田園にいる白いヤツ

 鬼の形相になっている幽霊達を見た俺は声を掛けた。

 

「なにやってんの?こんな所で?」

 

 俺がそう言うと、メリーがゴミを見る様な目をしながら。

 

「あんたがなかなか帰って来ないから探しに来たのよ。あんたの車が見えたから近付いたら【ヤマノケ】が近付いて来てたから追い払ったの」

 

 ヤマノケ?

 

「さっきの変なのはヤマノケっていうの?」

 

 俺が首を傾げながら話すと、はーちゃんがホッと胸をなで下ろした。

 

「危なかったですね。あそこまで姿を歪ませてる妖怪はもう人間の心はもうありません。何をされるか分かりませんよ?」

「まったく、気を付けるんじゃぞ?世の中わしらの様に話が通じる幽霊だけじゃないのだからな?」

 

 なるほど、幽霊や妖怪にも良い奴と悪い奴がいるのか。気をつけなければ。

 

 俺は車に近付いておくまの頭を撫でるとおくまは安心した様な顔をした。

 

 そして……。

 

「で?誰、この幽霊?」

「そうですね。あの〜?どちら様でしょうか?」

「龍星が連れ去る度胸はないとも言いきれないがお主、何者じゃ?」

「ご主人様と似てる服装をしてますね」

 

 はーちゃん達は俺の車を囲う様に付いてきた幽霊に窓越しから声を掛けた。幽霊ははーちゃん達が怖いのか、ガタガタと震えて怯えていた。

 

「こら!やめろ!弱いものいじめは良くないぞ!」

 

 俺の言葉にカチンと来たのか、メリーが食ってかかる。

 

「いじめてないわよ。あんたは誰かと聞いたのよ?」

「そーですよ!私達は尋ねただけですよ?」

「龍星、この小娘どこから連れて来たのじゃ?しかもこんな林道に連れ込んで何をするつもりだったのじゃ?」

「ご主人様……まさか……また助平な事を……?」

 

 おっと、これはマズイ。

 

「い、いや〜おくまのお土産を買った時からずっと付いてくるんだよ。降りろって言っても聞かなくて」

「なんで目を見て話さないのよ、明らかになんか隠してるでしょ?」

「龍星さん、どうしたんですか?」

「メリー、八尺。こやつに聞くのは止めておけ。この小娘に聞いた方が早そうじゃ」

 

 花ちゃんはそう言って怯えている幽霊に声を掛けた。

 

「わしはトイレの花子というものじゃが、お主、龍星に何かされたか?」

「え、えっと……」

「安心せい。わしらは何もせん」

「はっはい。ならあたしも降りるので」

 

 幽霊がそう言うと、スゥっと車から降りて来た。

 

「すいません、無理を言ってあたしがこの人に付いてきたんです」

「ほう、なるほどの。で?なんでこんな林道に?」

「そ、それが……」

 

 幽霊が事情を話し始めた。

 

 そして、

 

「大丈夫ですからね!私達が守ってあげますからね!」

「最低なんだけど、話を聞くってうまい事言っていやらしい事するなんてクズの中のクズなんだけど!!」

「しねぇっ!!しねぇっ!!」

 

 幽霊が訳を話すと、事情を知ったはーちゃん、お菊、メリーはしくしく泣く幽霊を慰める。おくまは髪の毛を伸ばして俺を拘束し、花ちゃんは俺をトゥーキックで痛め付けた。

 

 花ちゃんの足面積小さいからすんごく刺さった様に痛いっ!

