メリーさんからの電話

 非通知で小さい女の子の様な声がスマホから聞こえて来た。俺はイタズラ電話と思い込み、話を続けた。

 

「メリーさん?はい?イタズラですか?」

 

《あたし、メリーさん。今、ゴミ捨て場にいるの》

 

 ゴミ捨て場?

 

 俺は首を傾げながら窓を眺めると、ここから数100メートル先にあるゴミ捨て場が思い付いた。俺は相手にこんな事を聞いて見た。

 

「あっ、近くにタバコ屋ありますか?」

 

 そう言うとメリーさんと名乗った人物は、少し無言になると。相手はこう答えた。

 

《えっ、えーっと……あるよ?》

 

「あっそうなんだ。んじゃ」

 

《あっ、ちょっ───》

 

 俺は一方的に通話を切り、スマホをテーブルに置いた。すると、今のやり取りを見ていた八尺様は不思議な光景を見たように見つめていた。

 

「あの〜?今のは誰だったんですか?龍星さんのお友達ですか?」

「いや、知らない人だった。多分イタズラだと思う」

「イタズラ……ですか?」

「うん。けど……またかかってくると思うよ?本物の【メリーさん】だったらね」

「メリーさん?誰ですか?それは?」

 

 八尺様は首を傾げると、俺はスマホを手に取ってネットでメリーさんを検索した。

 

 メリーさんとは……ある少女が引越しの際、古くなった外国製の人形、「メリー」を捨てていく。その夜、少女に電話がかかってくる。「あたしメリーさん。今ゴミ捨て場にいるの…」少女が恐ろしくなって電話を切ってもすぐまたかかってくる。「あたしメリーさん。今タバコ屋さんの角にいるの…」そしてついに「あたしメリーさん。今あなたの家の前にいるの」という電話がある。怖くなった少女は思い切って玄関のドアを開けたが、誰もいない。やはり誰かのいたずらかとホッと胸を撫で下ろした直後、またもや電話が…「あたしメリーさん。今 あなたの後ろにいるの」と言う怪談都市伝説がある。

 

 八尺様は顔を青ざめながらガタガタ震えだした。

 

「うわぁ……怖いですねぇ」

「まぁ、ホントにあのメリーさんなのかは分からないけどね?」

「もし本人だったらどーするんですか!?龍星さん殺されちゃいますよ!?」

「大丈夫大丈夫。実ははーちゃんと出会う前に暇つぶしメリーさんの事は事前に考えて置いたんだ」

「そうなんですか?それで、どーするんですか?」

 

 メリーさんは電話で脅かして、最後にここへやって来る。なら……『ここに来たくない』様にしてやればいい事だ。

 

「まぁ、見てれば分かるよ」

「はぁ……」

 

 そう八尺様に言うと、早速また非通知で電話が掛かってきた。俺はコホンと咳払いをして、電話に出た。

 

「もしもーし」

 

《もしもし……あたし、メリーさん》

 

「あんた、ホントにメリーさんなのか?」

 

 俺は疑り深くメリーさんと名乗った相手に尋ねると、相手は答えた。

 

《そっそうだけど……なんでそんな事を聞くの?》

 

「もし本人なら色々教えてくれよ。あんたの事は小さい頃から気になってる事があるんだよ」

 

《なっなに……?》

 

「メリーさんって何歳なの?」

 

《えっ……えーっと……わかんない……》

 

「わかんないじゃないでしょ?、こっちは真剣なんだよ!」

 

 クワッと顔をしかめながら俺は強くメリーさんに言い放つと、メリーさんは困った様な感じで答えた。

 

《え……子供ではないかなぁ……?》

 

「ホントだな!?なら”大人の女性”として扱うからな?いいな!?」

 

《うっうん……》

 

「それで?今どこにいるんだよ?」

 

 まだ俺の家までは離れてるし、ちょっとからかってやろう……。

 

《え?今、タバコ屋さんの角にいるけど……?》

 

「あーならさ、タバコ買ってきてくれる?マルボ○のメンソールな?」

 

 俺がメリーさんにタバコのお使いを頼むと、メリーさんは上擦った声で言い返して来た。

 

《マル……なに?、えっ、あたしが買うの!?》

 

「近くにタバコ屋さんそこにしかないんだよ。出るのめんどーだからさ、ついでにここに来るなら買ってきてくれるかな?んじゃ、頼んだよ〜」

 

 ポチ

 

 俺はそう言い放ち、また電話を切った。

 

「さて、少しは時間は稼げるだろう。ねぇ?はーちゃんさ、もし、メリーさんがここに来たら俺を守ってくれる?メリーさんなんか強そうだし」

「わっ、私が戦うんですか!?」

「だって、はーちゃん強そうじゃん?町の人達が恐れてたくらいだし」


 八尺様にそう言うと、何故かやる気になって迎え撃つ体制を取り始めた。

 

「わかりました!もし、万が一があれば龍星さんは私が守ります!頑張りますよ!」

「よしっ!頼りにしてるぞ!はーちゃん!」

「はいっ!」

 

 作戦を立てていると、またまた電話が掛かってきた。俺はだんだん楽しくなりだし、完全にふざける事にした。

 

《もしもし……あたし、メリーさ──》

 

「もっしぃーーーー!?」

 

《ひゃっ!?》

 

 突然の大声でメリーさんはびっくりしたのか、電話の向こうで可愛らしい悲鳴が聞こえて来た。

 

「タバコ買ってくれた?」

 

《……あたし……お金、持ってないの……》

 

「はぁっ!?ならなんですぐ断らないの!?ねぇ謝って、謝ってよ!お金もってなくてごめんなさいって謝って!」

 

