Episode.16 課外学習(1)
帝都から東に翔馬車で一時間ほど。小さな町の奥に、貴重な生き物の多く住まう森があると言う。
「わぁ、綺麗……!」
目を輝かせて窓から身を乗り出したリオンが落ちてしまわないように制服の裾を掴みながら、アイラも横から下を覗く。
「…ほんとだ…きらきらしてる……」
森の中央にある湖が夏の溢れるような陽の光を反射して煌めく様に、周囲からも感嘆の声が上がる。
「もうすぐ地面に降りますから、あまり身を乗り出さないように」
教師の注意すら耳に入らないほどに目を奪われる景色が近付き、僅かな衝撃と共に翔馬車が地に降り立つ。半周ほど湖の周りを巡り、ゆっくりと速度を落として静かに停まった馬車から降りると、目の前には真っ白な建物があった。
リオレンタの高等部1年生、その中でも生物学を専攻している生徒にとっての夏の風物詩、ラハシャ湖及びその周辺での生物観察。早い話が、課外学習である。
「皆さんには今から3人組で活動していただきます。2泊3日の間に、興味深いと思った生き物についてのレポートをまとめてください。生息域は問いませんが、この湖から見えない範囲は危険である可能性が高くなるので注意すること」
特に東へは行き過ぎないように、との言葉で諸注意が締めくくられ、あとは知り合いと組むために各々が声をかけ合う。
「アイラ、ユウカ!」
もちろん一緒に組むよね?とでも後に続きそうな勢いでリオンに声をかけられ、2人顔を見合せて笑う。
「うん、一緒に組もうか」
アイラ達の後にも知り合い同士で次々に3人組ができていき、観察する生物を決めるために千々に駆け出していく。多くの者が湖の中から観察対象を選ぶため、鞄の中から水着を探り当てて引っ張り出しているようだ。
――無論、アイラ達も例外ではない。
「よーし!張り切っちゃうぞ!」
子供のようなかけ声であっという間に着替えたリオンに続いて、抜群のプロポーションを遺憾無く発揮するユウカ、恥ずかしげに水着の上からカーディガンを羽織ったアイラ、の順に更衣室から出てくる。
「なぁ、あの3人……」
同学年の中で美人三人衆として密かに人気を馳せている彼女らが水着を着ているとなれば、当然目立つ。当人達はそんな事に関心を向けてなどいないのだが。故に、自分達に近づいてくる男子生徒達がどんな感情を持っているのか、など想像もしない。
「あ、あの、さ。俺たちも湖行くんだけど…よかったら一緒に……」
下心を顔に滲ませた男子生徒に話しかけられて、アイラは目を瞬いた。
「えっと、3人ひと組…なんだよね、なら、あなたが入ったら4人になっちゃうし……」
困り顔でやんわりと断ろうとしたアイラの後ろから、別の生徒が肩を掴んでくる。ひっ、と声を洩らしたアイラの顔を覗き込むようにしながら正面に回り込んできた生徒は、下卑た笑みを浮かべていた。
「見えてなかった?3人いるんだよ」
あっという間に囲まれてしまった3人は、顔を見合せた。
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