私、綺麗?

 俺は裸足でカシマレイコこと、カッシーに脱ぎたての靴下を両手に持って追い詰めると、

 

「やめないかバカもの」

 

 婦長の靴で叩かれた。靴のカカトが頭にジャストミートした為、俺はその場で蹲った。

 

「おおお……?」

「大の男が女に靴下を押し付けるなんて何を考えているんだ?」

「だ、だって足刈り取られたくないもん!」

「もう刈り取らないからっ!臭いからその靴下履けっ!」

 

 カッシーは涙目になりながら俺に懇願する。

 

 刈り取らないのかぁ……。

 

 俺は渋々靴下を履き始めた。婦長とカッシーは俺の顔を見て、

 

「何故残念そうな顔をしているんだ?」

「そんな残念に思われても困るんだけど?どんだけ靴下あげたいのよ」

「だって足刈り取られちゃう」

「だからやらないって言ってんじゃん!」

「そういいながらも人の足を見つめないでくださーい」

 

 すね毛ボーボーの足を擦りながらカッシーに言うと、

 

「んな汚ったない足いらないわよ!」

「少しは手入れをしたらどうだ?」

 

 2人の幽霊に言われた俺は顔をクワッとさせながら、

 

「バカヤロウッ!!すね毛は男のステータスなんだよ!男らしさが見られる所なんだぞ!バカヤロウッ!」

 

 すね毛をむしって婦長とカッシーに投げ付けた。

 

「わ、悪かった。だからすね毛をむしって投げてくるな」

「ご、ごめん。そんなに怒らなくても……」

「バカヤロウッ!!」

「分かったわよ!悪かったってば!」

 

 そして、朝が来た。何事も無かったかのように俺は定時を迎えると、部長が出勤して来た。

 

「おはよう、福島くん。夜勤ご苦労さま」

「おはようございます」

「どうだい?エレベーターの心霊現象は続いてる?」

「あー、アレはもう問題ありませんよ。ここの病院の幽霊達はこれから大人しくなると思います」

 

 俺がそう言うと、部長がパァっと明るくなり、

 

「本当かいっ!?凄いねキミ」

「いえいえ、ちょっと話ただけですから」

「けど凄いよっ!よし、今日飲みに行こうっ!」

 

 は?

 

 俺は眠そうな顔をしながら応えた。

 

「いや、休ませてくださいよ。2連チャンの夜勤ですよ?」

「そうだけど!そうだけども!せめてお礼させてくれよっ!」

「今度にしませんか?」

「どんだけ行きたくないの!?なんなの!?近頃の若者は!?」

「部長、それパワプロっすよ?」

「パワハラだろ!?野球なんかしないよっ!中年のオッサンが仕事終わりに「福島くん。野球しよーぜ!」なんて言わないだろ!?」

 

 言ったら言ったで気持ち悪いけどね?

 

 あまりにも部長が言ってくるので俺は半ば折れた感じに。

 

「わかりました、わかりましたよ。今日の夕方ですよね?」

「うん!。んじゃ、駅前に集合で良いかな?」

「はーい。行けたら行きますね」

「行く気ないでしょ!?それ!?ねぇ?嫌い?部長の事嫌い!?」

「行きます行きます。けど、車どうしましょ?」

 

 ようやく話がまとまり、帰りの事を部長に聞くと。

 

「明日の朝先輩家まで向かわせるから。それに乗って車を取りに行くといいよ」

「あー、わかりました。では夕方」

「うん。財布は持って来なくて良いからね!こっちが負担するから」

「はーい。お疲れ様でしたー」

「はーい。お疲れ様〜」

 

 数時間後。

 

 俺は約束通りに駅前で待っていると、部長がやって来た。

 

「遅れてごめんね!んじゃ、行こっか」

「はーい。今日はご馳走になりまーす」

 

 俺と部長は夜の街に繰り出し、場末の居酒屋で歓迎会をしてくれた。部長は婦長とカッシーの悩みから解放されたのが嬉しかったのか、湯水のように酒をガンガン飲みまくっていた。あれよあれよと閉店時間になり、俺は酔い潰れてテーブルに突っ伏している部長を起こし始めた。

 

「部長、部長〜?そろそろ帰りますよ?」

「うほっ?うん、そりょそりょ帰る」

「代行来ましたよ。乗って下さい」

「はーい。のりまーしゅ」

 

 俺は部長を代行タクシーに押し込み、部長を見送った。料金は前もって支払っている為、俺はそのまま駅に行ってタクシーで帰ろうと思い駅に向かって歩き出した。ほろ酔い気分で歩いていると、タクシー乗り場に背が高く、赤い服を身に付け、顔には今の日本には欠かせないマスクに覆われており、白く透き通るような肌をした若い女性が立っていた。

 

 こんな時間に女1人か?マスクしててわかんねぇな。けど、マスクしてても分かるぞ?めっちゃ美人じゃない?

 

 そう思いながら、マスクの女性の前を通り過ぎようとしたその時。

 

「ねぇ?そこのあなた?」

 

 マスクの女性に呼び止められた。俺は店を出る前に着けたマスクをぐいっと直しながら振り返った。

 

「はい?俺になんの用ですか?」

 

 ほろ酔い気分の俺はマスクの女性に答えると、マスクの女性はこう言って来た。

 

「私、綺麗?」

 

 知らねぇよ。

 

 初対面の人間に何を聞いて来るのかと思った俺は、

 

「いや〜、すいません。ちょっとわかんないっすね」

「あっ……えっ?わかんない?」

 

 マスクの女性は予想してなかったのか、俺の答えに狼狽え始めた。だが、マスクの女性は気を取り直して、

 

「ねぇ?しっかりよく見て?私、綺麗?」

「え〜?どれどれ?」

 

 俺はソーシャルディスタンスを守りながらマスクの女性に少し近付いて、

 

「あー、色白の美肌で綺麗だと思いますよ?」

 

 俺はうんうんと頷きながら答えると、

 

「これでも綺麗?」

 

 マスクの女性は……マスクを外して姿を見せて来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る