トイレの花子さん
八尺様、メリーさんと住み始めてしばらく日にちが経った。その間に約束通りに八尺様のいた町に安否を知らせる為に泊まった民宿に連絡すると、「良かった!無事だったか!」と町長さんから安堵の声が漏れた。本格的に八尺様やメリーさんと暮らし始めて1ヶ月後……夏が近くなり毎日暑い中で俺がバイトから帰って来ると、八尺様とメリーさんが出迎えてくれた。
「ただいま〜」
「お帰りなさい、龍星さん!お仕事お疲れ様でした!」
「おかえり〜」
「疲れた〜今日は2人とも大人しくして───」
俺は茶の間に向かうと……。
「えっ……なにこの惨状」
俺が見たのは、ひっくり返ったテーブル、何故か壁に向いているテレビ、大事にしていたラノベ小説達は畳にぶちまけられていた。
なにがあったの!?
状況を把握出来ない俺は、八尺様とメリーさんに尋ねた。
「ねぇ?この部屋にだけ大地震でも起きたの?」
「あっいや、その……あのですね?」
「あたしは止めたんだよ?けど、八尺さんが「少しでもお役に立ちたいんです!」って言って聞かなかったの」
「はーちゃん?どういう事?」
俺は顔を引き攣らせながら八尺様に聞くと、八尺様はビクビクしながら俺に訳を話し始めた。
「じっ実は……少しでも龍星さんのお役に立ちたくて、お部屋のお掃除をしようかと……」
掃除?コレが?
俺は辺りを見渡し、八尺様に言い放つ。
「はーちゃん……これは掃除やない。【ポルターガイスト現象】や」
「ぽ、ぽるたーがいすとげんしょう?」
「よく分からないけど、あたし達みたいな幽霊と何か関係があるの?」
八尺様とメリーさんは首を傾げながら俺にポルターガイスト現象の事を聞いて来た。俺はため息を吐きながらスマホを取り出してネット検索をして八尺様とメリーさんに見せた。
ポルターガイスト現象……幽霊が引き起こすと言われる現象で、物体の移動としては、主として建物内部に設置された家具や、家具内に収納された日用雑貨などが挙げられる。発生する状況は一貫性が無く、住人が就寝中に移動し、起床後いつのまにか移動しているのを確認されるものもあれば、住民が起きている時に移動し、移動している状況を直接目撃されるものもある。動き方にも一貫性は無く、激しく飛ぶこともあれば、ゆっくりと移動することもある。だが、これはあくまでも一般的な幽霊が引き起こす事であり、怨霊の八尺様の場合はそれらの数倍と言えるだろう。
「ね?これはもう一般的なポルターガイスト現象じゃないの。怨霊が引き起こすスーパーポルターガイスト現象なの。掃除するなとは言わないけど、もう少し優しく掃除してくれ」
「はい、すいませんでした……」
俺は心を鬼して八尺様に注意を促すと、八尺様は怒られたのがショックだったのか、しゅんとした顔して反省をしており、メリーさんは八尺様を慰めるように肩や頭をポンポンとなぐさめられていた。
「さてと、明日は久しぶりの休みだなぁ」
「そうですねぇ、龍星さんどこか連れてって下さいよぉ〜」
「あたしも〜、毎日こんなひんやりした部屋にいると気が滅入っちゃう」
このアパートにはクーラーがないのに何故かこの部屋は肌寒いくらい空気が違う。怨霊が住み着いたのが主に原因なのだが電気代がかからないのが唯一の救いだった。
監禁してる訳じゃないけど、少しは気晴らしにどこか連れて行っても問題は無いだろう……ならどこに行こうか……
俺は八尺様とメリーさんにどこか行きたい場所が無いか聞いてみた。
「どこか行きたい所ある?」
「そうですねぇ、静かな所で薄暗い場所が良いですねぇ」
「出かけるなら夜がいい、外明るいもん」
流石怨霊、昼間でじゃなく夜に出掛けたいと言い出しやがった!