《えっ……あの……お金もってなくてごめんなさい……》

 

「いいよ」

 

 ポチ

 

 俺はまた一方的に通話を切った。何故か八尺様は残念な人を見るような目で俺を見つめていた。すると、今度は直ぐに電話が掛かってきた。

 

 よし、次は家の前になってる筈……なら、そこからゴミ捨て場まで追い返してやろう。

 

 そう企んだ俺は今度は息をハァハァさせながら通話ボタンを押した。

 

《もしもし……あたし、メリーさん》

 

「ハァハァ…もしもしぃ……」

 

《今……あなたの……家の前にいるの》

 

「ハァハァ……家前まで来ちゃったのぉ?ハァハァ……」

 

 メリーさんも俺の異変に気付いたのか、俺に尋ねて来た。

 

《ねぇ……なんでハァハァしてるの?》

 

「なんでかって?ハァハァ……君を想像しているからだよぉ?」

 

《ひいっ……!?!?》

 

 メリーさんも気持ち悪がったのか、電話の向こうでドン引くような悲鳴が聞こえて来た。そして、俺は畳み掛けるようにこう言い放った。

 

「ねぇ、メリーさん?パンツ何色なの?ハァハァ……」

 

《えっ……えぇ!?》

 

 普通のイタズラ電話ならここで身の危険を感じで通報、そして事案発生。もし、本物のメリーさんだったら慌てて逃げても通報も出来ないし、交番に行ってもお巡りさんには見えない……勝ったな。

 

 すると、メリーさんは予想を覆してこう答えて来た。

 

《……………黒》

 

 答えちゃったよ、本物のメリーさん来ちゃったよ。

 

 メリーさんが逃げて行くと踏んでいたが、予想を覆してきたので急遽作戦変更した。次はこの部屋に入って来てしまうので、奥の手の八尺様を出す事にした。俺は、八尺様に合図を送った。

 

「はーちゃん、外に居るか見てみて」

「あっはい!」

 

 通話しながら八尺様に指示すると、八尺様は玄関のドアをすり抜けて覗いて見た。すると、電話からは八尺様の声ととてつもない声が聞こえて来た。

 

《こんばんは、あなたが、メリーさんですか?》

《ひやぁぁぁ!?おっ、お化けぇぇ!?》

《はい、お化けの八尺と申します。何か御用ですか?》

《あっあの……その………》

 

 チャンス!!

 

「はーちゃん!捕まえて!!」

 

《あっはい、よっと》

《やっ、ちょっ……えっ!?なに、この人おっきい……!?》

《おぽぽぽ……小さくて可愛らしいですねぇ》

《離して!ちょっ……助けて……》

 

 電話からは弱々しく今にも泣きそうな声で助けを求めて来た。勝利を確信した俺はメリーさんに警告を促す。

 

「離してやるから抵抗するなよ?いいか?こっちは八尺様がいるんだ、お前なんかひとひねりなんだからな!」

 

《わっわかりました……》

 

 俺はそうメリーさんと約束して、電話を切ってドアを開けて見てみると……そこには、フランス人形の様な服装をしており、金髪のツインテールの女の子が立っていた。

 

「まぁ、来ちゃったもんは仕方ない。入りなよ」

「うっうん……この人……誰?」

 

 メリーさんは余程怖かったのか、八尺様を見上げながらプルプル震えていた。八尺様はしゃがんで改めて挨拶をした。

 

「初めまして、私は八尺と申します。故あってこの部屋に住むことになりました」

「あっ……はい……初めまして、メリーです」

 

 メリーさんを中に招き入れた俺はとりあえず、八尺様とメリーさんの分のお茶を用意した。

 

「はい、どーぞ。紅茶じゃなくてごめんね」

「あっ……お構いなく……」

「いただきまーす!ようやく一息出来ますねぇ♪」

「それで?何しに来たの?俺ら初対面だよね?」

 

 メリーさんにそう言うと、メリーさんは事情を説明してくれた。メリーさんは元々はただのフランス人形だったのだが、ある日の事、このアパートの部屋、元の部屋の持ち主の女の子が古くなったからと言って捨ててしまったのだと言う……。メリーさんは怨みを晴らす為に、怨念と化してこのアパートに戻って来たという。だが、元の部屋の住人は俺が住む数年前に引っ越しており、居たのは運悪く俺のような男だったという。

 

「まぁ、どんまいとしか言えないな……ズズ……」

「そうですねぇ……可哀想です……ズズ……」

「はい……ズズ……」

 

 重苦しい雰囲気漂う中、俺はメリーさんに提案を切り出した。

 

「なぁ、メリーさん?良かったら俺らと住まない?」

「えぇ!?」

「わぁっ!良いですね!」

 

 八尺様が手をパンと叩いて賛同してくれた。だが、メリーさんは困った様な顔をしていた。

 

「えぇ……けど、あたし……人形の幽霊だし」

「はーちゃんも幽霊だよ? ねぇ?」

「はいっ!」

「こんな元気ハツラツな幽霊見た事ないよ……」

「元の持ち主はもうここにいないんだし、行く宛てないだろ?」

 

 俺はそう言うと、メリーさんは開き直ったのか、大きく頷いた。

 

「わかった……行く宛てないし……あたしもここに住む」

「いいよー、よろしく!俺は福島龍星ってんだ。よろしくな」

「八尺です!よろしくお願い致します!」

「あたしは……メリーさん。メリーって呼んでね」

 

 俺とメリーさん、八尺様は3人で握手を交わした。新たな同居人、メリーさんがこのアパートの部屋に住むことになった。

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