Episode.15 生まれた日
「アイラ、お誕生日おめでとう!」
三人揃った声が広くはない部屋に響き、アイラは目を開ける。お祝いと称して叩き起こされるのは七空に選ばれた記念の日以来だった。無駄だとわかっているが、「あとごふん…」と言ってみる。当たり前のように引き剥がされた毛布はまた床に落とされ、情けなくしわくちゃになった。
「今日は朝から食堂に特別メニューを頼んでるんだから、早く起きなきゃ困るの!」
「また私のためにそんな……」
卑屈になりかけたアイラの額を、バーナードが指で弾く。
「ぁだっ……なに、バーニー」
「お前、自分のことそんなに嫌いだったか?」
額を押さえてうー、と唸れば、バーナードは再び口を開く。
「俺の知るアイラは、祝われれば素直にありがとうと言える優しい子だぞ」
「それじゃあ私の知るバーニーは人のおでこを痛めつけたりしない人だよ」
言い返しながらのろのろと起き上がり、改めて見飽きた三つの顔を見回す。
「……ありがとう。嬉しいよ」
春告花の散る季節、祝福するような日差しに照らされて食堂へ向かう。
「私、アイラが誕生日にプレゼントもらってるの見たことないんだよね」
「んー?……ああ、えっとね。普段はあんまり直接もらわないから。いつも放課後にまとめて届くの」
リオンに言われてそう答えると、驚いたような顔をされる。
「私はいっつも直接渡しにきてもらえるけど……あ、アイラたちは故郷が遠いんだっけ…」
途中で気づいたのか小さくなっていく声に、気にしないでいいよと返す。
そのうちに食堂に着き、三人はアイラを席に座らせて食事を受け取りに行った。ほどなくしてアイラの眼前には普段食べている食事より数段豪華なそれが並ぶ。
「わ、おいしそう……」
砂糖のたっぷりかかったふわふわのパンに、特製のソースがたっぷりかかった竜鳥卵のオムレツ。湯気の立ち上るスープには彩り鮮やかな野菜がこれでもかと入っている。デザートの果物はすべてみずみずしく、普段は見かけないものもあった。
「今日のために一週間前からお願いしてたからね〜。四人分用意してもらうの、大変だったよ」
誇らしげに胸を張るリオンに、食べたかっただけでしょとユウカが呆れてみせる。まだ誰もいない食堂にいい香りが漂い、なんとなく悪いことをしている気分になった。
「ほら、早く食べないとみんな朝ごはん食べに来ちゃうわよ」
ユウカに急かされ、四人で座る。故郷での食事を思い出して、アイラの胸に温かいものが広がった。
「ん……このオムレツ、いつもより大きい?」
「ほんとだ。いっつもソース余っちゃうけど今日はちょうどいいね」
それぞれに思い思いの感想をこぼしながら、ちょうど他の学園生が朝食を食べに来る少し前に食べ終わる。スープの温度以上にあたたかくなった心を抱えて、その日は一日高揚感に包まれていた。
―♦――♦――♦――♦――♦―
授業が終わって部屋に戻る。着替えてしばらく授業の復習をしていると、ノックの音がして顔を上げた。
「グランティアさんにお荷物でーす」
ドアを開ければ、これまでのどの年よりも多いプレゼントの山を抱えた配達員がいた。
「全部テオレインから。いつもより多いのはどうして?」
問いかけてくる配達員に、アイラは笑いながら答えた。
「多分、今年はみんなの気持ちが大きかったんですよ」
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