カシマレイコ

 それからというもの、朝8時になり俺が夜勤の日誌を記入していると、警備部長が出勤して来た。

 

「おはよう〜。福島くん、大丈夫?」

「あっ、おはようございます部長」

 

 警備部長がタイムカードを押しながら俺に昨晩の事を聞いてきた。

 

「初めての夜勤はどうだった?怖かったでしょ?」

 

 警備部長は俺が怖がってるのを予想していたのか、ニヤニヤしながら俺に聞いて来た。だが、俺はケロッとした顔をして。

 

「いえ、特に異常はありませんでしたよ?」

「そうか、そうか、何事も無くて…………良くないよ!」

「えっ?なんでですか?」

 

 俺が首を傾げると、警備部長は悔しそうに騒ぎ出す。

 

「なんで君が夜勤の日に限って何も起こらないの!?ここは普通ゲッソリしながら「怖かったですぅぅぅ」って言う所でしょ!?」

 

 あっ、アッチ系の話しね。

 

「そっち系の話しでしたら看護師の幽霊を見ましたよ?」

「ねぇ?なんで面白いYouTub〇を見た軽い感じで言っちゃうの!?もうちょい怖がってよ!こっちの面目丸潰れだよ!」

 

 そんなこと言ったって仕方ないじゃないか……。

 

 荒ぶる警備部長をよそに、俺は昨晩あった出来事を警備部長に話し始める。

 

「あの幽霊婦長だったの!?」

「ええ、ベージュパンツでとてもババ臭かったですよ」

「いや、しれっと下ネタ挟まないでくれる!?福島くん怖いよ!幽霊の胸を揉んで、挙げ句にパンツまで見たんだよ!?幽霊より君の方がよっぽど怖いよ!」

「それでなんですけど、部長達を困らせてたのは婦長だったんですね。けど、婦長も話が分かる人だったんで悪い幽霊ではありませんでしたよ?」

 

 俺が婦長の事を話すと、部長は何故か首を傾げた。

 

「それはおかしいな、他にもいなかったかい?」

「えっ?どういう事ですか?まだ他にもいるっていうんじゃ?」

「看護師の幽霊は確かに怖かったけど、他に見なかったの?」

 

 えっ?どゆこと?

 

「待ってください、他にもいるんですか!?」

「いるはずだよ!エレベーターとか調べてくれた?」

「いえ、霊安室から電話がかかって来たのでそっちを調べてましたよ。そしたら霊安室に婦長がいたって話なんですが?」

「いるんだよ!エレベーターに乗ってどこからともなく!」

 

 エレベーターか……。そういえば上に行ったり来たりしてたけど、メンテナンスで動いてるだけかと思ったな……。

 

 俺が思い出していると、突然、警備室の電話が鳴り出した。部長はビクッとびっくりしながら受話器をとった。

 

「おはようございます。警備室の警備部長です………。あ、佐藤くんか、どうしたんだい?」

 

 どうやら電話の相手は先輩の様だ。どうしたんだろうか?

 

 警備部長の顔はみるみる険しくなり、遂には俺の顔をチラチラ見るようにしながら対応をしていた。

 

「…………うん、うん、それで?大丈夫なの?そっか、わかった」

 

 ガチャっと受話器を置いた部長は、俺の顔を申し訳なさそうに見つめて口を開いた。

 

「福島くん、申し訳ないんだけど今日も夜勤お願い出来ないかな?」

 

 何言ってんのこの人。

 

「えっ!?今日もですか!?」

「ごめんね〜、今日夜勤の佐藤くん体調崩しちゃった見たいでさ〜」

「えぇ〜…………今回だけですからね?次は勘弁して下さいよ?」

「うん。特別手当出すからさ、後はやっておくから」

「はーい。お疲れ様でした〜」

 

 俺は仕方なく着替えなどをする為に、一度家に戻って行った。

 

 ─────────────────────

 

 家に戻り、玄関に入るとパタパタと忙しそうにお菊が家の掃除をしていた。

 

「おはよう、そしてただいま。お菊さん」

「あっ、おかえりなさいませ!」

「メリー達は?まだ寝てるの?」

「ええ、ですがもうそろ───」

 

 ドタドタドタ!

