はーちゃん、外に出る
八尺様こと、【はーちゃん】と別れた晩。俺は民宿の部屋で休んでいると、民宿の中が騒がしくなって来ていた。部屋を抜け出して声の方に進んで行くと、客間に数名の老人達が民宿の従業員達と話しをしていた。耳をすまして見ると何やら老人達が怯えていた。
「八尺様の『封印のお地蔵様』が壊されたのはホントか!?」
「まさか……八尺様がまた現れるなんて……」
「この町も終わりだ……八尺様が外に出てしまえば孫もいずれ狙われる!!」
なんだ?随分八尺様は嫌われているみたいだけど……。
俺は食い入るように聞いていると、ふとした瞬間……ガタッと音を立ててしまった。その瞬間、老人達がこぞって俺の顔を見た。その瞬間、民宿のおかみさんは慌てて俺に声をかけて来た。
「お客さん!すいませんねぇ、おじいちゃんおばあちゃんが騒いじゃって……!!なんでもないですからね!気にしないで下さい!」
「あーいや……実は、俺……八尺様と出くわしちゃったんですよ」
そう言った瞬間、老人達が顔色を変えて俺に言い放つ。
「あんちゃん!悪い事は言わねぇ!早くこの町から逃げろ!あんたは八尺様に魅入られちまったんだ!」
「そうだよお兄ちゃん!おばあちゃんも可哀想だけど、お兄ちゃんの為に言ってあげる!今からでも逃げなさい!」
なんだなんだ、こぞって逃げろ逃げろだなんて……。はーちゃんはそんなに悪い幽霊に見えなかったぞ?
逃げろと促された俺は老人達をなだめながら言い放った。
「まぁまぁ、おじいちゃんおばあちゃん落ち着いて。俺がもし、その八尺様を連れて行けば、この町は救われるんですか?」
そう言い放った瞬間、老人達は目を点にする。
「あんちゃん……あんた何言ってるか分かってんのか?」
「あんた正気かい!?八尺様を町の外に連れていくだなんて!?」
「いやぁ、俺もまだ分からないんですけど……どうやら俺は悪霊とか怨霊に強いらしいんですよ」
死にかけた時に手に入れた『霊感』的な能力を説明すると、老人達は希望が見えたかの様にザワザワし始めた。
「まっまぁ、そんな事が出来るなら……あんちゃんならやってくれるかも知れねぇな……」
「ええ、町に出た後にまたお地蔵様を直してしまえばこの町には帰って来られないですからねぇ」
「なにもお客さんが犠牲にならなくてもいいんですよ!?」
「大丈夫ですよ。もし死んでもおじいちゃんおばあちゃん達のせいになんかしませんから」
そう老人達に語りかけると、町長らしきおじいちゃんが覚悟を決めたのか、膝を叩きながら俺に言い放った。
「よしっ、ワシはこの若者に賭ける!もし、この若者が八尺様を連れて行って無事が確認出来ればワシの権力を使ってでも礼をさせて貰う!皆もそれで良いなっ!?」
「町長!?本気か!?見ず知らずの若者にこの町の運命を委ねるのか!?」
「そうだよぉ!長老さん!こんな若い人に任せるなんて!!」
他の老人達が町長に向かって言うと、町長は立ち上がって狼狽え始める老人達に言い放った。
「これはきっと仏様がワシらに与えてくださった最後の希望じゃ!ワシはこの若者ならやってくれると信じるぞ!お主らも腹を括らんか!!」
そう言い放った町長は、突然俺の前に座り込んで頭を下げ始める。
「見ず知らずの若者に頼むのも大変忍びないが……頼むっ!この町を救ってくだされ!!」
えぇ……いきなりシリアスな展開になって来たんですけど……もうちょい軽い感じで頼んでくれれば良いのに……こっちも連れて行く気マンマンだったから。
頭を下げる老人達に俺は駆け寄り、俺は慌てて町長に駆け寄った。
「やめて下さいっ!俺なら大丈夫ですから。明日の朝には連れて行くので……それで良いですね!?」
そう言うと老人達は仏様を拝む様に俺に手を合わせ始める。俺はあははと笑ってごまかした。
─────────────────────
翌朝、俺は帰り支度を整えて民宿の外に出ると、昨晩の老人達が見送りに来てくれていた。町長は杖をつきながら俺の肩を叩いて激励してくれた。
「もし、万が一失敗してもあんたを恨んだりせんからな!」
「元気でね!野菜とか送ってあげるからね!頑張るんだよ!」
「この道を真っ直ぐ行けば、神社があってね?そこを左に曲がっていくと、壊れたお地蔵様がある道に出るからね!そこから行けば大きな道路に出るからね!」
「あっはい……分かりました」
大袈裟じゃない!?戦争に行くような扱いなんだけど!?
