八尺様のはーちゃん

 コックリさんと会話した後、ベッドに入り寝息を立てながら眠っていると、突然寝苦しくなり、目を覚ました。

 

 んん……今何時だ?

 

 スマホの時計を確認すると、深夜2時15分だった。

 

「ったく……中途半端な時間に目ぇ覚めやがって……ねよねよ」

 

 再び目を瞑って寝ようとした……その時。

 

 キシ……キシ……

 

 ん?何だこの音?

 

 寝た状態で目を瞑りながら耳をすましていると、リビングの方からフローリングを歩いているような音が聞こえて来た。

 

「歩いているような音が聞こえる……この感じ……あの子かな?」

 

 ってあれ?なんで今……”あの子”って特定出来たんだ?

 

 そう考えていると、襖を引く音が聞こえて来た。どうやら寝室に入って来たようだった。どんどん音が近付いて来て、横顔を覗かれている気配をものすごく感じていた。

 

 近っ!だが、ここでビビったらただのホラー映画だ、俺ならこうする。

 

 俺は寝返りをしたと見せかけて、顔を正面に向けた瞬間カッと目を開いて言い放った。

 

「女子が寝てる男に夜這いをかけるなんてお前っ、ビッチだなっ!」

「!?」

 幽霊は驚いたのか、慌てて俺から離れて、震える様な小さい声で幽霊は言い放った。

 

「なっなんで…?なんで【金縛り】にならないの!?普通なら口すら動かない筈なのに!!」

 

 言われて見れば……怪談体験談などでは王道の金縛りって奴になるよな?けど、俺……めっちゃ動けんだけど?。まぁいい、とにかくこの子はフリ〇ンを見たのにも関わらず、またやって来た……。という事は!!

 

 俺は布団を捲って少しスペースを開け、ベッドをポンポンと叩いた。幽霊は何をしているのか理解出来ず、首を傾げたので、俺は丁寧に教えた。

 

「まぁ、こんな夜中に来るって事は俺に用があるんだろう?。立ち話もなんだし、ここに来て一緒に寝ようよ」

「えっ……えぇ!?」

 

 幽霊は顔を真っ赤にさせて、オロオロと狼狽え始めた。

 

 いやそんなラブコメ展開いいから、幽霊の癖に乙女になってんじゃねぇよ

 

 モジモジしている幽霊に痺れを切らし、ベッドを更に強く叩いた。

 

「はようっ!!何もしないから!ねっ!?はようっ!!」

「ひいっ!!」

「「ひいっ!!」じゃねぇよ。驚かせる側がなんで驚いてんだよ!そんな焦れったいから早く!おいでっ!……ニチャア」

 

 俺の顔が幽霊も余程怖かったのか、飢えた獣を目の当たりにした小動物の様にブルブルと震えながら胸元を手で覆いながら後ずさりをし始めた。

 

「ごっごめんなさい……ごめんなさい……もう帰りますから……」

「こんな時間にどこ行くの!?夜道は危ないよ!?泊まってけよ!」

「いっいや、私……幽霊ですから……」

「何言ってんだ!女の子1人でこんな真夜中の夜道を歩ける程今の世の中は平和じゃないんだぞ!?変態不審者が出て来たらどうするんだ!!」

「その変態不審者は今私の目の前にいるんですけど……」

「幽霊のクセに口答えすんじゃねぇっ!あーもー焦れったい!ベットに引きずり混んでやる!!」

 

 俺はベッドがズルりと滑るように這い出て四つん這いになりながらゴキブリの様にシャカシャカ動き出し、幽霊の元に近付こうとした。

 

「一緒に寝ようよおぉぉぉ!!フハハハハハハハ!!」

「ひいぃぃっ!?……怖いよぉ!!助けてぇぇぇ!!」

 

 幽霊は化け物を見たように慌てて襖と窓をすり抜けて再び逃げて行った。四つん這いの状態で窓まで行くと俺は舌打ちをしながら立ち上がって窓を開けて夜中なのにも関わらず、夜空に向かって叫んだ。

 

「今度はもっと可愛らしい服装して来いよぉぉっ!!」

 

 そう叫んだ俺は、何事も無かったかのように窓を閉めて再び寝室に向かって眠りに付いた。

 

 ─────────────────────

 

 数日後、バイトの休みを利用して予定通りにコックリさんに教えて貰った【八尺様】を探す為に車で2〜3時間かけてようやく〇〇県〇市に向かっていた。道中の高速のパーキングエリアに立ち寄った俺は、改めて八尺様の事を携帯で調べていた。

 

 八尺様とは、いくつかのバリエーションが見られるが、主に白いワンピースと帽子を着用し、八尺(約240cm)に達するほど背が高いことなどを特徴としている。目撃者は数日のうちに殺されるとされている場合が多いという。

 

 ふむふむ……改めて考えると八尺様と言うのは恐ろしい怨霊らしい。だが、それがどうした!ビビったら負けだ!

 

 コーヒーを飲み終えた俺は空き缶をゴミ箱に捨てて車に乗りこみ、目的地に向かい、当日の昼前に到着する事が出来た。事前に予約しておいた民宿に到着した俺は、荷物を部屋に置き、縁側でお茶を飲みながら休んでいた。

 

「ふぅ……案外遠く感じたなぁ……ってか、八尺様ってホントにいるのかなぁ〜?」

 

 そんな事を呟きながら、空を眺めていると民宿の生垣の上からニョキっと麦わら帽子が見えた。

 

 あんな所に麦わら帽子が……どっかのお姉さんが風で飛ばされちゃったのかな?

 

 首を傾げながらその麦わら帽子を眺めていると、麦わら帽子が横に滑るように動き出した。突然動き出した麦わら帽子を見て俺は、盛大にお茶を吹き出した。

 

「ぶふふぅーーーー!動いた!?えっなに!?嘘っ!?手品!?」

 

 真実を確かめる為に俺は護身用の『塩水』が入った霧吹きを片手に、民宿の入口から出て見た場所に辿り着くと、先程の麦わら帽子は消えていた。

 

「あれっ!?おっかしいなぁ……さっきまであったのに……誰かのイタズラだったのかな?」

 

 おぽぽぽぽ……。

 

 突然、「ぽ」が特徴的な笑い声?見たいな声が後ろから聞こえて来た瞬間、背筋がゾクッとした。

 

 なんだこの感じは!?

 

 恐る恐る振り返ると小さいお稲荷様の祠の隣に……めちゃくちゃ背が高く、黒く艶のある髪に白いワンピース姿の女性が立っていた。

 

「ぽっぽっぽっ」

「もしかして……本物……?」

 

 八尺様らしき女性は微笑みながら俺を見ていた。流石の俺も怖くなり、一目散に逃げ出した。

 

 やばいやばいやばいやばい!アレはマジでやばい!

 

 土地勘のない町を走り続けてしまった俺は、いつの間にかどこかの神社まで逃げて来ていた様だった。ゼーゼーと息を切らしながら狛犬の影に隠れた。

 

「はーっ、はっー、ここ……まで、来れば……」

 

 息を整えながら俺は神社の入口を見てみると、八尺様らしき人は見えなかった。安心した俺は汗を拭って来た道を戻ろうとしたその時……。

 

 ぽっぽっぽっ……。

 

 ぽっぽっぽっと声が辺りに響き渡り、俺はバッと横を向くと……。

 

 オージーザス……いつの間にかフラグを立てて回収していたかっ!!

 

「うおっ!?いつの間に!?」

「ぽっぽっぽっ……」

 

 俺は神社を背に腰を抜かしながら後ずさりをしていると、八尺様は近付いて来た。俺は護身用の塩水入りの霧吹きを向けた。

 

「とっとまれ!動くなっ!動くと霧吹きで反撃するぞ!良いのか!?」

 

 俺は威嚇する為にシュッと1発霧吹きをするが、八尺様はニコニコしながら近付く。

 

「うぎゃぁぁぁぁああああ!!来るなぁぁ!!」

 

 シュッシュッシュッシュッシュッシュッ!