「真夜中の静かな所で暗い所ってもう、肝試ししかなくない!?」
「肝試しですか!良いですねぇ!おぽぽぽ〜♪」
「あたしも賛成!他の幽霊に会えるかなぁ!楽しみだなぁ!」
八尺様とメリーさんが賛成為、やる事は決まった。だが……肝心の行先は決まっていなかった。
肝試しをすると言っても場所によっては土地の所有者は存在している為【不法侵入】や【住居侵入罪】などで簡単に入れないのが現実。さて、どうしたもんか……。
俺は部屋を片付けながら考えていると、
「えぇ〜、肝試しって言っても、近くにあるかなぁ」
スマホを取り出して合法的に行ける心霊スポットを調べてみた。だが、殆どの建物は訪れる若者達により荒らされて所有者が完全に入り口を塞いだというのが多く記録されていた。
「はぁ……ネットで有名な場所はやっぱり無理かぁ」
「そうですか……諦めるしかないですかねぇ……」
「え〜つまんなーい」
落ち込む八尺様、不貞腐れるメリーさんの言葉を聞き流しながら倒れたタンスを起こすと、コックリさんの紙が落ちていた。コックリさんの紙を見た途端、俺は閃いた。
「コックリさんに聞いてみるか……」
「こっくりさん?どなたですか?それは?」
「あたしも聞いた事なーい、龍星ー、誰なのそれ〜?」
「スマホより物知りな人さ。ちなみにコックリさんのお陰ではーちゃんに会えたんだからね?」
「そうなんですか!?すごい人なんですねぇ!」
そう言って俺はひっくり返ったテーブルを起こしてコックリさんの紙を開き、コックリさんを呼び出した。
「コックリさん、コックリさん、おいでください」
返事がない……この前の事で怒っているのだろうか?
俺は首を傾げながらもう一度、コックリさんを呼んでみる事にした。
「コックリさん、コックリさん、おいでください」
しーん……。
「来ないですねぇ?」
「龍星がなんか失礼な事でもしたんじゃないの?」
「失礼なっ!パンツが何色かとか、スリーサイズとかしか聞いてないもん!」
「めちゃくちゃ失礼な事聞いてるじゃん」
「そうですねぇ……」
おや?幽霊のくせに人間をゴミを見るような顔をしてますね。
冷たい視線を浴びながら再びコックリさんを呼んでみた。
「コックリさーん、この前の事はあやまりますからぁ」
スッー!
俺の言葉が聞こえたのか、10円玉を動かしたコックリさんがやって来た。
なに?(´・Д・`)
「あのですね、今回は簡単な質問なんですけど〜。合法的に行ける心霊スポットとか教えてくれませんかね?」
俺がコックリさんに尋ねると、コックリさんは10円玉をすっすっと動かして答えてくれた。
○○県○○市立の旧○○小学校なら今なら入れるよ?( ¯•ω•¯ )
「マジっすか!?有難うございます!助かりました!」
んじゃ、用が済んだなら帰るね?*-ω-)ノ
10円玉をスーッと動かして鳥居の場所に移動して行き、10円玉は動かなくなった。俺はスマホで旧○○小学校を調べると、アパートから約1時間で到着する田舎の学校のようだ。この旧○○小学校は今は地元の自治体が管理しているらしい。俺は、記載されていた自治体の電話番号に電話をかけて『動画撮影の為、夜の2時間だけ撮影させて欲しい』と問い合わせみると、「物さえ壊さなければ問題ない」と言われて許可を得た。
「よし、許可も貰ったし、今から行くか!」
「やったー!」
「わーい!お出かけだー!」
─────────────────────
2時間後、俺はナビを頼りに旧○○小学校に辿り着いた。途中、自治体の管理者から合鍵を預かり、帰る時はポストに入れて置いてくれと言われた。俺や八尺様、メリーさんと学校を見上げた。学校のは昔ながらの木造作りで、3階建ての小学校だった。
「うん、不気味だな」
「そうですね!けど、静かでとっても過ごしやすい所ですねぇ!」
「こんな近くに隠れた名所があったなんてね」
歩いていくと、俺はピリピリと重苦しい空気を感じ取った。俺は学校の窓を見て呟いた。
「すごい嫌な感じだなぁ、はーちゃんの時と少し似てるかも」
「えっ!?んじゃ、私たちと同じような幽霊が?」
「こんな所にどんな奴がいるっていうの?」
俺は立ち止まって目を瞑ってこの雰囲気の持ち主を探ってみると、女子トイレが少しだけ見えた。俺は目を開いて、呟いた。
「なるほど……”あの子”か」
「龍星さん?もしかして分かったんですか?」
「誰なの?どこにいるの?」
八尺様とメリーさんに言われた俺は、3階の窓に向かって指を指した。
「校舎の3階のトイレに潜む……【トイレの花子さん】だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます