さん……ですか?」
口裂け女。1978年~79年頃に噂され始め、雑誌やニュースにも目撃情報がのるなど全国的に広まった、1980年代を代表する都市伝説。目撃者によると、赤いコートを着ており、背が高くてその姿はとても美しいが、大きな白いマスクで顔を半分ほど隠している女だという。ルーツは1970年代に〇〇市で精神病女性が夜に外出し、精神に異常を来たしているために口紅を顔の下半分に塗りたくり、それを見た人が驚いたという話や、心霊スポットのトンネルで精神病の女性が徘徊して子供を脅かしていたという話が元になったという。
「やっぱりアイツ、口裂け女だったのかなぁ?」
俺が腑に落ちない様な顔をしていると、メリーが話し出す。
「もし本人だったら「私、綺麗?」って言ってたんじゃないの?」
「言ってた言ってた」
「本人じゃん!あーあ、龍星も口裂け女に目をつけられたわね」
メリーは頭を抱えながら俺に言ってくる。俺はゴクリと生唾を飲み込んでメリーに尋ねた。
「そんなにヤバい奴なの?」
「かなり厄介よ?あんた、口裂け女になんて言ったの?まさか、可愛くないとか、好みじゃないとか言ったんじゃないでしょうね?」
「あー、タクシー逃しちゃうって言って無視した」
「…………っえ?」
メリーの目が点になった。その話を聞いていたはーちゃんが、
「答えなかったんですね。これはまだ運が良かったんじゃないですか?」
「えっ?はーちゃん、そうなの?」
はーちゃんの方を向くと、はーちゃんは答え始めた。
「口裂け女さんに出くわしたら、まず言ってはいけないのが「綺麗じゃない」と否定的な答えをした時です」
「初対面で綺麗じゃないって言うほど俺は腐ってない!ってかもし、綺麗じゃないって言ってたらどうなるの?」
俺がはーちゃんに聞くと、はーちゃんは言いずらそうにして、
「え、えっとですね…………ハサミで殺されるか、食い殺されるかどちらかかと……」
やべぇ奴じゃん。
「えぇ……まぁ、俺も小学校の頃に聞いた事ある厄介だからなぁ……って事は、べっこうあめが好きなんだよな?」
「私もそう聞いた事がありますね。口裂け女さんはべっこうあめが大好きって聞いた事があります」
ふむふむ……べっこうあめか……。
俺は閃いて、物凄い勢いで台所に走った。そのまま戸棚をいじくり始めた。
「えーっと、砂糖砂糖」
砂糖を取り出し、大量の水を用意した。すーちゃんが何をするのか隙間から覗いて声を掛けて来た。
「何?何をするの?」
「何って、べっこうあめを作るんだよ」
「逃げて来たんでしょ?なら放っておいてもいいんじゃないの?」
「まぁまぁ、伝説の都市伝説と会えたんだ、逃げるだけじゃねぇ?」
俺はいやらしくニヤニヤしてべっこうあめを作り始めた。
一時間後。
完成したべっこうあめを片手に、俺ははーちゃん達の前に現れた。
「出来たぞっ!」
「あっ、もう出来たんで────」
はーちゃんが目にした瞬間、顔を真っ赤にさせて両目を手で隠した。
「な、なんてものを作っているんですか!?」
「サイテー」
「な、なんてものを作ったんじゃお前は…………」
「なに恥ずかしがってんだよ。これはべっこうあめなの!これで口裂け女をギャフンと言わしてやるぜっ!」
翌日。
────次の晩、俺は再び口裂け女に会う為に昨日の場所を訪れた。俺は昨日開発したべっこうあめを隠しながら口裂け女を探していると、
「ねぇ?私、綺麗?」
来たっ!!
俺はバッと振り向くと、そこには昨日出会した口裂け女が立っていた。口裂け女も俺の顔を見た途端、指を指した。
「あっ!あんたは昨日の!?」
「よぉ?口裂け女、会いたかったぜ」
そう言いながらポケットをゴソゴソと触っていると、
「あら?嬉しい事を言ってくれるわね。そう言うトレンディな男嫌いじゃないわ」
「そう言ってくれて嬉しいねぇ。あんたにべっこうあめを作って来たんだよ」
そう言った途端、口裂け女の目がキラキラと輝き出した。
「べっこうあめ!?あるの!?あるなら見逃してあげ───」
口裂け女がモノを見た瞬間はーちゃんと同様に顔を真っ赤にさせて、
「な!?、そ!?な、ん!?」
「何ってべっこうあめだよ?」
「私の知ってるべっこうあめの形してないんですけど!?」
「それはそうだよ。これは俺が開発した子宝飴バージョンだよ」
子宝飴とは、子授けや縁結び、現在ではエイズ除けの祭りとしても有名で外国人観光客も多数訪れていた。 祭りの参拝客に人気で飛ぶように売れるのが男根の形をした飴が「子宝飴」だ。その他には、「かなまら様」という"性と鍛冶屋の神"があり、祭りは江戸時代、飯盛女たちが性病除けや商売繁盛の願掛けを行ったことに由来する。 かなまら様は「性と鍛冶屋の神」。 商売繁盛・子孫繁栄(子授け)・安産・縁結び・夫婦和合のご利益があるとされ、近年では、エイズ除けの祭りとして国際的にも話題となっている。
「とってもご利益があるんだよ?さっ口紅を拭いてこれを咥えろ」
俺が子宝飴(べっこうあめver)を片手に近付くと、口裂け女は。
「そ、それは勘弁してくれる!?」
「好き嫌いしちゃいけません!!」
「そうだけど!そうだけどもね!?形よ形!!形の問題よっ!」
「お前その地の人たちを侮辱すんのか?」
「い、いや……そうじゃないけど…………」
「じゃあ黙って咥えろよ」
「その言い方やめなさいよっ!」
口裂け女は意を決して、子宝飴(べっこうあめver)を口に咥えようとした。
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