Episode.20 課外学習(5)
「そっちは見つかった?」
「まだ…でも、いそうなところには大方目印をつけておいたから……その辺りをみんなで手分けして探してみよう…?」
二日目の昼過ぎ、昼食を摂った一行は再びラハシャ湖を探索していた。未だに
「とりあえず一旦休憩にしようか。ずっと潜っているのも疲れてしまう」
クラインの言葉に珍しく頷いたアイラが飲み物を持ってくるのを合図に、一行は前日も使っていたテーブルに集まった。
「私たちは北側の探索をしてて…地形変化の痕跡っぽいものは、私が見つけた二箇所と…ユウカとリオンが見つけてくれた五箇所。南側になければ、合計は七箇所かな……」
「あったよ、こっちは少なかったみたいで三箇所だけ」
「ってことは、湖全体で十箇所……」
多いね、とつぶやいて、ユウカが持ってきてくれた湖の地図に印をつけていく。いびつな円の形についた印を見て、アイラはどう調べるのが効率的か考えているようだ。
「算術は苦手なんだから、無理はしなくていいんじゃないかい?」
横からクラインに声をかけられて、真剣な表情をしていたアイラの眉間にグッと皺が寄る。
「……近い距離のところから回っていって、一周…これくらいなら、算術が苦手でも…」
一瞬僅かな怒りを覚えたような顔をするが、すぐにいつもの表情に戻って口にする。なんだつまらない、とでも言いたげな顔で身を起こしたクラインを一瞥して、アイラも立ち上がる。
「…私達はまた北側を調べるから、クライン達は南側を……」
「いや、逆にしてみよう。お互い見落としていたものが見つかるかもしれない」
いつもはアイラを苛立たせるばかりのクラインが、珍しく正論を口にする。
「……わかった、じゃあ…それで。お互い、溺れたり怪我したりしないようにね」
普段なら嫌味の応酬が始まりそうなものだが、今日はそれすらもなく静かに話がまとまった。アイラとクライン以外の四人が安堵のため息をもらしたことなど、当事者たちは知る由もなかった。
―♦――♦――♦――♦――♦―
もうすぐ日が沈むかという時刻、一行は最後の探索へと繰り出していた。ここで見つけられなければ別の対象を探して一から作業をする必要があり、アイラとしてもクラインとしてもそれは避けるべき事象だった。
「……あ…!」
もうそろそろ陸に上がろうかという時、リオンの眼の前を銀色の影が横切る。驚いたらしく大きく開かれた口からこぽこぽと泡が溢れた。
頭上から水面を打つ音が聞こえて、アイラはゆっくりと浮上する。
「アイラ!みつけたかも!」
半ば咳き込みながら告げるリオンの声に、心臓が高鳴った。これでようやく、苦手な水泳から逃れることができる。
「あんな深い場所に銀色の魚なんて珍しいと思って…!」
そう言うなり再び潜っていったリオンの後をついていくと、先程クライン達が見つけた場所のさらに奥にたどり着く。どこか幻想的な景色の中で銃魚は、通常の魚より遥かに硬い殻に覆われた卵の周囲を慈しむように泳いでいた。
喜びとともに、課外学習はそっと終りを迎えた。アイラ達六人の研究発表は銃魚の希少さからか高く評価され、アイラとクラインはそれまでより少しだけ仲良くなったという。
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