 

 突然二階から激しい音を立てながら、はーちゃん、花ちゃん、メリー、くねくねが階段を降りて来た。

 

「おかえりなさい、龍星さん」

「お勤めご苦労だったな!」

「おかりー。龍星龍星、くねくねに声をかけてみて!」

 

 降りてくるや否やメリーはくねくねを俺の前に連れて来た。くねくねは恥ずかしそうにして。

 

「お、おは、よう、う」

 

 マジか!?

 

 俺は嬉しくなって喋れたくねくねの頭を優しく撫で回した。くねくねは照れくさそうにして顔を下に向ける。

 

「すごくない?あたしが必死に教えたんだからね!」

「わしや八尺では厳しくてな?メリーが教えるようになった途端、ものすごい進歩じゃったぞ?」

 

 メリーって面倒見がいいんだな。

 

「なによ、ちょっと喋れたくらいでワーキャー騒いじゃってさ!」

 

 皆で喜んでる中、水を差して来た。俺はタンスの隙間に目をやると、隙間女が恨めしそうにこちらを見ていた。

 

「なんで、そんな事いうんだよ。隙間から出て来ねぇ引きこもりが」

「誰が引きこもりよっ!私は隙間女!!」

「ってケンカしてる場合じゃ無かった。早く風呂に入らなきゃ」

「話聞いてんの!?」

 

 俺は慌ただしく着替えを持って風呂場に行くと、メリーが後ろから着いてきた。

 

「あんた何をそんなに慌ててんのよ。仕事終わったんだからのんびりすればいいでしょ?」

「いや〜実はそうも言ってられないんだよ。今日も夜勤になっちゃってさぁ」

 

 シャツを脱ぎながらメリーに言うと、

 

「えっ?んじゃ夕方にはまた仕事に行くって事?」

「そうなんだよ。今日夜勤の人体調崩しちゃったみたいでね」

「なんなのその職場!?あたしらが乗り込んであげようか?」

 

 メリーが顔を引き攣らせながら言うと、俺はパンツを脱ぎながら言った。

 

「まぁ下っ端だから仕方ないよ。だから今日の夜も仲良くしててよ?」

 

 俺は腰を横にフリフリしながら言うと、メリーが顔を真っ赤にさせて。

 

「下丸見えなんだけど!?」

 

 ─────数時間後、俺は再び出勤した。

 

「お疲れ様でーす」

 

 俺がタイムカードを押していると、警備部長がやって来た。

 

「連続で夜勤ごめんねぇ、本部に問い合わせしたら特別手当出してくれるってさ!」

「いや出してもらわないと困りますよ。労働基準法クソ喰らえじゃないすか」

「そうだよね。まぁ、もう1人の幽霊をなんとかすれば人も増えるだろうからさ、もう少し頑張ってくれ」

 

 他人事見てぇにいいやがったな。

 

 それから俺は引き継ぎを終わらせて、夜間の巡回を始めた。俺は今朝の話を思い出し、エレベーターに入って様子を伺った。

 

「特に変わった様子はないな、部長の幻覚だったんじゃねぇか?」

「そうでもないと思うよ?あっ、何階?」

「あっ、ごめんなさい。2階に…………えっ?」

 

 誰も居ないはずの空間から女の子の声が聞こえて来た。俺が後ろを振り向くと、そこには頭にドクロの飾りを付け、メリーのようにフランス人形のようなフリフリした服装をして、青紫色の髪の女が包丁を持って立っていた。

 

「なんだチミは!?」

「な、なんだチミって私、【カシマレイコ】って言うの」

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