「それじゃあ……壊れたお地蔵様の所から八尺様を連れて行くので」
「気を付けてね」
おじいちゃんおばあちゃんに見送られながら俺は車を発進させると、昨日はーちゃんと出会した神社に辿り着いた。車から降り、神社に向かって歩くと、狛犬に寄りかかっていた八尺様がいた。
「やっほー、はーちゃん」
「あっ……来てくれたんですね……えーっと……」
「そう言えば自己紹介まだだったね。俺は福島龍星ってんだ」
「あっはい!龍星さんですね!よろしくお願いします!」
八尺様はペコッと頭を下げ、俺に挨拶をしてくれた。そして、俺は八尺様に昨日の件を尋ねた。
「はーちゃん、昨日の件なんだけど?考えてくれた?」
「あっはい……その事なんですけど……お断りさせてください」
「えっなんで!?」
八尺様は悲しそうな顔をしながら俯き始めた。
「私……この町から出られないんです……。何十年も前から……”背が高過ぎる化け物”と恐れられて村人達にこの町に封じられて……色んな人に町を囲んでいるお地蔵様を壊して欲しくて近付いて来ましたが私……こんな姿ですから皆に怖がられちゃって……」
涙をポロポロと流す八尺様に俺は近付き、狛犬によじ登って八尺様の頭を撫で始めた。
「こんな時……なんて言ったらいいか分からないけど、お地蔵様1ヶ所壊れてるってよ?」
「うっうっ……こんな町……出て行きた……え?」
八尺様もバッと俺を見ながら俺に再度尋ねてくる。
「え?お地蔵……えっ、壊れた!?ほんとですか!?」
「うん、なんかーおじいちゃんおばあちゃん達も連れてってくれって」
「えぇ!?んじゃなんで封印したんですか!?意味分からないんですけど!?」
「なんで封印したんだろうねぇ、まぁいいや。この先のお地蔵様が壊れてるらしいからさ、俺と一緒に行こうよ!」
俺は狛犬から飛び降りて手を差し伸べた。八尺様は戸惑ったが、最後は嬉しそうに手を取って歩き始めた。八尺様は車をには乗れない為、車の屋根に乗せてお地蔵様の結界から出る事が出来た。八尺様は後ろを振り返ると、突然……。
「もうこんな町に戻って来るかバーーーーカ!私はもう自由だぁー!」
「八尺様!!何上で騒いでんだ!俺の他にも見える人いるからもしれないんだからなっ!?あんまり暴れんなよ!?」
「はーい☆空気が気持ちいいですねぇ!」
「良かったな!さっ!帰るぞ〜!」
「おっー!」
俺と八尺様は無事に、お地蔵様の結界から出て行き自分の街に戻って行った。高速道路に乗った時に、時々煽られたりするが、八尺様がものすごい怖い顔をして相手を睨みつけたりすると……相手も何かが見えたのか、ものすごい急ブレーキをかけて離れていった。
─────────────────────
夜になってようやくアパートに辿り着くと、八尺様は何かのアトラクションに乗っていたようなテンションで車の屋根から降りて来た。
「いやー車っていう乗り物は素晴らしいですねぇ!お馬さんより早いですし!」
「そんなに昔からいるんだね、はーちゃんって……さぁ、入って。ここが新しい八尺様のお家だよ?」
俺は玄関を開けると、八尺様は頭を下げながら部屋に入って行った。
「ちょ、ちょっと狭いですね」
「もうちょいしゃがんだ方が良いんじゃない?」
「こう、ですか?」
あっ……白
八尺様も視線を感じたのか、慌ててスカートを押さえ始めた。
「あっ!ちょっと龍星さん!?見ないで下さいよ!」
「そんな体勢で見せ付けられたらこちらも見なければ無作法と言うもの」
「なに訳の分からない事を言ってるんですか!?もうっ!」
ようやく部屋に入り、部屋で寛いでいると……突然スマホが鳴り出した。
ピロピロピロピロ
「龍星さん、その変な板が鳴いてますよ?」
「変な板って……コレはスマホって言って遠くの人と話せるの物なの」
「そうなんですねぇ……不思議な物が出来たんですねぇ」
って誰だよこんな時間に……明日のバイトの時間か?
俺はスマホを見てみると、『非通知』と記されていた。俺は首を傾げながら、電話に出た。
「はい、福島ですが?どちら様ですか?」
《もしもし……あたし、メリーさん》
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