 

 俺に触れようと手を伸ばして来た八尺様に向かって俺は目を瞑りながら一心不乱に霧吹きを乱射した。

 

「きやぁっ!?」

 

 突然、可愛らしい声の悲鳴が聞こえて来た。

 

 ん?俺の悲鳴じゃない?えっ?誰?

 

 恐る恐る目を開けて八尺様を見てみるとそこには、霧吹きの水分で青白いワンピースがピタピタになって透けていた。

 

「こっこれは……?」

「やっやめてください!」

 

 おや!?八尺様のようすが……!!

 

 八尺様は恥ずかしそうにモジモジしながら胸元や下半身を塩水で濡らさない様に隠していた。チャンスを感じ取った俺は怯んだ瞬間を見切り、反撃を開始した。

 

「こんにゃろー!くらえぇ!!」

 

 シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ!!

 

 円を描くように俺は八尺様を軸にグルグルと周りながら霧吹きで攻撃すると、八尺様は顔を真っ赤にさせながらしゃがみ始めた。しゃがんだとしてもまだ背が高いので格好の的である。

 

「ひゃあっ!やっやめて下さい!冷たいです!やめて下さい!!」

「オラオラ!パンツ透けてきたんじゃないのかぁ!?あぁん!?脅かしやがって!!パンツ何色か拝んでやる!!」

 

「いやぁぁっ!やめてぇぇー!分かりました!何もしませんから!もうっ、やめて下さい!!」

「ホントに何もしないんだな!?約束だぞ!?」

 

 ─────────────────────

 

 攻撃を一旦止めて距離を置いて座りながら話しを始めた。

 

「つーか、言葉話せるの?」

「はい……話せます」

「んじゃさ、その癖の強い「ぽっぽっぽっ」って言うの?ネットですんごい書かれてるよ?」

「ねっと?、ねっとってなんですか?」

 

 なんだ、ネット知らないのか。

 

 首を傾げる八尺様に俺はポケットからスマホを取り出し、八尺様本人に自身のネット情報を見せると、不思議な物を見るようにまじまじと見つめ始めた。

 

「そうなんですね……私、そんな事意識した事なくて……」

「無意識で出てたの!?」

「はい…おぽぽぽぽ!!」

 

 八尺様は口元を片手で隠しながら気品を感じる笑い方をして笑い出した。

 

「ほらほら!出てるじゃん!」

「ああっ!すいません!すいません!」

「なんか……可愛い」

 

 八尺様は頬を赤らめながら指をツンツンしながら照れ始めた。

 

「かっかわいいだなんて……そんな……私、背が高いので皆に怖がられてますし……」

「そんな事ないよ、もうちょいキモイ系をイメージしてたんだけどさ、めちゃくちゃ美人だし」

「はっはうぅ……」

 

 八尺様は耳まで赤くさせながら両手で隠しながら照れ始めた。そこで、俺はある提案を出した。

 

「ねぇ、八尺様」

「なっなんですか?」

「俺と住まない?」

「えっ!?何言ってるんですか!?私、幽霊ですよ!?」

「うん、知ってるよ?話して見て八尺様……なんか長ぇな、『はーちゃん』は優しそうだし?俺一人暮らしで寂しいからさ?良かったらどーかなぁって思って」

 

 そう言うと八尺様は照れ半分困り半分な複雑な顔をしながら考え始めた。

 

「まぁ、明日までに考えといて?俺はさっきの民宿に止まってるからさ」

「はっはい……」

「服……大丈夫?乾いた?」

「えっあっはい、もう乾いてます。幽霊ですから」

「そっか、んじゃ。また明日ね!はーちゃん!」

「はい、また明日……」

 

 俺は八尺様に手を振って、民宿に戻って行った。

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