見えてるんでしょ!?

 突如、交差点のど真ん中で俺は出会い、ぐりんと振り向き言い放った。俺はそのまま前に向き直し、何事も通り過ぎようとしたその時。

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

「はい?なんですか?」

「びっくりするじゃん!ってか何そのまま行こうとしてんのよ!?」

 

 コイツは何を言い出すんだ?

 

 俺は点滅する信号を見て慌てて渡ると、幽霊は追いかけて来た。

 

「だから待ちなさいよっ!あたしの事見えてるんでしょ!?」

「だから見えてますって。んじゃ」

 

 俺はあと10分で閉店してしまうおもちゃ屋に入ろうとすると、幽霊に腕を掴まれた。

 

「ちょっとあんた!どこ行くのよっ!?」

「何って、同居人のお土産を買いに……ってか話かけないで貰えます?他の人には見えてないですよ?俺が不審者扱いされたらどうするんですか?責任とれるんですか?」

「えっ……あっ、ごめん……」

 

 幽霊は素に戻ったのか、力を緩めて腕をはなしてくれたが、

 

「待ってるから」

 

 彼女か。

 

 俺は他の人に見られていないか辺りを確認して中に入った。

 

 ─────────────────────

 

 その後、俺はおくまへのお土産を買って店から出ると、

 

「遅いっ!何時まで待たせるのよっ!?」

 

 なら帰ればいいのに。

 

 俺は幽霊の言葉を無視して自販機でコーヒーを買うと、

 

「ねえ!無視しないで!ねぇっ!ねぇってば!」

 

 しつこい……。

 

 俺は相手にせずに、そのまま歩行者用押しボタンを押して信号を待った。その間ずっと。

 

「あたしね、ここで死んだの。でね?なんで死んだかって言うとね」

 

 急に語り出したし。

 

 早く赤信号にならないかと足をパタパタさせていると幽霊は未だに1人でペラペラと話している。

 

「ねぇちょっと聞いてる!?ねぇ!?聞いてた!?あたしの話し聞いてた!?」

 

 聞いてねぇよ。

 

 そして、ようやく赤信号になり横断歩道を歩き始める。その間、並走しながら俺に、

 

「でね?トラックに轢かれてね?救急車を自分で呼ぼうとしたんだけど」

 

 へー。

 

 駐車場に辿り着いて車に乗り込んでエンジンをかける。だが、幽霊は窓をドンドンと叩く。

 

「開けなさいよっ!ちょっと、ねぇ!?あたしを放っておく気!?」

「えっ?何?バックするから退いて……って幽霊だからいいか」

「ちょっと、窓開けなさいよっ!聞こえてないの!?あちょ、バックしないで!!」

 

 ブーン。

 

 俺は何食わぬ顔で車を発進させた。

 

「あーウザかったー。ったく、世の中あんな幽霊もいるんだなぁ。珍しく絡みたくないタイプの幽霊だったわ」

 

 そして、家まであと10分近くまで来た所で赤信号につかまった。車を一時停止させてふと、バックミラーを覗いてみると、

 

「なんで置いていくのよぉっ!!」

「うおっぉ!?」

 

 プッ!

 

 びっくりした拍子にクラクションを鳴らしちゃった。

 

 ぶっ!

 

 オナラも出ちゃった。

 

「くさっ!ちょっとあんたオナラした!?くさっ!」

「なんで乗ってんだよ!、ちょお前降りろ!」

「嫌よ!ほら、青になったから進みなさいよ!」

 

 幽霊は後ろから運転席をバンバンと叩き、急かし始めた。俺は泣く泣く車を発進させ、家に向かう。

 

「で、さっきの続きなんだけど」

「まだ言うの!?別にいいよ、話さなくて」

「なんでよ!?聞きなさいよっ!見えてるんでしょ!?」

「だから見えてるからなんだって言うんだよ!!」

「見えてるからよ!だから話を聞いて!」

「何その理不尽、知らねぇよ!とっとと降りろ!そんでどっか行っちまえ!」

「幽霊をこんな暗い夜道に置き去りにする気!?」

「幽霊の癖になに何怖がってんだよバカ」

 

 運転しながらバックミラーをチラチラと見た俺は幽霊に言い放つと、

 

「誘拐されたらどうすんのよ!!あんたこそバカじゃないの!?」

「どこの誰が幽霊を誘拐すんだよ、見た途端高確率で逃げるわ!」

「うるさいわよっ!いいから話聞きなさいよっ!」

「だから聞きたくねぇって言ってんだろ!?」

 

 そう言うと。

 

「うわぁぁぁぁん!話し聞いてくれなぁぁい!」

 

 幽霊は突然泣き始め、情に訴えて来た。

 

 今度は泣き落としか。

 

 運転しながら俺はふと閃き、ウィンカーを点けて車を止めた。

 

「わかった、話を聞けば降りてくれるんだな?」

 

 半ば根負けした俺が幽霊にそう尋ねると、幽霊はパァッと明るくなる。

 

「ホント?ホントに聞いてくれる?」

「聞くけど、俺のお願いも聞いてくれる?」

「え?いいけど?」

 

 おっ!?マジか!?

 

 俺は精一杯イケメンの顔をして、

 

「パンツ、見せてくれないかな?」

 

 それを聞いた幽霊は勿論。

 

「はぁ!?何言ってんの!?警察に通報するわよ!?」

「幽霊がどうやって通報するんだ?」

「そっ、それは……」

 

 そう、例えコイツが警察に駆け込んでも見える人間はいない。だから罪にも問われない。

 

「どうする?でなきゃ話し聞かないからな」

「わ、分かったわよ……ここは嫌だからそこの林道に入って」

「そう来なくっちゃ!ぐふふふふ」

 

 俺は家まで数百メートル手前の林道に入り、ライトを消してエンジンを止めた。月明かりに照らされた幽霊は少し色っぽく見えた。

 

「んじゃ、お願いします」

「す、少しだけだからね!?なんで見せなきゃないのよ……」

 

 そうブツブツつぶやきながら幽霊がズボンを脱ごうとしたその時。

 

「テン……ソウ……メツ……」

 

 微かな声が聞こえて来た。

 

「なんか言った?」

「え?あたし何も言ってないよ?」

 

 幽霊がそう言うと、俺はおもむろにライトを点けて見た。

 

「なんだアレ……」

「えっ?」

 

 幽霊も俺と同じ方向を向くと、道の先から明らかに人ではない得体の知れない物がピョンピョン跳ねながら近付いて来るのが見えた。それを見た途端、俺はゾッと青ざめる。

 

 アレはダメだ。

 

 頭の中でそう確信した。俺は直ぐに幽霊に言い放つ。

 

「逃げろ」

「え?なんで?アイツも幽霊か何かでしょ?」

「アイツはダメだ!かなりやべぇっ!!早く逃げろっ!取り込まれるぞ!?」

 

 俺の必死な言葉にようやく事の重大さに気付いた幽霊は、

 

「だ、ダメ、体が動かないっ!!」

「何!?アイツがやったのか……」

 

 意を決して俺は車から降りて得体の知れない奴に近付く。

 

 多分殺されるだろうなぁ……。

 

 死を覚悟したその瞬間、得体の知れない物はぐるっと振り返り、来た道を戻って行った。

 

 あれ?戻っていく……まぁいいや、帰ろ。

 

 俺が振り向いた瞬間、車の上に、はーちゃん、メリー、お菊、おくま、花ちゃんが鬼の様な顔をしながら立っていた。

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