Episode.14 礼装

アイラたちのもとに入学式の案内が来たのは、帝都の新入生に見慣れた頃だった。


「15人も来るなんて、珍しいね」


「だな……俺らが『選ばれた』からかもしれねえなぁ」


昨年も一昨年も、テオレインからの入学生は10人に満たなかった。それが一気に増えたのは、恐らく故郷から二人も七空が選ばれた誇らしさか。


「あさって……楽しみだね。久しぶりに会う子たちばっかりだし」


ふと名簿の中にひとつ下の学年にいる友達の弟の名を見つけて、アイラの顔がふっとほころぶ。


「みて、兄弟でリオレンタ。いいなぁ、なんだか楽しそう」


「あー?…おぉ、アルのとこの。あいつももうそんな年かあ」


おじいちゃんみたい、とからかって、幼馴染より一歩先に翔馬車に乗り込む。七空になるにあたって礼装を用意しておいたほうがいいと言われたため、ちょうど学校が休みのタイミングで採寸をしに行ってしまおうと考えたのだ。


「アイラはドレスだもんな。大変だなぁ」


「…背広も窮屈そうだけどね」


ハッとしたような顔をするバーナードを笑い、すぐに帝都へたどり着いた翔馬車を降りる。


「ユウカのおうちが礼装の発注もしてるなんて知らなかった…ああでも、そっか。貸すならどこかから買わなきゃだもんね」


礼装など買ったことがなく、どの店へ行っていいのかと頭を抱えていた二人に声をかけてくれたのがユウカだった。ユウカの実家で採寸から発注まで済ませてもらえることになり、アイラとバーナードは手を取り合って喜んだのだった。


もらったメモの通りに道を進み、余分な装飾を取り払った外装の店にたどり着く。扉の横が出窓になっており、その中にはレースがたっぷり使われた真っ白なドレスが飾られていた。


ドアを開けるとチリンと鈴が鳴り、奥から夫婦が出てくる。


「お待ちしてましたよ。いつもユウカがお世話になっています」


ユウカによく似た柔和な雰囲気をまとう夫婦に、二人の緊張も緩む。


「いえ、こちらこそお世話になってます」


「じゃあ、早速だけど……アイラさんは私が、バーナードくんは夫が、採寸させてもらいますね」


―♦――♦――♦――♦――♦―


「ええっ、それじゃあユウカって昔は……」


「そうなの。パン屋さんになるって聞かなくって。でも、結構重労働だって知ったら手のひらを返してね。私たちの後を継ぐって言ってくれたのは最近なのよ。それが嬉しくて嬉しくて…あ、ユウカには秘密にしておいてね?あの子、私がこんなこと友達に言ってたって知ったら怒るから」


秘め事を共有し、顔を見合わせて小さく笑い合う。世間話をしながらも、ユウカの母親はテキパキと採寸を済ませてくれた。


「……おー、遅かったな」


採寸が終わって戻ってみると、バーナードはすでに戻ってきていた。


「女の子は時間がかかるのー!」


わざと拗ねたような言い方を選んでみると、少し申し訳なさそうな顔をされた。


「それじゃ、礼装は二人の印象に合わせて仕立ててもらうようにするから……次のお休みのとき、仮縫いをしましょうね」


にこやかに見送られて店を出ると、ちょうど昼時だった。最近できたらしい料理亭で食事をして、表通りで少し買い物をした。休日はあっという間に過ぎてしまうもので、気がつけば夕暮れの光が街を包んでいた。


「……帰ろうか」


少し感傷的になってしまったアイラが促し、二人は寮へ戻る。翔馬車を降りたとき、バーナードが突然細長い箱を取り出した。


「…これは?」


「もうすぐ誕生日だろ、アイラ……おめでとう」


箱の中には、アイラがずっとほしいと思っていた竜鳥オシェルドレイクの羽ペンと、済んだ秋空のような青いインクが入っていた。


「わ…ありがとう、バーニー。大事に使わせてもらうね」


部屋に戻ってからも、アイラは幸せな気持ちでペンを眺めていた。バーナードのサプライズはアイラを幸せの絶頂へと押し上げたようだった。

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