 

「ま、待て!俺にだって言い分はあるんだからな!」

「何?この期に及んでまだ何か言うつもりか?」

「確かにパンツ見せろとは言ったけど、俺は無理やり見た訳でもないし、無理矢理脱がせようとした訳じゃないんだぞ!。俺は追い払いたくて”あえて”ちょっとセクハラ発言したの。で、ドン引きさせるって分かってたんだけどそいつが覚悟を決めた様な顔をして脱ごうとした時にヤマノケが現れたんだよ!!」

 

 おくまに縛られながら俺は必死に訴えた。すると、幽霊達は「あっ」という感じに幽霊から離れた。

 

「確かに、幽霊なら鍵を閉めても無駄。なぜ逃げなかったのだ?」

「言われて見ればそうですよね?降りろって言われてるのに降りなかったのは何故ですか?」

「どんだけ話聞いて欲しかったのよ。パンツ見せてまで聞かせる価値あるの?それであんたに何のメリットがあるのよ」

「いえ、メリットは特にないです」

「ただの構ってちゃんじゃない!ほら、とっとと消えなさい!あたしが殺すわよっ!?」

「ひいいっ!!」

 

 メリーは幽霊をしっしっと追い払い始めると、幽霊は慌てて逃げて行った。

 

「あーあ、逃げて行っちゃったじゃ〜ん」

「まったく、世の中変わった幽霊もいたもんじゃな」

「そうですね。龍星さんも気をつけて下さいね?」

「龍星〜、あたしお腹すいた〜。早く帰りましょ〜よ〜」

「そうですね、ご飯は炊いてあるので早く帰りましょう」

「そうだね。帰ろ帰ろ」

 

 ─────────────────────

 

 家にたどり着いた俺達は、夕食の準備を始めた。

 

「ふぅ、まったくあんな幽霊に絡まれたから遅くなっちゃったよ」

「あっ、ご主人様。お野菜は私が切りますから」

「ありがとう。お菊さん」

 

 カレーのルーを溶かしていると、棚の隙間から視線を感じた。

 

「ん?なんだ?」

「ご主人様?如何なされました?」

「いや、今そこの隙間から視線を感じたんだよね」

「え?そこの棚ですか?」

 

 お菊さんは棚の隙間を覗いて見ると……。

 

「何も居ませんよ?」

「え?マジで?」

 

 俺もお菊さんを退かして同じ様に隙間を覗いて見たが、ホコリだけしかなく、特に何もなかった。

 

「おっかしぃな〜」

「気の所為ではありませんか?幽霊でしたらわたしも感じますから」

「う〜ん」

 

 腑に落ちなかったが俺はカレーを作りに戻ると、花ちゃんがやって来た。

 

「カレーライスは出来たのか?」

「もうちょいで出来るよ?」

「辛くしてないだろうな?」

「してないよ。ちゃんと甘口で作りましたよ」

 

 カレーをかき混ぜながら話していると、

 

「そうか。龍星、今回のヤマノケの様な奴にあったら何もするなよ?」

「え?なんで?」

「当たり前じゃ。お主も感じたのだろう?ただならぬ気配を」

「まぁ、確かに感じたけど……」

「その感覚を忘れてはならぬぞ?いいな?」

 

 いつになく花ちゃんは真剣な目付きで俺に言い放つ。

 

 こんな真面目な花ちゃん初めてだな。

 

「分かったよ。さっ、食べよ?」

「出来たか!よし、皿を持って行こう!!」

 

 ─────────────────────

 

 翌朝。新しい職を探す為に俺はハローワークに行く支度をしていた。服を着替えていると、メリーがやって来た。

 

「あれ?龍星、どこ行くの?」

「ハローワークだよ。そろそろ新しい仕事探さないとね」

「そっか、んじゃ留守番してるわね」

「うん。分かった」

 

 支度を整えた俺は車に乗り込み、車を走らせると、突然田園が広がる農道で尿意をもようおした。

 

 くそっ、こんな時に……!!

 

 俺は車を止めて茂みで立ちションをすると、突然生暖かい風が吹いてきた。

 

「こんな朝早くから生暖かい風は勘弁してくれよ……。夏が近いからかな?」

 

 俺はふと、田園の方を向いてみると……白い何かが立っていた。

 

 

「何アレ……案山子?」

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