ベージュのパンツ

 俺の前には、はーちゃんやくねちゃんには及ばないものの、眼鏡をかけていて肉付きが良く、街を歩いていたら振り向いてしまうような体をしていた。ゆったりとした白衣に首には聴診器がぶら下がっていた。

 

 こいつがおそらく警備部長達を悩ませている張本人の様だ。

 

 俺は全身舐めまわしながら見つめていると、

 

「おい、私の顔に何か付いてるのか?それとも、怖くて声が出ないか?」

 

 看護師の幽霊はクスクスと笑う。俺は両手をズボンで手汗を拭って、その看護師の幽霊の豊かな胸をわし掴んだ。そして、そのまま無言で揉みしだく。

 

「おっ、おい!?」

「……………」

 

 俺はパニックを起こした看護師の幽霊と見つめ合った。このパフパフ出来そうな胸を揉み続けながら。と、突然俺の手が看護師の幽霊によって振り払われる。

 

「き、貴様!?な、何をする!?何をしているんだ!?」

 

 パニックになりながら、看護師の幽霊は騒ぎ出した。俺は片手で口元に指を当てた。

 

「しーっ。今深夜だから静かにしてくれる?」

「深夜だからどうした!?、だからなんだ!?貴様、自分が何をしているのか分かっているのか!?というか、何故私の胸を揉んだ!?」

「何故って?それはそこに胸があるからさ!おっぱいはみんな好きだろう?」

 

 俺が勝ち誇った顔をして胸を揉みながら答えると、再び振り払われる。

 

「だから触るなと言っているだろ!?なんなんだ貴様は!?」

「新人の警備員です」

「それは見れば分かる!何故私に触れられるのかと聞いている!」

 

 看護師の幽霊は顔を真っ赤にしながら胸を守ろうと必死に防御する。俺は一歩下がって45度に体を傾けて一礼し、自己紹介を始めた。

 

「俺の名前は福島龍星と申します。今日が初出勤です」

「そ、そうか。龍星と言うのだな」

「何故触れられるのか今から話そうか?」

「ふむ、興味があるな」

 

 俺と看護師の幽霊は落ち着きを取り戻し、霊安室で話を始めた。彼女はこの病院が建設される前にあった病院に務めていたらしく、婦長に就任したが、勤務中に階段で足を滑らせてしまい、事故死してしまったそうだ。

 

「へぇ、だからちょっと古いデザインのナース服だったのか」

「そうだ。私は婦長、死んでしまったが病院が気になってしまってな、こうして夜な夜な徘徊して見回りをしていたのだ」

「仕事熱心なのは分かるけどさ?婦長、生きてる人間が怖がってるんだけど?あんたのせいで初出勤が夜勤になってるんですけど?」

「そ、それは済まなかった。だが、コレには訳があるんだ。患者の様子がおかしいのを教えたかったのだが、他の奴らは私が見えない様でな?あの手この手で知らせようとしたが、どいつもこいつも臆病者揃いでな」

 

 なるほど、無言電話や監視カメラに写った理由はそれだったのか。なら害は無さそうだな。

 

「ここの看護師の方々は気付いてくれないのか?」

 

 俺がそう尋ねると、婦長はため息を吐きながら言う。

 

「気付く者もいるが慣れたのか私を無視する様になってな?小娘共め、「また居るんだけど?」などと言って私を相手にしないのだ」

 

 ここの看護師さん、根性あるな。

 

 俺は腕時計で時間を確認すると、深夜3時になっていた。

 

「おっと、休憩の時間だ」

「もうそんな時間なのか?なら私も休憩に入ろう」

 

 幽霊でも休憩すんのかよ。

 

 休憩に入るために俺は婦長と別れて警備室に戻り、ドアに【休憩中】という札をぶら下げて仮眠室に入った。俺は休憩用のベットに横になり大きな口を開けてあくびをしながら天井を見上げると、

 

「おい」

「──────っ!?」

 

 先程別れた筈の婦長が、腕を組んで仁王立ちをしながら俺の頭の上に立っていた。

 

「ここは私の休憩場所だ!今すぐ出ていけっ!」

「…………」

「今は貴様ら人間の仮眠室になっているが、ここは元々我々看護師の休憩室だ。どうしても出て行かないと言うなら、そこのソファーに寝るか、床に寝ろ」

「…………」

 

 俺が黙って見上げていると、

 

「何を黙っている?今更驚いているのか?」

「婦長」

「なんだ?」

「ベージュなんですね。意外とババくさ」

 

 ドンッ!

 

 そう言った瞬間、婦長は俺の顔面を踏み付けた。俺は余りの激痛にゴロゴロ転がって悶絶していると、婦長にベットを奪われてしまった。

 

「ふんっ、変態め。さて、先に少し休ませて貰うよ」

 

 コイツッ!

 

 婦長が目を瞑って休んでいる途中、俺は声をかけた。

 

「婦長、婦長」

「なんだ?騒がしい」

「婦長って幽霊じゃないすか。なんで仮眠とる必要あるんですか?」

「幽霊になっても人間の心は忘れた訳じゃない。こうして少しでも生前だった人間らしい事をしたいだけだ」

「ふーん、そうなんすか」

 

 そんな事を話していると、婦長は閉じていた瞼を片方だけ開き……。

 

「おい、貴様なんで隣に寝ている?」

 

 あっ、怒ってる。

 

「いや、なんでって言われても、ここに居るのは俺だけですし?あっ、ベットが狭くても俺は気にせませんから」

「気にする!私がに気にする!、さっき言ったのを聞いてなかったのか?ここは私の休憩場所なんだ!だから貴様は他のところへ行けと言ったはずだぞ!?強制わいせつ罪で捕まりたいのか!?」

「幽霊がどうやって被害届出すんすか?バカなんすか?」

「なんだと貴様ぁっ!!」

 

 婦長は起き上がって俺の首を絞め始める。だが俺は負けずに婦長の服を掴んで一気に引きちぎってボタンを弾け飛ばした。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

「こんな狭い空間で騒ぐんじゃりません。婦長、上もベージュなんですね。もうちょいセクシーな方が似合ってますよ」

「分かった!私が悪かった!私がソファーで休むから私に触れないでくれ!」

 

 婦長は今にも泣きそうな声を出しながら身なりを整えながらソファーに向かって行った。

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